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悪化する経常収支と失われる国内雇用

2014年02月19日 01時57分 JST | 更新 2014年04月20日 18時12分 JST

財務省が2014年2月10日に発表した「平成25年中 国際収支状況(速報)の概要」が2013年の日本の経常収支は、3兆3061億円と予想を大幅に上回る黒字縮小となったため、斜陽化する貿易立国日本 経常収支3年連続黒字縮小へ、に類する記事がネットに散見されるに至った。極単純に貿易収支が赤字幅を拡大した事に起因するものであるが、今後日本国民の生活にどの様な影響を与えるのかが見えて来なければ、矢張り人々は不安になってしまう。そういった背景から、今回「悪化する経常収支と失われる国内雇用」をテーマに据え、論考する事にした次第である。

貿易収支は10兆6399億円の赤字で、前年比4兆8258億円の赤字幅拡大となった。米国・中国向けを中心に輸出が増加したものの、原粗油や液化天然ガスを中心とした輸入の増加が上回ったことから、貿易収支は赤字幅を拡大した。このうち、輸出は66兆9694億円で、前年比5兆5273億円増加、3年ぶりの増加となった。輸入は77兆6093億円で、前年比10兆3532億円増加した。4年連続の増加である。

■ 日本は最早貿易立国ではない

福島原発事故を契機に日本は全ての原発の稼働を停止した。この穴埋めは化石燃料を使用する発電所での発電以外他手段がなく、その結果、年間4兆円程度の石油や天然ガスといった化石燃料を追加輸入している。これが、貿易収支に一定のインパクトを与えているのは事実である。しかしながら、輸出入総額の推移を見れば日本が2000年代に入り、なだらかに輸出額と輸入額を均衡させ、遂には貿易赤字国となった事が読み取れる。日本は生産するよりも消費する国になったという事である。そして、アベノミクスにより円安となった事で円ベースでの輸入額が膨張し、結果として貿易赤字の拡大に拍車をかけている。

■ 安倍政権の狙いは速やかな「貿易立国」から「投資立国」への転換?

安倍政権誕生一か月前に現在主要閣僚の職にある方と話をする機会に恵まれた。その際、極めて明瞭に日本は最早「貿易立国」ではない。現在は通商に依存する「貿易立国」から投資収益に依存する「投資立国」への移行期であり、21世紀はアジア・太平洋に国益を求める事になると断言された。仮にそうであれば、日米同盟の深化、TPP加盟、中国との対峙などが現象として生じるのも当然という事になる。ネットで識者・論者が指摘する貿易赤字事態に問題はなく、その拡大のスピードが政府、自民党の想定の範囲内なのか? 或いは 想定していなかった様な早いスピードで、実は政府は焦っているのか? この辺りが見極めるべきポイントの様に思う。

■ 加速する国内企業のグローバル化

日本は製造業に取って魅力のない国になってしまった。アベノミクスの結果、一時的に円安状態を維持しているが、何時従来の円高に回帰しても何の不思議もない。労働者の賃金は新興産業国に比較すればべらぼうに高い。原発の再稼働がなければ今後電力供給は不安定となり、工場の操業を直撃する展開となる。仮に停電が避けられたとしても電力料金の大幅な値上げは不可避である。更には、市場が縮小する日本国内には成長の果実は実らない。従って、日本企業にはこの果実を求め海外に打って出るしか選択肢はない。

製造業が海外移転を急ぐ事は、グローバル化が進む経営環境上生き残りのための必然であり、その是非を議論する事は時間の無駄であろう。問題は、従来の製造業が抜けた穴を埋める産業が育っておらず、放置すれば貿易赤字の拡大に歯止めが掛らない事実。一方、失われた雇用の埋め合わせはなく、極論すれば最近まで年収1千万円を稼いでいたエンジニアが勤め先の海外移転に伴いリストラされ、居酒屋チェーンやコンビニに時給@1,000円の非正規雇用として職を得るしかないという展開が予想される事である。

■ SONYという悪しき実例

最近、SONYのリストラが話題となる事が多い。多分、今後パソコン部門に限らず売れるものは売って、売り物がなくなった時点で消滅してしまうのであろう。言葉は悪いが「馬糞の川流れ」とは、こういった惨状を表現する言葉なのであろう。

中国の委託先で製造すれば事足りるため、もはや人数はいらない。テレビ事業も今後の大規模な人員削減の予備軍といえるだろう。3月半ばから募集する早期退職制度の対象部署は、前述のとおりパソコン事業とキャリアデザイン室の2部門。今年1月から国内工場を対象に希望退職を募集している製造部門の人員削減も加えると、15年3月末までに国内1500人、海外3500人の人員削減を計画している。さらに15年度までに販売部門では2割、本社間接部門では3割の費用削減に取り組む。当然、人員にも手をつけることになりそうだ。その結果、現在およそ14万人いる社員数をどこまで減らせるかが焦点になる。

SONYといえば、昔から就職人気企業ランキングの上位を独走して来た。特に、1998年から2003年までの5年間は理系、文系双方でトップを独走している。遊びたい盛りの小学生の時代から塾に通い、中高一貫の進学校に進学し、名門大学からSONYへの入社を決めた人も当時は多かっただろうと推測する。SONYに職を得た大学生は就職戦線での究極の勝ち組であった訳である。

その後10年強を経、彼らが30代半ばから後半という転職市場で潰しの効かなくなった年齢となり記事にあった様にリストラされる訳である。果たして、転職市場で華麗な学歴やSONYで1千万円以上の年収を貰っていたという職歴が評価されるだろうか? 私は全くそう思わない。一部の極めて有能な例外を除き、彼らの転職活動は阿鼻叫喚な展開以外イメージが湧かない。SONYの経営者は会社だけでなく、本来優秀な社員の人生を破綻させてしまったという事であり、本当に業が深いと思う。問題なのは、今後SONYに引き続き嘗ての名門企業でリストラに踏み切る企業が続出する事である。

■ 国内に付加価値の高い雇用は創出されるのか?

残念だが大変難しいと言わざるを得ない。しかしながら、可能性はある。内山氏が良いヒントを示唆してくれている。世界レベルの研究開発や埋もれた知財を活用しての新たなビジネスの創出には大きなポテンシャルが感じられる。勿論、優れた研究者や研究の中身の目利きが出来た上で、プロダクトマーケテイングとマネタイズに長けた人材の存在は不可欠であろう。教育の抜本的改革が必要となるのかも知れない。

■ 劣化する日本社会の底辺

今後、余程努力をしないと日本社会の底に穴が開き、社会が混乱すると共に、底辺に位置する日本人には絶望しか残らない展開もあり得る。私は、この件に関し不必要に不安を煽る事は慎むべきと思う。しかしながら、マスメデイアは事の深刻さを殆ど理解出来ていないと感じるのも今一方の事実である。劣化する日本社会の底辺については真摯な国民的議論が必要と感じる

円安効果で輸出製造業の手取りは増えたが、輸出数量は何と1.5%減少している。これでは、製造業は設備投資を手控える。その結果、新たな雇用は創出されず、賃金も上がらない。それでは、果たして安倍政権はどうやって事態の打開を図る積りだろうか?

この現実を目の当たりにしては、安倍政権としては円安から輸出増、更には設備投資・雇用増といった従来型の「成長戦略」の見直しをせざるを得ない。一方、この現状を座視して経常収支の赤字を容認する訳にも行かないだろう。仮にそうであれば、安倍政権として採用可能な政策は極めて限定される。

日本国内に留まっていては立ち行かない製造業の海外移転を後押しする。或いは、もっと積極的に元気な日本企業の海外展開を促進し、海外投資からの配当金の増加を期待するのではないのか? 「貿易立国」から「投資立国」へのパラダイムシフトといっても良いかも知れない。

この転換が巧く行けば経常収支の赤字は回避出来るかも知れない。しかしながら、製造業の海外移転に伴う比較的質の良い雇用の喪失という副作用もある。雇用調整により職を失った労働者は以前に比べ遥かに条件の悪い非正規雇用や気乗りのしない居酒屋チェーンの様なサービス業に職を見つけるしかないだろう。職場条件に不満を溜め込み、類似の犯行が行われるのでは? と危惧する所以はここにある。「劣化する日本社会の底辺」をどうするか? が今後の日本社会の一大テーマに浮上すると予測する。