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劣化する日本社会の底辺

2014年01月29日 15時23分 JST | 更新 2014年03月30日 18時12分 JST

何ともやりきれなく、後味の悪いニュースに出くわした。朝日新聞の報じる、農薬混入、1カ月続けた? 冷凍食品10袋の勤務日一致である。

マルハニチロホールディングスの子会社アクリフーズが製造した冷凍食品から農薬マラチオンが検出された事件で、アクリ社の契約社員、阿部利樹容疑者(49)=偽計業務妨害容疑で逮捕=の勤務日が逮捕容疑の4袋とは別に、アクリ社がマラチオンを検出した6袋の製造日とも一致したことが捜査関係者への取材でわかった。

阿部容疑者は昨年10月3~7日にマラチオンを混入した疑いがもたれている。群馬県警は6袋の製造日から、阿部容疑者が同年11月まで1カ月以上、混入を続けていた可能性があるとみている。

いうまでもない話だが、年収に不満があるからと言って商品に農薬を混入するなど言語道断であり、情状酌量の余地は一切無い。刑事責任を今後厳しく問われねばならない。懸念されるのは、今後同じ様に職場環境に不満を持つ非正規労働者がかかる類似のテロを引き起こすのでは? という事である。そういった観点から状況を論点整理する事にした次第である。

■ 容疑者の年収200万円は妥当なのか?

ネットで検索してみたら容疑者の年収200万円という金額が随分と話題になっている。単純作業であれば時給@1,000円は止むを得ないのではないのか? 仮に勤務先が「ブラック企業」と批判される事を恐れ、一日8時間労働、週休2日を徹底していたなら年収は下記で算出される。

@1,000円×8時間×5日/週×4×12ヵ月=1,920,000円/年 となる。ボーナスが年間8万円であれば丁度年収200万円となる。率直にいって容疑者の仕事内容が単純作業であり、実働時間が上記仮定に近いものであれば年収200万円に違和感はない。

当然、年収200万円では生活が成り立たないという批判がある事は承知している。しかしながら、企業としては労働者の時給を上げるくらいなら海外に工場を移転する道を選択するのではないのか? 従って、非正規雇用としては不満はあっても年収200万円を甘受するか、失業するかの二者択一である。

■ 群馬県の時給が異常に安過ぎるのか?

労働者もまた労働市場で売り買いされる商品に過ぎない。従って、需給バランスに従って時給は決定されているはずである。厚生労働省が公表している、一般職業紹介状況(平成25年11月分)について、を参照する。今回事件の起きた群馬県を含めた都道府県・地域別有効求人倍率が興味深い。矢張りトップは東京の1.46で、最低は沖縄の0.58、そして群馬は1.05で全国平均を0.05超えている事が分る。

この事が意味するのは群馬県が全国的に見て比較的雇用に恵まれているという事実である。群馬より遥かに仕事の無い県が全国に点在し、多数の労働者が今回の事件の容疑者より劣悪な職場環境で働いている可能性が高いという事である。今後、類似の事件が起こるのでは? と心配になるのは当然ではないだろうか?

■ 時給は今後上昇するのか?

今後時給が上昇するためには先ず有効求人倍率が改善されねばならない。そして、雇用環境の比較的恵まれた製造業の雇用が創出される事が理想である。アベノミクスも本来、日銀が金融緩和を断行し円安を実現、これにより輸出数量を増大させ、製造業を設備投資、新規雇用、賃金増に向かわすはずであった。従って、時給の今後はアベノミクスが成功するか、否かにかかっている。

■ 過去最大の貿易赤字額の意味するもの

朝日新聞の伝えるところでは、貿易赤字、過去最大の11兆4745億円 2013年との話である。

輸出額は前年よりも9・5%増の69兆7877億円。円安で金額は増えたが、輸出の数量を示す指数は前年より1・5%減った。円安になると日本製品の競争力が増し、輸出が増えるのが過去のパターンだが、製造業の海外移転が進み、円安でも輸出が増えない構造になりつつある。

円安効果で輸出製造業の手取りは増えたが、輸出数量は何と1.5%減少している。これでは、製造業は設備投資を手控える。その結果、新たな雇用は創出されず、賃金も上がらない。それでは、果たして安倍政権はどうやって事態の打開を図る積りだろうか?

この現実を目の当たりにしては、安倍政権としては円安から輸出増、更には設備投資・雇用増といった従来型の「成長戦略」の見直しをせざるを得ない。一方、この現状を座視して経常収支の赤字を容認する訳にも行かないだろう。仮にそうであれば、安倍政権として採用可能な政策は極めて限定される。

日本国内に留まっていては立ち行かない製造業の海外移転を後押しする。或いは、もっと積極的に元気な日本企業の海外展開を促進し、海外投資からの配当金の増加を期待するのではないのか? 「貿易立国」から「投資立国」へのパラダイムシフトといっても良いかも知れない。

この転換が巧く行けば経常収支の赤字は回避出来るかも知れない。しかしながら、製造業の海外移転に伴う比較的質の良い雇用の喪失という副作用もある。雇用調整により職を失った労働者は以前に比べ遥かに条件の悪い非正規雇用や気乗りのしない居酒屋チェーンの様なサービス業に職を見つけるしかないだろう。職場条件に不満を溜め込み、類似の犯行が行われるのでは? と危惧する所以はここにある。「劣化する日本社会の底辺」をどうするか? が今後の日本社会の一大テーマに浮上すると予測する。