「脱原発」を都知事選の争点にする意味不明

率直にいって、私は宇都宮氏の立候補表明の時から「脱原発」を都知事選の争点にする事に賛同しかねている。そもそも国家のエネルギー政策の立案は東京都知事の管掌事項ではなく不用意に出しゃばるべきでない事は当然である。

朝日新聞の伝えるところでは、細川元首相、都知事選候補に浮上 「脱原発」争点にとの事である。

細川氏は、原発の再稼働や海外輸出を進める安倍政権を批判している。立候補した際には「脱原発」を最大の争点にする意向だ。このため、同じく「脱原発」を掲げる小泉氏との連携を重視。小泉氏からの支援を受けられるかどうか慎重に見極めている。民主党は細川氏に立候補を働きかけており、立候補した際には支援に回ることを検討している。ただ、細川氏は立候補する場合は無所属で出る考えという。

これで宇都宮氏に引き続き「脱原発」を主張する二人目の都知事選立候補者の登場という事になるのかも知れない。率直にいって、私は宇都宮氏の立候補表明の時から「脱原発」を都知事選の争点にする事に賛同しかねている。

■ 東京都民のためにならない「脱原発」

そもそも国家のエネルギー政策の立案は東京都知事の管掌事項ではなく不用意に出しゃばるべきでない事は当然である。一方、東京都知事として努力すべきは電力の安定供給と低価格の維持により東京都民の暮らしを守る事である。正式に「脱原発」から「再生可能エネルギー」に舵を切る様な展開となれば、安定した電力供給は困難となり、電力価格も高騰する。一方、「脱原発」に舵を切れば東京都が大株主である東京電力を破綻へと追い詰める展開となる。これは明確な利益相反であり、東京都としての自傷行為という、決してやってはならない行動である。

■ 何故世田谷区の過去3年間の「脱原発から再生可能エネルギーへ」の結果を検証しない?

「脱原発から再生可能エネルギーへ」を主張し、当選した政治家として記憶に新しいのは世田谷新区長である。当選して3年が経過しようとしているが如何なる目に見えた成果を得る事が出来たのであろうか? 何もないのでは? というか、実態はもっと酷くて「脱原発から再生可能エネルギーへ」は選挙に勝つための看板に過ぎず、これを具体化するための努力は何もやっていないのではないのか? 当選後直ぐに私は下記疑問を投げかけた。

再生可能再生エネルギーと言えば一般に、太陽光・太陽熱、風力、バイオマスそして地熱・水力と言った所である。太陽光に就いて言えば、人口密集地であり集合住宅、商業ビルの多い世田谷区は最も適していない。風力はそもそも風車の建設用地がなく、世田谷区にそれ程風が吹くとも思えない。バイオマスは実用技術の確立が先決で世田谷区単独では無理。地熱は世田谷区内に火山が無く、水力は多摩川の高低差では無理。現実的には何一つ出来ないのではないか?

世田谷区で何一つ出来なかったのにはそれなりの理由がある。そして、世田谷区の理由は東京都に取ってもそっくりそのまま当て嵌まる。東京都も何も出来ないし、やるべきではない。

■ 何故ドイツの失敗を検証しない?

「脱原発から再生可能エネルギーへ」を主張する人の理論的な支えはどうもドイツらしい。自称再生可能エネルギー専門家が保身のために余り頭が良いとは思えない政治家達にどうも嘘を吹き込んでいる様である。しかしながら、実態は真逆でドイツの「脱原発から再生可能エネルギーへ」は実質破綻しており、従来の脱原発から連立政権は仕切り直しに着手せざるを得ない状況の様である。ドイツを代表する一流雑誌のDer Spiegelも再生可能エネルギーの高コスト体質を厳しく批判している。「脱原発から再生可能エネルギーへ」を軽率に主張する前に、先ずドイツの惨状をしっかり検証すべきではないのか?

■ 化石燃料への依存を強める事は中東依存を高める事

原発を無理やり停止すれば老朽化した石油や液化天然ガスを燃料とする火力発電所をフル稼働して穴埋めするしかない。そして、これが貿易赤字の主たる原因となっている訳である。日本は石油や液化天然ガスの供給の大部分を中東に依存している。従って、中東が安定しておれば経済が少しずつ悪くなって行く程度の被害で済む。しかしながら、中東に戦争が勃発すれば、日本経済は甚大な被害を受ける事になる。下手をすれば日本経済のショック死という展開も可能性は否定出来ない。

前回の記事でも参照したEurasia Group, Top Risks 2014によれば、指摘されたTOP10のリスクの内何と半分が中東関連である。すなわち、④イラン、⑤産油国、⑦アルカイダ、⑧不安定、⑩トルコ、と列記されている。何度も繰り返してハフポスト読者の皆さんには恐縮であるが、私は中東が世界の火薬庫と思っている。従って、何時爆発しても可笑しくないと考えている訳であり、この地域に日本の将来を依存する事は避けるべきと繰り返している訳である。

東京都民はテレビや新聞の取材で東京都知事として「どんな人がふさわしいですか?」と尋ねられれば、「2020年の東京オリンピック・パラリンピックの顔になる人」とか、「実績があり、行政手腕に優れた政治家」などという真っ当な答えを返す。しかしながら、実際に投票用紙に名前を書き込む段階となれば、「良く知っている」とか何となくの雰囲気で「脱原発」とかで選びそうな気がする。何分一般の有権者は間違ってもEurasia Group, Top Risks 2014を読んで中東の地政学的リスクの高まりに唖然とするという事はあり得ないからである。そこに、本来提示されるべきではない「脱原発」を都知事選の争点にするとか、東京都知事には全く相応しくない候補者の名前がマスコミを賑わす背景があるのではと思う。そう考えれば、日本の危機とは畢竟有権者の「知的怠惰」に起因しているという結論となる。

川淵三郎氏

2014年の都知事選に名前が上がる人々

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