東京電力柏崎刈羽原発の運転再開は電力問題解決の一丁目一番地

問題なのは、日本はこんな悠長なやり取りを許せる状況にはないという事実である。決して褒められた話ではないが、泉田知事が新潟県の事だけを考えて行動するのは致し方ないとして、安倍首相は日本全体の事を考え、「全体最適」を国民に説得し、その結果としての柏崎刈羽原発の運転再開に向け舵を切らねばならない。

NHKが伝えるところでは、柏崎刈羽原発の運転を再開すべく東京電力の廣瀬社長が再度、新潟県の泉田知事を訪問したとの事である。「東京電力柏崎刈羽原子力発電所の運転再開を巡って、新潟県の泉田知事は東京電力の廣瀬社長と再び会談し、再開の前提となる安全設備の設置について事前の了解を求める文書を受け取って、内容を検討する考えを示しました。今後は泉田知事が運転再開に向けた安全審査の申請を容認するかどうかが焦点となります」。

極めて残念な話であるが、廣瀬社長は7月と同じ行為を繰り返しているだけの話で、確かに今回は泉田知事が安全審査の申請を受け取るという一歩前進はあったが(ちなみに前回は受け取り拒否)、これで柏崎刈羽原発の運転が再開に向けて大きく動くとは思えない。泉田知事は今後も新潟県民の安全という錦の御旗を掲げてそう簡単に安全審査への申請を認める事になるとは思えない。問題なのは、日本はこんな悠長なやり取りを許せる状況にはないという事実である。決して褒められた話ではないが、泉田知事が新潟県の事だけを考えて行動するのは致し方ないとして、安倍首相は日本全体の事を考え、「全体最適」を国民に説得し、その結果としての柏崎刈羽原発の運転再開に向け舵を切らねばならない。

■否定出来ないイスラエルによるイラン核施設の空爆

この危険性については一週間前の日本がこれから直面する事になる危機とは?で説明した通りである。勿論、その結果、「日本は輸入原油の80%を中東に依存しており、中東からの石油・ガスはペルシャ湾を経由して輸入される。一方、仮にイスラエルがイランを空爆すればイランが機雷によってホルムズ海峡を封鎖するという展開が国際的な常識になっている。対応を誤れば日本経済はショック死してしまうかも知れない」という、日本に取って好ましからざる展開を辿らざるを得ない。

一方、イスラエルによるイラン核施設の空爆はイランを筆頭に世界は回避を希望しているのも事実である。それが、国連総会を舞台にした、アメリカ、オバマ大統領演説や、イラン、ロウハニ大統領演説の背景である。ロウハニ大統領の演説は、成程、アフマディネジャド前大統領がイスラエルやイスラエルの同盟国アメリカを口汚く罵ったのに比べれば遥かに温厚なトーンのものであった。しかしながら、演説の中身自体は前任者と何ら変わるところはなかった。イランは何も変わっていないのかも知れない。そして、まるで当然の事の様に、イスラエルはロウハニ大統領の演説をボイコットした。イスラエル席の空白が、まるで、「外交での和平交渉は既に諦めた。問題は何時空爆するか?だけ」と語っているかの様な印象を受けたのは私だけであろうか?

「オスロ合意」から20年が経過した。だが、イスラエルによる占領地への入植は増え続けるばかりで、和平への進展が進む兆しは全く見えない。イスラエルにも言い分はあるだろうが、ネタニヤフの指導下、只管入植地を拡大し、オスロ合意を反故にして来た咎は無論イスラエル政府が負わねばならない。そして、その事を誰よりも理解しているのがイスラエルである。イスラムの国々が決してイスラエルを許す事はない。イランは核開発を止めず、核を搭載したミサイルはやがてイスラエルに向け発射される。従って、1981年6月7日のバビロン作戦同様、やられる前に空爆する。イスラエルの論理は飽く迄も冷徹である。

■語られる事のない老朽化した火力発電所のリスク

分かり易く言えば、1997年に運転開始した柏崎刈羽原発と運転開始して既に半世紀が経過する火力発電所のどちらが事故のリスクが高いかという話である。どうも、3.11以降日本のマスコミは「思考停止」に陥り原発のリスクのみ報道している。しかしながら、通常の火力発電所にも当然事故のリスクは付きまとう。そして、通常のプラント同様、老朽化すればする程事故のリスクが高まるのは当然である。

実際に国内の火力発電所を訪問した人に聞くと、タービンブレードが相当傷んでいたとか、ボイラーや配管などがあれで大丈夫か?と心配になったといったトーンの話を良く聞く。ボイラーや配管資材にエロージョン、コロージョンの問題が付きまとうのは宿命である。従って、老朽化した火力発電所は出来れば引退すべきと思う。百聞は一見に如かず、東京電力の既存発電所を見てみれば良い。きちんとしたメンテナンスがなされているとはいえ、随分と運転開始から年月を経過した火力発電所が散見される。80才を超えた老人に全力疾走を強要すれば、やがて心臓麻痺を引き起こし死に至る。本来退役すべき老朽化した火力発電所が、突然の原発停止で無理に無理を重ねれば、やがて大事故に至り東京湾が火の海になるという悪夢もあながち否定出来ないのではないのか? そこまで行かなくても、操業が停止し首都圏が停電状態に陥るリスクは高いと思う。

■拡大を続ける貿易赤字

財務省8月貿易統計によれば、日本は1兆円弱の貿易赤字を計上している。これは、記載されている様に14ヵ月連続の赤字であり、すっかり日本には貿易赤字が定着してしまった。そして、この赤字のA級戦犯は、「輸入(増加品目)原粗油伸び率27.2%、寄与度4.4%」の記載が示す通り、原発停止に起因する原油・ガスの追加輸入と推測される。日本企業は、今のところ海外展開に成功し、海外支社からの配当が日本の経常収支の黒字を維持している。しかしながら、日本企業の海外支社が何時までも気前良く日本に配当を送金し続けてくれると楽観すべきではないだろう。タイやインドネシアで得た利益をベトナムやミャンマーに再投資する展開が寧ろ市場主義経済では自然な流れと思われるからである。それに、本社自体が法人税の高い日本を忌避してシンガポールの様な国に移転する展開も予想される。

日本はアメリカとは全く事情が異なる。アメリカは今尚世界唯一の超大国であり、その通貨ドルは「基軸通貨」の地位を維持している。その結果、世界中で通用し続ける通貨であると同時に、その運用手段としての米国国債は世界中で何の疑いもなく保有されている。極論すれば、アメリカが圧倒的な軍事力と国家の威信を維持する限り、米国国債の発行残高がどれ程増えようと何の問題もない。一方、日本の通貨は勿論基軸通貨などではない。日本国債の発行残高が既に危険レベルまで達しており、これに経常収支の赤字が加われば、日本の通貨「円」の信認が国際金融市場で厳しく問われる展開になると危惧する。従って、原発再稼働により増え続ける化石燃料の輸入にブレーキをかける段階に来ていると思う。

■上り続ける電力料金

原発を停止し、その穴埋めに火力発電所の運転を続ければ追加の石油、ガスの調達コストが発生する。原油先物価格が相変わらず高値に張り付き、最近の様な円安では電力会社の支払いは増える一方である。その追加コストは当然利用者が負担する事になる。一般家庭もこの状態(原発停止)が続けば今後も電力料金が上がり続ける事を覚悟しなければならない。

しかしながら、より深刻なのは国内製造業であろう。今回取り上げた新潟、泉田知事は元経産省の役人、昨年原発停止を訴えた橋下大阪市長は元弁護士、嘉田滋賀県知事は元学者といった具合に地方自治体のトップは実体経済に疎く、従って自国の製造業が厳しい国際競争に晒されている現実が認識出来ていない。国内製造業は、高い人件費や多過ぎる無意味な規制に既に充分にウンザリしている。これに電力供給の不安や電力価格の高騰が加われば海外移転に舵を切る事は当然である。その結果、国内産業は空洞化し失業が大きな社会問題となる。

■停止中の原発は原則全て再稼働すべき

首都圏、東京、神奈川、千葉、埼玉のGDP合計は約160兆円で国内GDPの約3分の1を生産する。従って、日本の繁栄は集積度の高いこの地域に懸っているといっても過言ではない。それ故、安倍首相はリーダーシップを発揮し、先ず東京電力柏崎刈羽原発の運転再開を実現し、不安定で何時事故が起こるか分からない老朽化した火力発電所への電力依存を止め、首都圏の製造業を安心させるべきである。次いで、現在停止中の全ての国内原発も定期検査を終えたものから順次再稼働するのが当然である。安倍首相には原発再稼働が遅れれば遅れる程、日本の製造業が壊死に向かう事を理解して欲しい。

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