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キャロライン・ケネディ氏の駐日大使就任が示すのは成熟した日米関係

2013年09月24日 00時35分 JST | 更新 2013年11月23日 19時12分 JST

ハフポスト、キャロライン・ケネディ次期駐日大使「尖閣は日本の施政下」 慰安婦問題など東アジア外交の改善に期待?を拝読。この記事が参照する、日本でインテリと目されているに違いない人達の否定的なコメントが実に興味深い。思うに、今回の駐日大使人事に対する評価は、評価をする人の過去のキャリアによって大きく分れるはずである。「外交」に携わってきた人間であれば、外交経験のない人間を駐日大使に任命するとは何事だ? という意見になる。「通商」に携わってきた人間であれば、TPPをどうするのだ?という疑問になる。「安全保障」についても多分同じ様な話であろう。これに対し、私は今回オバマ大統領によるキャロライン・ケネディ氏の駐日大使任命を極めて高く評価している。そして、その背景にあるのは日米関係が成熟し、「外交」、「通商」、「安全保障」といった実務的な個別の課題に関し、日米で協議すべき課題がなくなったからだと考えている。

■歴史に例を観ない「日米同盟」の成功

「日米同盟」の締結以降既に半世紀以上が経過した。いうまでもなくアメリカは世界で唯一の超大国である。一方、日本は最近中国に追い抜かれはしたが世界第三位の経済大国の地位を維持している。中国は世界第二位の経済規模といってもシャドーバンクに代表される金融問題を抱えており前途に楽観は出来ない。日本が二位に返り咲く可能性も充分にあり得る。日本は1960年に日米安全保障条約に調印する事で北東アジアに軍事的緊張が高まりつつあるにも拘わらず、「安全保障」をアメリカに依存する事で経済成長の基盤となるインフラ整備に予算を傾斜投入する事が可能となった。その結果、1964年の東京オリンピック、1970年の大阪万博開催と経済大国の階段を駆け上る事になる。その過程において、恒常的な経常黒字を背景に継続的な資本輸出を行ない、アジアを中心に発展途上国の工業化を支援した。アジアにおける強固な日本企業のサプライチェーンはその結果であり、こういった海外支社からの配当が日本の経常収支の黒字を維持している。

一方、アメリカは「日米同盟」などの効果もあり1945年から続いたソ連との冷戦に勝利した。1989年12月に地中海マルタ島でゴルバチョフとブッシュ会談が開催され冷戦の終結が宣言されたのである。アメリカが世界唯一の超大国の地位を手中にした瞬間である。その後、アメリカはクリントン大統領時代に台頭する中国に傾斜する時期もあった。しかしながら、「民主主義」、「自由」、「人権」、「市場経済」といったアメリカの価値観の根底を構成する部分で、一党独裁の中国共産党が歩み寄る事が出来なかったのは当然の結果である。結果、ブッシュ政権ではアメリカの中国熱はすっかり冷めてしまった。一方、日本も民主党政権下の三年間では、「対中を対米と等しく扱うべき」との議論がなされ、普天間基地移転での鳩山元総理の妄言の連発や迷走もあり日米関係は大きく毀損した。しかしながら、南沙諸島で領土的野心を隠そうともしない中国の蛮行に接し、或いは、「尖閣」に対する中国の軍事的挑発を実際に経験し、日本国民の中国に対する気持ちはすっかり冷めてしまい、安倍政権に変わり「日米同盟」重視に大きく舵を切るに至った。露骨にいえば、アメリカも日本も中国に接近したが、その正体を知るに至りとてもではないが付き合えないと理解し、元の鞘に収まったというところではないだろうか?シリア政府がレッドラインを越えたにも拘わらず、オバマ大統領が軍事力の行使を躊躇した事はアメリカに嘗ての力がない事を暗示している。日本もまた少子高齢化が進み、嘗ての経済大国への道を駆け上がった頃の勢いはない。しかしながら、そんな日米であっても世界経済を俯瞰すれば今尚、この二国が世界をリードし、牽引するしかない事が理解出来る。

■新興産業国が先進国に取って代るという夢物語の終焉

少し以前は「新興産業国」、「Emergency Market」、「BRICs」という言葉を目にしない日はない程持て囃されていた。そして、新興産業国が先進国に取って代るというシナリオが証券会社などではこういった国を対象とする商品を顧客に紹介する際には必ず説明されたと聞いている。しかしながら、状況は大きく変わってしまった。今年初めに公表された、Eurasia GroupのTop Risks 2013が実に興味深い。

Riskの第一としてEmergency Marketが挙げられている。Emergency Marketの中ではBRICsは優等生であるが、最近インド通貨ルピーがアメリカFRBが金融引き締めに舵を切るのではないか? との憶測に振り回され急落した事は記憶に新しい。逃げ足の速い投機資金が一気にインドから流出するのでは? との危惧が市場に広まったのが理由である。隣国韓国といえども来るべき通貨危機の不安に怯えている事は、韓国がTPP加盟に舵を切った背景とは?で説明した通りである。「韓国の経済成長率後退の背景にあるのは、韓国が現在直面する「低成長構造の固定化と潜在成長率の低下」という、韓国経済の体質に起因する根本問題である。これに対する抜本的な打開策を立案する事が出来ないと、先ず逃げ足の速い短期の投機資金は前途に期待の持てない韓国市場に見切りを付け引き上げを加速する事になる。日本企業などもそれに雁行して資金を引き揚げ、アジア・太平洋地域に投資対象を移す事になる。そういう展開となれば、韓国がリーマンショック後に経験した通貨危機の再来となる」。

Riskの第二として中国が単独で挙げられているのも興味深い。幾ら規制を強化しても、中国国民がインターネット経由情報を入手する事を制限する事は事実上困難である。国民が世界の情勢を知れば知る程、政治の民主化や経済の自由化を求める事となり、最後には共産党の一党独裁という現在のシステムと衝突してしまう。更には、中国金融システムが基本的に腐食の構造である事は、「靖国」関連中国の不当な干渉に対し日本はどう対応すべきか?で説明した通りである。中国政府が金融を引き締めているにも拘わらず、理財商品の販売を増やしている様では話にならない。これでは、中国共産党によるバブル推進である。高金利の資金で建設した地方のマンションに買い手がつくとは思えず、ある日突然売れ残りのマンション、つまりは不良債権が話題になる。これがバブル破裂の瞬間である。現在の中国の体制、共産党による一党独裁を根本から揺さぶる事になる。

Riskの第三として挙げられているのは中東である。このテーマについては、テロリスクが高まる北アフリカと中近東や、シリア問題の本質とは?で説明した通りというしかない。サウジやサウジに雁行する湾岸の産油国を例外として、多くの国が経済は悪化し、財政は国外からの援助がなければ破綻を免れない状況に遠からず陥ると思う。安倍首相は、今回日本としてのシリアへの追加支援を表明するが、いずれ国際社会は北アフリカ・中東をどうやって救済するか? を真剣に検討しなければならない状況に追い込まれるはずである。

以外と思われる読者も多いと思うがRiskの第六としてEUが挙げられている。経済の成長が期待出来ず、多くの加盟国が財政問題を抱え、しかも状況が重篤化する事が危惧されている。上述した北アフリカ・中東問題への対応は、地政学的に判断しても、この地域の旧宗主国がEU加盟の国々であるという歴史的経緯からも、本来はEU主導での支援であってしかるべきである。しかしながら、「無い袖は振れぬ」という諺があるが、窮迫する財政がそれを許さない。これが、日米が表に出て行かねばならない背景である。日本は難民支援の様な経済支援に留まらず、この地域の治安悪化に伴い海賊対策に代表される海上哨戒を更に広い地域で要求される事になると予測する。

■日米両国繁栄の継続が可能な理由とは?

今世紀も日米両国は繁栄を続ける事になる。その理由は、日米両国共に海洋国家であり、成長する地域と容易にアクセス出来るからである。今世紀、世界で経済成長が期待出来るのは唯一アジア・太平洋地域であり、アメリカは太平洋を介して繋がっている。日本においては、日本自体がアジアに属しており太平洋、東シナ海経由自由にアクセス可能という恵まれた状況にある。これが、日米両国がTPPの調印、発効を急ぐ背景であり、シーレーン確保のために日米同盟を深化さす理由である。経済力をつけた中国が海軍力増強に動いているのも、同じ思惑、意図であると推測する。

アメリカの外交と通商はTPPを契機に間違いなくアジア・太平洋Pivotでの展開を加速する事になる。この地域を「平和と繁栄の海」とした上で、経済成長の果実の分け前にあり付くためである。そして、これはアメリカ単独での実行は難しく日本というパートナーの存在が不可欠である。従って、日本が今世紀も繁栄の継続を望むのであれば、アメリカと提携し、アジア・太平洋を「平和と繁栄の海」とすべく最大限支援しなければならない。日本が保有する「資金」や「技術力」そして、アジアで強固なサプライチェーンを構築した民間企業の「経験」や「実績」が切り札となるのは当然である。とはいえ、アメリカは最早昔日の強いアメリカではない。経常収支は2006年以降赤字幅を縮小しているものの、それでも年間約50兆円と巨額である。一方、財政収支はピーク時の半分程度にまで縮小しているとはいうものの、2013年度で約100兆円の赤字が見込まれている。所謂、双子の赤字である。従って、日本が安全保障の対米丸投げを続ける事は最早許されず、シーレーン確保のために海上自衛隊の兵力を増強すると共に、自衛隊活用効率化を目的に集団的自衛権行使の認可を急がねばならない。

■日米間には通商問題は最早存在しない

嘗て日米間に重篤な通商問題が生じた事は事実である。ある程度の年齢の方であれば、自由貿易を標榜するアメリカで、アメリカ議員がハンマーを振り上げ日本製の自動車やラジカセを叩き壊すおぞましい光景を写した写真を目にした経験があると思う。財務省の8月貿易統計によれば、対米輸出は約1.1兆円。一方、アメリカからの輸入は約5千億円で差し引き6千億円の巨額な貿易黒字を計上している。しかしながら、私は日米の経済・通商関係は既に成熟しており、以前の様な展開になる事はないと確信している。

アメリカ市場において日本車の市場占有率は極めて高い。7月アメリカ新車販売台数ベスト10の内、何と日本メーカーが4社もランクインしている。ここまで来れば、アメリカ国民が乗用車を購入するというのは日本車を買うという事にほぼ等しいのだと推測する。しかも、今後TPPが調印・発効すればアメリカで生産された日本車が加盟国に輸出される事になる。オバマ政権を悩ます雇用問題改善に日本の自動車メーカーが大きな貢献をする事になるのである。

航空機はいうまでもなく、アメリカを代表する戦略商品である。そして、ボーイング787のケースは日米通商の今を分かり易く伝えていると思う。何といっても使用する部材の35%を日本からの輸入で賄うというのは画期的である。当然の事ながら、日本からの輸入を制限、禁止すればボーイング787の生産は停止し、顧客である世界のエアラインに迷惑をかける事となる。ボーイング787の特長は何といっても燃費の良さであるが、それは軽量で強度の高い炭素繊維を東レが開発して初めて可能となった。ボーイングは重要素材の開発を日本企業に委託する事で新型旅客機開発に要する負荷を大きく軽減したのである。この旅客機は勿論日本のエアライン、日本航空や全日空で採用されている。両社はボーイングに取っての重要顧客である。更には、両社は「おもてなし」精神でアメリカ人のビジネスマンや日本を訪れる旅行者に利用されるはずである。この様に、日米の交易は幾層にも跨り、貿易摩擦などあり得ない。

最後にハフポストの川崎重工、アメリカ・ニューヨーク州で通勤電車92両受注 ポイントは地元工場!?を参照する。川崎重工業が受注といっても、中核部品や一部の資材は日本から持ち込むにしろ、アメリカ、ネブラスカ州の工場で生産し、車両の組み立てと性能試験は発注先のニューヨークの工場で行うとの話である。このスキームであれば、仮にアメリカ政府が川崎重工業の日本からの部品や資材の輸入を禁止すれば、ネブラスカ州やニューヨークがアメリカ政府に対し抗議する事になる。アメリカに取って、基幹インフラの導入で日本企業と契約する事は、国内契約と均質化してしまっているという事である。

■排すべきは「アメリカ陰謀論」