橋下徹氏は既に「オワコン」なのか?

今回の選挙結果の原因は大阪維新の会への支持率低迷と、その背後にある橋下氏の人気凋落と目される。去年の今頃は多くの国民の支持と期待を集め、将来の首相候補とマスコミに持て囃された橋下徹氏の現在の惨状を見るにつけ、政治家とは所詮人気商売と痛感させられる。

大阪維新の会が看板政策の大阪都構想を掲げた堺市長選で大敗を喫した。党の看板政策が地元の堺で見事に否定された訳であるから、当然、今後党の運営は迷走する事になる。元々、事前の堺市民世論調査の結果は大阪都構想に賛成19%、反対44%という厳しいものであった。従って、大阪維新の会が本来選挙に勝つ積りであったのなら、何がしかの打開策を打ち立て、速やかに実行すべきであったはずである。しかしながら、堺市民に受けが良いとは思えない石原慎太郎共同代表がやって来て喧嘩を売っていては話にならない。そもそも、堺市民が「堺の話をしろ」と訴えるのは当然の話である。

私事で恐縮だが、私は35年前に新入社員として勤務先の大阪本社で社会人としてのスタートを切った。当時は未だ大阪は今程凋落しておらず東京・大阪の両本社制であった。当時の勤め先の人事部は、新入社員には出来れば芦屋の独身寮に入居し、運動クラブに所属する事を勧奨したので、特にその事に疑問を感じる事もなく、勧められるままに寮に入り、レガッタ競技に参加するボート部に入部した。その縁で、週末ともなれば先輩、同期と共に堺市にある浜寺公園に隣接するレガッタ競技場を訪問し、練習に明け暮れた。堺は大阪とは街の雰囲気が違うというのが私の第一印象であった。政治や経済の合理性は良く分らないが、大阪以上に歴史があり、「自治の伝統」のある堺が、バラバラにされて後発の大阪に吸収されてしまうといった様なマイナスの感情を堺市民が抱いた様な気がする。そういった意味では、最早結果論でしかないが、橋下氏はもう少し丁寧な説明を心掛けても良かったと思う。こういった印象を今回の選挙結果から受けると同時に、安倍政権発足以降日本の政治が大きく変わった事を実感として体験した事も今一方の事実である。

■国民は最早野党には何も期待しない

今回の選挙結果の原因は大阪維新の会への支持率低迷と、その背後にある橋下氏の人気凋落と目される。去年の今頃は多くの国民の支持と期待を集め、将来の首相候補とマスコミに持て囃された橋下徹氏の現在の惨状を見るにつけ、政治家とは所詮人気商売と痛感させられる。タレント性があり、歯に衣を着せぬ痛快な問題指摘や、論敵を一刀両断に切って捨てる弁論術があれば、マスコミが加勢してくれれば一時的な人気を得る事は確かに可能かもしれない。しかしながら、支持を持続させるためには施政による目に見える効果を分かり易い形で国民に提示し続ける必要がある。

安倍首相は昨年12月に民主党から政権を奪取するや否や「アベノミクス」をぶち上げた。この中身に毀誉褒貶はあるものの少なくとも「円安」は達成され、結果、それまで「円高」によって疲弊していた輸出依存率の高い国内製造業は息を吹き返すに至った。円安によりリストラを免れた社員も多くいるはずである。更には、企業業績が好転すれば給料やボーナスの増額といった分かり易い形で社員に還元される。雇用も増えて、就職希望の大学生も随分と助かる事になる。

一方、株式市場も安倍政権誕生以降活況を維持しており、この一年で日経平均は二倍近く上昇している。

株価が上がれば、株式投資を行うものが潤うのは当然である。しかしながら、波及効果も大きい。本来2年先に買い替える予定の自動車を、株で思わぬ臨時収入があった事でもあり、消費税も来年になると上がるので今年買い替える事に変更した人は多いだろう。300万円程度の自動車をずっと乗り換えて来たが、株で儲かったので以前から欲しかった600万円の車を今回は思い切って購入する事に決めた人もいるだろう。家族の外食はずっとファミレスであったが最近はワンランク上のステーキハウスに変えたとか、夏の家族旅行はずっとグアム、サイパンだったが、今年はヨーロッパに出掛けたとか、株式投資の利益が社会を潤す原資になることは明らかである。

更には、安倍首相はオリンピックを東京に持って来た。この招致成功により2020年の開催まで、設備投資が継続して行われる事になる。関連する業界が潤うのは当然である。観光産業にも実に力強い追い風となる。国がこういう具合に上手にお膳立てを行い、民間はそれに便乗すると共に、民間ならではの創意工夫で効果を何倍にも広げるという実例を国民は目の当たりにしてしまった訳である。政治がこういう具合に目に見えた形で実益を国民に示す様になると、橋下氏の如き「問題指摘」一本槍では最早勝負にならないという事である。この辺りは、参議院選挙直後の、野党消滅の背景とは?で説明した通りである。

■地方から日本を変えるという妄想

橋下氏が人気を博した頃は民主党政権下にあり、東北復興は遅々として進まず、原発政策は行き詰まり、国家経営の中核をなす安全保障、外交は対米関係が悪化した事もあり無茶苦茶になってしまった。そこで、日本の将来に不安を感じた国民は大阪から日本を変えるという、橋下氏の主張に一筋の光明を見出したのである。橋下氏の存在は民主党政権下という、政治的な暗黒時代にあってこそ輝く事が出来た訳である。しかしながら、安倍政権の様な本格政権が出現すれば、一気に霞んでしまい存在感を喪失するのは止むを得ない。

そして、死命を制したのは勿論今回の2020年開催のオリンピックの東京招致成功である。東京オリンピック開催をどうやって経済成長に結びつけるか?で詳しく説明した通りである。今後、日本政府は間違いなく「東京一極集中は国益に叶う」を国是とするはずだ。「20世紀が国家間競争の時代であったなら、21世紀は間違いなく都市間競争の時代といえる。従って、東京が世界で最も魅力的な都市になる事は国益に資する。東京が機関車役になり、大阪、名古屋が東京に雁行する。更に、札幌、仙台、福岡などが大阪、名古屋に雁行するというものである。各県庁所在都市がこれを追いかけるのは当然である」。

■橋下徹氏は一体どこで道を間違えたのか?

大阪の問題は橋下氏が指摘した様に政令都市の中で際立って市民あたりの職員数が多く、財政的にも問題を抱えている事である。従って、「行政改革」、「公務員改革」の必要性を説き、これを断行しようとした姿勢を大阪市民が支援し、日本国民が賛同したのは当然である。私も昨年2月に大阪市営バス運転手給与4割削減の衝撃を公表し、この動きが全国に広まる事を期待した経緯がある。一方、既得権益者が生死を賭して橋下氏に抵抗するのも又当然の成り行きといえる。従って、橋下市長の公約「地下鉄民営化」、3度目挑戦もまたまた継続審議の声といった状況に陥ったからといって、橋下徹氏に指導力が不足しているなどとは決して思わない。地下に横たわる岩盤の如き既得権益者の存在を改めて認識しただけの話である。

エネルギー問題や原発を良く理解していないにも拘わらず、「脱原発」を声高に主張したのがケチのつき始めではなかったのか? 成程、3.11以降日本は一種のヒステリー状態に陥っており、「脱原発」を掲げる事で一定の支持獲得に至った事は確かだと思う。しかしながら、突然の原発停止は

東京電力柏崎刈羽原発の運転再開は電力問題解決の一丁目一番地で説明した通り、激甚な副作用を伴う。「しかしながら、より深刻なのは国内製造業であろう。今回取り上げた新潟、泉田知事は元経産省の役人、昨年原発停止を訴えた橋下大阪市長は元弁護士、嘉田滋賀県知事は元学者といった具合に地方自治体のトップは実体経済に疎く、従って自国の製造業が厳しい国際競争に晒されている現実が認識出来ていない。国内製造業は、高い人件費や多過ぎる無意味な規制に既に充分にウンザリしている。これに電力供給の不安や電力価格の高騰が加われば海外移転に舵を切る事は当然である。その結果、国内産業は空洞化し失業が大きな社会問題となる」。

堺に新鋭工場を保有するシャープが経営再建に苦闘している事はつとに知られた話である。地元の名門企業パナソニックが海外移転を加速している事実は、パナソニックが日本を見捨てる日で説明した通りである。こういう状況で無理やり原発を止めれば、企業は当然の事として、将来の「電力不足」や「電力料金値上げ」を危惧し、海外移転を前倒しで実行する事になる。その結果、地元に失業者が溢れ、法人税、住民税の税収が失われる事になる。転職が巧く行かねば生活保護の支出が増加するかもしれない。こういう事が想像出来ていれば、あんな軽々しい発言には至らなかったと思う。

そして、極めつけは何と言っても「従軍慰安婦」関連での一連の不用意な発言であろう。Larry Summersが過去の女性蔑視発言が蒸し返される事を忌避してFRB議長候補を降りた一件は記憶に新しい。「女性の人権」は事程左様にアメリカではデリケートな問題なのである。アメリカに対し、受け取り方によっては、「お前達も同じ事をしているのだから、ごちゃごちゃ五月蠅い事いうな」と取られる様な発言が言語道断である事はいうまでもない。「もっと風俗活用を」という橋下氏の発言に至っては、これはもう正気の沙汰とは思えない。口は災いの元とは正にこの事であろう。結局、今回の安倍首相の国連総会演説で女性支援を目的に30億ドルを超すODAの実施を約束し、傷付いた日本のイメージ回復を図る事になった訳である。妄言を垂れ流し、結果、安倍政権に尻拭いして貰っている様では話にならない。

注目記事