生理の仕事から精子のビジネスへ 男性の私が「タブー」に切り込む理由

私は、人に「ドン引きされる」ことが昔から好きでした。

「変わっているね」「なんでそんなこと始めたの?」

私は、人に「ドン引きされる」ことが昔から好きでした。

常識的には考えられないようなアイデアでみんなを驚かす。それがやめられなくて、今の自分がいると言っても過言ではありません。

そんな私は、現在リクルートで「精子に関するビジネス」に取り組んでいます。

スマホで精子の状態をセルフチェックできる『Seem(シーム)』というサービスです。

開発の背景は不妊の増加です。

日本では5.5組に1組のカップルが不妊に悩んでいますが、多くのケースでは始めに女性だけが行動を起こし、男性の参加はその1、2年後ということも少なくありません。しかし、WHOの調査では不妊の原因の約半分は男性にあることがわかっています。

なかなか自分ゴト化できずに言い訳をしてしまう男性の意識と行動を変えるため、

自宅で手軽に使えるセルフチェックサービスが必要でした。

なぜ、私がそのサービスを考えたかというと、女性だけががんばっている現在の妊活や不妊治療の在り方を変えたいと思ったからです。男性は妊活や妊娠を女性任せにしてしまいがちですが、大切なパートナーのために、まずは男性から行動を起こすことが常識だという世界を作りたいと考えています。

2016年4月にサービスを発表し、その後グッドデザイン賞の特別賞やジャパン・ヘルスケアビジネスコンテストでの優秀賞を受賞、今年の「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」では日本初となるモバイル部門でのグランプリを獲得。

入澤諒

「男性も、まずは知るところから始めよう」という『Seem』のコンセプトが世界でも通用することを証明できました。

開発の背景 -生理から精子へ-

リクルートに入社する前、前職では「ルナルナ」という女性の健康管理サービスの開発ディレクションやプロモーションを担当していました。

「ルナルナ」は女性が自分の生理日を入力・記録し次の生理日を予測できるサービスです。事業部はメンバーが十数名いたのですが、配属当時男性は私一人で、上司や先輩は全員女性という環境でした。

サービスの開発にはユーザーの視点に立って考えることが重要なのですが、男性の私にはどう頑張っても生理は来ません。PMSなど、女性特有の心と体の変化も無いため、ユーザーの気持ちを本当の意味で理解することはできません。一ヶ月ほど基礎体温を測ってみたのですが、分かったことは「布団をしっかりかけて寝ると体温が高くなる」ということだけでした。

そこで、男性の立場から女性ユーザーの課題やベネフィットを分析し、女性のホルモンバランスの変化をパートナーに伝えられるサービスや、ユーザー向けの妊娠・出産お祝いサービスなどを企画しました。

「ルナルナ」の会社に入社した理由は「手のひらに収まるスマホアプリを通じて人の暮らしや社会を変えられる」ということに魅力を感じたからです。その当時、スマホアプリといえば、ソーシャルゲームが人気でしたが、より人々の生活を根本的に豊かにしたいという想いが強く、ヘルスケアやライフスタイルのサービスに注目していました。その中で、「ルナルナ」は女性が自分のカラダをコントロールし、健康を保つ画期的なアイデアだと思いました。

その感動は、自分に生理がなくても、性別関係なく「ルナルナ」で働きたいという動機となりました。しかし、新卒でルナルナに入社した私を見て、周りは当初「ドン引き」していました。

生命科学と建築を学んだ大学時代

社会人としてヘルステックの分野に飛び込んだ背景は大学時代にあります。

私は7年間かけて2つの学部を卒業するという、少し変わった大学生活を送りました。ヘルスケア分野への興味関心とものづくりへの想いは学生時代に培われました。

始めに入学したのは生命理工学部生命科学科。

入澤諒

学部レベルですが分子生物学や生態学を学び、学生実験では簡単な遺伝子組み換えや器官の発現などを経験、ヘルスケア分野への興味関心のきっかけになりました。

卒業研究では屋上緑地の生態系をテーマに選び、ビルの屋上に登っては土の中に生息する虫を顕微鏡で数え続け、都市の中における生物の多様性に驚かされました。

今にして思えば、生態学の研究室にいたため、動物のオスメスの生物的役割の違いを考える機会が多く、その違いとは別の社会的な役割の区別に関しては人一倍敏感になっていたと思います。『Seem』を開発する際に、女性だけが妊活・不妊治療を頑張る現状を変えたいと思ったのもそのためだったのではないかと思います。

生命理工学部を卒業した後、同じ大学の工学部建築学科に再入学し、設計課題に追われる充実した日々を過ごしました。与えられた制約を整理し、オリジナリティを付け加えて他に無い解決方法を提示するという、新規事業開発のベースとなる考え方は設計課題の中から身についたと思います。

人と違うことをしていたい、そして自分でゼロから何かを創りたい。

はじめに伝えたように、小さい頃からそういうモチベーションで日々を過ごしていたように思います。純粋にその気持ちを大事にしてきたから、「男性だから」「女性だから」の固定概念に縛られることなく過ごしてきました。

色々なものに目移りしてしまい、面白そうなものにすぐ飛びついてしまう性格ですが、その時々に真剣に取り組んでいたことは、いつか思いもよらぬ形で結びつきます。

生理を管理するアプリも、今の精子ビジネスも私を形作る大事な要素なのです。

Yuri Manabe

注目記事