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ソマリア:レイプに脅える女性たち

2014年03月21日 18時49分 JST | 更新 2014年05月21日 18時12分 JST

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A Somali woman walks alone in central Mogadishu. © 2013 Samer Muscati/Human Rights Watch

モガディシオ市内では多くの女性と少女たちが、常にレイプの恐怖のなかで暮らしている。ソマリア政府は性暴力と闘うと約束してはいるが、女性保護と被害者支援の実態は改善していない。

リーズル·ゲルントホルツ、女性の権利局局長

■新内閣に求められる「性暴力抑制5項目計画」の実行

(ナイロビ)-ソマリア新内閣はまん延する性暴力を止めるため、実効性のある改革を速やかに実施すべきだ。ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日、ソマリアにおけるレイプなどの性暴力の実態をまとめた報告書を発表。この1年首都モガディシオで、少女や女性たちがレイプなどの性的虐待の多発に苦しんできた実態を、この報告書は浮き彫りにしている。加害者の中にはソマリア軍兵士もいる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ女性の権利局局長のリーズル·ゲルントホルツは、「モガディシオ市内では多くの女性と少女たちが、常にレイプの恐怖のなかで暮らしている」と指摘する。「ソマリア政府は性暴力と闘うと約束してはいるが、女性保護と被害者支援の実態は改善していない。」

報告書「ここではレイプは日常のこと:ソマリアにおける性暴力抑制のための5項目計画」(全72ページ)は、「レイプの抑制」「被害者に対する即時かつ緊急支援の提供」「性的虐待に終止符を打つ長期的な取り組みの展開」を目標とした包括的戦略で、ソマリア政府と援助国・機関のためのロードマップである。本報告書が焦点を当てたのは、予防策の改善や緊急医療サービスのアクセス強化、法の裁きの確保、法律・政策の改正、男女平等の促進だ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは本報告書作成に向け、レイプ被害に遭った首都モガディシオ在住の女性27人に聞き取り調査を行った。一部の証言者は複数回にわたり、異なる加害者に襲撃された経験を持つ。すべての事件が2012年8月に新ソマリア連邦政府が発足した後に発生している。

これら事件は、首都モガディシオを含むベナディール州で発生。同地域は主に政府の支配下にあり、司法制度や医療サービスを含む治安の改善と政府機関の再建に向け、これまで資源が投入されてきた。

国の治安部隊関係者を含む武装した加害者が、極めて多数の女性や少女たちに性的暴行を加えたりレイプし、銃や刃物で傷を負わせてきた。内戦と飢饉によりソマリア全土で自宅から避難せざるを得なくなった避難民の女性と少女たちが特に、性暴力の被害者になりやすい。国内避難民収容キャンプ内や市場に向かう途中、農地を耕したり薪を集めている際中に被害に遭っているのだ。

ソマリアでは性暴力の加害者が裁判にかけられることはほとんどなく、その結果、レイプ事件に歯止めがかからない。国内避難民収容キャンプ内の仮設住宅で集団性的暴行を受けたシャムソ(34歳:以下、安全確保のため証言者名はすべて仮名)は、不処罰のまん延が性的虐待を助長していると語った。「順番にレイプされたわ。被害者女性のほとんどはキャンプに住む避難民だから、男たちは発覚を恐れることさえなかったわ。レイプの最中に、犯人のひとりは『このことは誰に言ったってかまわない。怖いものなんかないからな』って言っていました。」

国連は首都モガディシオにおいて2013年上半期だけで、800件近い性暴力事件あるいは女性に対する暴力事件が発生したと報告しているが、実数はそれをかなり上回ると思われる。被害者の多くはレイプや性的暴行の被害を届け出ない。なぜなら、司法制度に信頼がおけないので、届け出ても無駄だと考えられている上に、医療や司法などの公共サービスがあるのを知らなかったり知っていても受けられないでいることも多いからだ。また、届け出ることでかえって報復されたり、社会的に差別されることも恐れている。ヒューマン・ライツ・ウォッチがレイプを届け出ない理由をある被害者にたずねた際、彼女は肩をすくめて言った。「ソマリアでレイプはよくあることなの。ここでじゃレイプが日常なの。」

国連児童基金(ユニセフ)によれば、ソマリアにおける性暴力被害者のうち約3分の1が18歳未満の子どもだ。

政府は性暴力を「優先課題」として「包括的」に対処すると約束しているが、これまでほとんど何の変化ももたらしていない。新政府は特に国内避難民コミュニティにまん延するレイプ問題に対処すべく、緊急かつ具体的な措置を講じる必要がある。

■ソマリア政府の対応

ヒューマン・ライツ・ウォッチは2014年2月初旬に、首都モガディシオで様々な政府関係者と会談。女性参画・人権発展担当新大臣や大統領政策部担当者などは、性暴力問題と闘うという政府の約束を改めて強調。政府当局者は特に、性暴力あるいは性別に基づく暴力事件に対処する具体的な条項を盛り込むため、政府の国家ジェンダー政策案を見直す意向を示した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはソマリア連邦政府に、治安部隊要員などによる性暴力を予防し、加害者の責任を追及するための厳しい措置を強く求めた。性的虐待を訴え出た被害者が、治安部隊や情報機関から報復を受けないことを確実にするのに必要な手立てを、政府は最優先課題に据えるべきだ。実際2013年にこうした事件が3件起き、大きな注目を浴びている。

前出のゲルントホルツ女性の権利局局長は、「女性に対する暴力事件が広範に起きており、ソマリア政府は大変な課題に直面している。対応するためには、包括的な措置が求められる」と指摘する。「勇気をふるって名乗り出た被害者が報復されている現状を改め、ソマリア政府は治安部隊関係者を含む加害者の訴追に力をさくべきだ。」

ソマリアで長く続く内戦の結果、医療サービスや警察・裁判所などの司法制度は、性暴力被害者にとって全く不十分な無力な制度となってしまっている。結果として女性や幼い少女たちは、ソマリアの人権状況に関する国連の独立系専門家が言うところの、「二重被害」に直面している。まずはレイプあるいは性的暴行の被害、そして実質的な法の裁きや医療・公共サービス不在の被害である。

仮設避難所内で集団性的暴行を受けたシングルマザーのマリアム(37歳)は、ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に応じた証言者たちの中でただ独り、警察への被害届け提出を試みた。しかし警察署の係員は、レイプの傷からの出血を見て、彼女を蔑んだ。

「私を追い出す前に、床に流れた血をきれいにしていけって言ったわ。私が座り込むとブラシをよこしてきたので自分で掃除したわ。」彼女は3カ月後に再び集団性的暴行を受けた。しかし、二度と警察に被害を届け出ることはしなかった。

女性たちはレイプが彼女たちの人生を破壊してしまった実態を訴えるとともに、ソマリア政府及び援助国・機関に行動してほしいと訴えた。「ソマリア女性にとって問題は、暴力だけではないのです」と、昨年7月に薪集めをしていた際に刺されたうえレイプされたサーラは言う。「レイプされる前にしていた肉体労働ができない体になってしまったんです。だから別の仕事を始める資金を支給してもらえるプログラムが必要なんです。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチはソマリア政府に対し、必須の対策を提案。

具体的には、「避難民女性・少女たちを守るため、訓練を受けた有能な警察官(女性を含む)を十分配置すること」「暴力から立ち直ろうとしている女性や少女に対し、必要な政治的支援・経済的支援・医療支援を提供できる医療・公共サービスを確立すること」「教育を通じた男女平等や女性の政治的・社会的・経済的平等、そして女性による政治参加の促進」などの対策が急務である。

ソマリア政府が直面する課題は非常に困難であり、国際社会の支援が求められることは言うまでもない。

援助国・機関はソマリア連邦政府に対し、昨年9月のソマリア協定(Somali Compact)等の場などを通じて、女性の権利を優先するよう圧力を掛けてきた。援助国・機関には、女性に対する性暴力をめぐる短期的・長期的措置の支援が、ソマリアの発展に極めて重要であると明確にする必要がある。国際社会の影響力は大きいので、それを実現する力も備えている。

前出のゲルントホルツ局長は「援助国・機関はソマリア政府に、レイプ被害者の悲惨な現状改善を確実に改革努力の最優先にすえるよう、圧力を掛けるべきだ」と述べる。「その上で実際に手を差し伸べ、改革の実現を支援する必要がある。」

(2014年2月13日「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」より転載)

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