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レッドラインを越えようとしている中国

2014年05月17日 16時01分 JST | 更新 2014年05月17日 21時16分 JST

中国の近況を理解するために三つの記事を紹介したい。第一は、BBCが伝えるChina-Vietnam tensions: Beijing vows to continue drillingである。ベトナム国内で反中暴動が発生し、一方アメリカも中国に自制する様に警告しているにも拘わらず、これを無視して中越対立の原因となっているベトナムが本来ベトナム領であると主張する西沙諸島付近に石油掘削用リグの設置を中国は強行すると説明している。

私は1990年に三年半に及ぶ中東駐在から帰国し、東アジア市場を担当し、ベトナムには何度も出張した。ベトナム人は小柄で温厚、見た目は弱そうだが芯が強いという強烈な印象を受けた事は今尚鮮明に記憶している。1979年に侵略して来た中国軍を退けたベトナムの事であるから、今回も中国の横暴に対し一歩たりとも退く事はないだろう。ベトナムは既に中国との軍事衝突も覚悟しているのではないだろうか?

第二は、朝日新聞の伝えるフィリピン、現場写真を公開 南シナ海の中国滑走路建設である。写真は既に二年前に撮影されたものであり、BBCも既にこの事実を何度か報告しており、新しい話ではない。フィリピン外務省がこのタイミングで世界に向けて公表し、中国に対する対決姿勢を鮮明にした事が重要なのである。勿論、アメリカ軍のフィリッピン基地駐留が正式に決定した事がフィリッピンに勇気を与えている事はいうまでもない。

最後は、読売新聞の伝えるロシア艦、対馬海峡通過「重大な関心」防衛相である。中国とロシアは上海で開催予定のCICAアジア相互協力信頼醸成措置会議に併せ合同軍事演習を実施する予定といわれており、6隻はこれに参加するとみられる。プーチン大統領が訪中し、中露首脳会議が開催される。この期間中に揚子江河口近くで中ロ合同軍事演習が行われるとの憶測もある。この展開となれば、西側諸国がこれに反発するのは当然で、結果、中国の孤立が更に進む事になる。

それにしても、中国は何が理由でかくも思いつめた様に暴挙に打って出るのであろうか? 失うものばかりが余りに大きく、得るものは殆どない様に思われるのだが。東アジアの地図を見ながら、この素朴な疑問について考察を試みたい。

■太平洋を「中国の海」にするという中国の野心

TPP交渉は中国としても大きな関心を持って注視しているはずである。TPP交渉がまとまれば太平洋は間違いなく繁栄の海に変貌する。中国に取って最悪のケースは仲間外れにされ、太平洋の繁栄から一人取り残される展開である。どうもこの展開を回避し、中国の国益を最大化するためには太平洋を「中国の海」にするしかないと思いつめている様に見受けられる。

そのためには、冷戦後の世界秩序を力(軍事力)で破壊し、中国の国益に叶う新体制の構築に邁進するしかないという結論なのであろう。既に、日本、フィリッピン、それからベトナムとの間で領土を巡って国家間の問題が生じている。法を尊重し、話し合いにより、飽く迄も互恵の精神で解決策を見だす努力をするのではなく、力(軍事力)に物を言わせゼロサムゲームで根こそぎ奪い取るといった発想に準拠している様に見受けられる。冷戦後の世界秩序を是とする西側先進国への重大な挑戦である事はいうまでもないだろう。

■中国としても尖閣の領有には大きな犠牲が必要

中国が野心を達成するためには先ず中国海軍が太平洋に出やすいルートを確保せねばならない。尖閣が中国から狙われる背景である。一方、オバマ大統領の東アジア4ヶ国歴訪が終了し、日本は何処に進むのか?で説明した通りオバマ氏が米大統領として初めて「尖閣諸島は日米安保条約の適用対象」と明言した意味は大きかった。単なる「口約束」ではなく、公式性の高い日米共同声明に明記されたからである。少なくとも現時点では、圧倒的な軍事力を持つ米軍と戦う事は中国に取り得策ではない。仮に対外戦争に敗北する様な展開となれば、共産党一党独裁体制が無償でいられる訳がないし、ウイグル系中国人やチベット人といった抑圧された少数民族の反乱も起こるだろう。

■中国を忌避する台湾の若者

中国として尖閣を諦めざるを得ないとしても、その直ぐ南に位置する台湾が親中に傾斜しておれば大した問題ではないのかも知れない。しかしながら、実態は真逆である。台湾の学生達が立法院を占拠した事件は耳目に新しい。学生達は退去したが与党国民党には内部分裂の兆しが見え、中国との関係が冷却する可能性が高いとのと指摘もある。学生による立法院占拠の背景にあるのは中国に対する深い不信感である。

台湾が中国との一体化を望まずTPP加盟を希望するのは当然の結果である。これに対し、日本は他人事と考えるのではなく我が事と捉え台湾のTPP加盟に向けての最大限の支援を行うべきである。仮に台湾がTPPに加盟する展開となれば、結果、中国は更に孤立を深める事となる。

■中国の南シナ海支配最前線に位置するフィリピン

現在、南シナ海のいくつかの島嶼の領有権を巡り中国と激しく対立しているのはフィリピンである。その対立は軍事的衝突に発展する寸前まで激化している事実はBBCが定期的に伝えている。この様な状況の下で、先月オバマ大統領のフィリッピン訪問に先立って、フィリピンでの米軍派遣拡大を可能にする新軍事協定が締結された意義は実に大きい。

中国がフィリッピンにちょっかいを出す事はアメリカに喧嘩を売る事になるからである。中国と雖もフィリッピンには軽率に手が出せなくなった。最近、フィリッピンが中国漁船を拿捕した背景にはこの新軍事協定がある。地政学的に見て「中心位置」にあるマレーシアの関与が、「中国封じ込め網」を更に完全なものに仕上げる事は当然である。

■緊密化する日豪関係

先月アボット豪首相が来日し、日豪経済連携協定(EPA)が締結された。勿論、この事は両国の歴史に刻まれる画期的外交成果である。今後、両国関係は「通商」、「投資」の分野で益々緊密になる事は確実である。7月に今度は安倍首相が豪州を公式訪問する予定である。日豪、更には日米豪の安全保障体制も議論される事になると予想する。これもまた効果的な中国包囲網であり、これを目の当たりにした中国が太平洋での自国の権益について危機感をもったり焦燥にかられたりしても不思議ではない。

■弱い立場のベトナム

こういった中国包囲を俯瞰してみると、ベトナムのみが何とか中国に取って食い破る事が可能な地域という事になる。戦略的に構築された対中包囲網に歯が立たず、撤退したとあっては習近平総書記以下中国指導部は面目を失墜するだけではなく、国内で鼎の軽重を問われる事になってしまう。ここにアメリカによる度重なる警告を無視しても、中国が西沙諸島付近に石油掘削用リグの設置を強行する背景があると思う。西沙諸島での中越間軍事衝突の可能性は予断を許さない。