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医薬品ネット販売規制の何が問題か?

2013年11月20日 01時55分 JST | 更新 2014年01月19日 19時12分 JST

ハフポストの伝えるところでは楽天の三木谷会長が政府委員の辞意を撤回したとの事である。私は以前公表した、「楽天市場」での日本シリーズ優勝セールは何が問題なのか?で主張した通り、三木谷会長は辞任して野に下るのではなく現職に留まるべきと思っていたので、今回の決断を朗報と捉えたい。そして、大事な事は三木谷会長が医薬品ネット販売規制の問題の本質を国民と共有し、この件を突破口に本来「成長戦略」の一丁目一番地である「規制緩和」に安倍政権を誘導する事だと思う。これを成し遂げるには「叡智」と「腕力」が必要で三木谷会長以外に適任者は見当たらない。

■振り上げた拳の下ろし所に困る楽天、三木谷会長

  

厚労省は薬のネット販売を、一部規制する方針を表明した。一方、楽天、三木谷会長はこれに対し記者会見を行い、ネット販売を規制する薬事法改正が行なわれたら、産業競争力会議の民間議員をやめる考えを表明した。私は、従来から薬のネット販売反対派は「ネット販売は一般的に危ない」という奇妙な思い込みと、この思い込みに起因する偏見からひたすら反対しているのだと理解している。従って、三木谷会長の主張は正しいし、安倍首相は指導力を発揮して厚労省を押さえ込むべきであると確信している。

しかしながら、今回EC業界で本来範を垂れるべき楽天が日本シリーズ優勝セールの如き下品で破廉恥な事件を引き起こしてしまった。「ネット販売には悪徳業者が参入しやすい」、「ネット販売は一般的に危ない」という「偏見」を「事実」として自らが日本社会に示した訳である。これでは、三木谷会長が薬事法改正を不満として振り上げた拳を机に叩きつけたとしても、机の上には剣山が針を上に向けて待っている様なものである。三木谷会長としては、ここは我慢のしどころ、捲土重来を期し隠忍自重をするしかないのではないのか?

■ 最高裁判決を公然と無視する厚労省

医薬品ネット販売の是非については今年一月に既に最高裁判決が出ている。従って、監督官庁である厚労省は最高裁判決を最大限尊重した上で新たなルール作りに取り組むべきである。一方、国会は必要となる法の改正に取り組むべきなのである。これが、我々が義務教育で習った「三権分立」のあるべき姿であり、「法の支配」の貫徹である。しかしながら、厚労省は最高裁判決に反旗を翻し、真逆の医薬品ネット販売規制に舵を切ってしまった。医薬品ネット販売が対面販売に比べ劣る事実が何一つ立証されていない現状では憲法が保障する「営業の自由」に抵触する可能性も極めて高い。

■ 「成長戦略」のブレーキとなる医薬品ネット販売規制

何故「成長戦略」の中身が見えて来ないのか? については以前説明した通りである。経済成長のための実行性のある施策が何一つ役所から出て来ず、一方、それに代わって今回の様な「成長戦略」のブレーキとなる医薬品ネット販売規制が出て来る様ではお話にならない。安倍政権の標榜する三本の矢の三本目は「成長戦略」ではなく、このままでは「衰退戦略」という事になってしまう。

日本が経済成長を達成するためには国を開き、海外から「資本」と優秀な「人材」を呼び込まねばならない。そのためには、不要な規制は撤廃し、外国企業や外国人に取って意味不明で不透明な裁量行政は根絶せねばならない。別の表現をすれば、外国企業や外国人に取って受け入れ可能な「法の支配」が貫徹した透明性の高い社会システムに日本社会を転換せねばならないという事である。こんな事をしていたら、国内製造業は廉価な労働力を求め海外への移転を加速し、一方、海外からは「資本」も「人材」もやって来ず、日本は早晩抜け殻になってしまう。

■ 厚労省は何故「対面」販売にここまで拘るのか?

それにしても訝しいのは厚労省が何故「対面」販売にここまで拘るのか?である。どうもこの点に、今回厚労省が引き起こした逆噴射の背景がある様に推測する。家電製品では「商流」が「家電量販」から「EC」に急速に転換している。この事が、「家電量販」の覇者ヤマダ電機赤字の背景にある。医薬品もまた家電製品と同じく工業製品に過ぎない。従って、同様に街の「薬局」から「EC」に商流が移動するのは本来極めて自然な流れである。

「家電量販」と「薬局」の違いは「家電量販」では一般社員や家電製造業から派遣された販促スタッフが顧客対応しているのに対し、「薬局」では「薬剤師」が実際に顧客担当をするか否かは別にして、常駐が義務付けされている点である。一方、「薬剤師」の「薬局」常駐義務化と歩調を合わせ、薬剤師国家試験の受験資格が従来の4年制薬学部履行から6年制薬学部に法改正が行われている

以前は4年制薬学部を卒業するだけで薬剤師国家試験の受験資格が得られたのですが、最近法律が変わり、平成18年度入学者からは6年制薬学部に通わないと受験資格が得られなくなりました。

※4年制薬学部は将来的に薬品などの研究開発などを目指す人向けの学部になります。(医薬品メーカー等に就職)

履修期間が4年から6年に延長されれば、大学は濡れ手に粟で50%の増収を達成出来る。左程施設の増築も必要と思われないので、これによるコストインパクトは教員人件費位で、売り上げ増加分の大半が利益計上されるはずである。年間授業料は高い大学で@300万円との事である。従って、従来の履修期間4年を6年に延長すれば学生の追加負担コストは600万円となる。大学に取っては美味しい話だが、一方学生は年間授業料が@300万円であれば、これに入学金他を加え、@300万円×6年+入学金他で2,000万円超を大学に支払う事になる。この金額に見合うご利益がなければ入学する気にならないのは当然である。

従って、「薬局」での「薬剤師」常駐を「法」により義務付け、「薬剤師」の雇用と年収の保障を図ったのではないのか? 別の表現をすれば、「薬剤師」の「資格」を2,000万円で値付けしたという事である。仮にそうであれば、薬学部関係者や「薬剤師」に取って医薬品の商流にネットを認める事はとんでもない話である。「薬剤師」の「資格」価値2,000万円が一気に暴落し、私学の薬学部には学生が集まらず、結果閉校に追い込まれ、一方、現役の「薬剤師」も失業するか、そこまで行かなくても年収が下がる事を覚悟せねばならないからである。

■ そもそも「薬剤師」は「薬局」に必要なのか?

誠に以て素朴な疑問で恐縮だが、そもそも「薬剤師」は「薬局」に必要なのか? 咳が出たり、鼻水が垂れたりで薬局で風邪薬を買う。足の裏が痒くなって水虫の薬を買う。多分、大抵の人は使い慣れた同じ医薬品を指定しているのではないのか? 仮に初めて購入する場合でも、適当に3種類程が提示され客が適当に選んでいるのが実態ではないのか?

今回どさくさ紛れに処方箋薬のネット販売規制を厚労省が言い出した様であるが、医師の処方箋に従い錠剤を袋詰めする作業に必要な資質とは高度に専門的な薬剤知識ではなく、処方箋に記載された錠剤をきちんと間違わず袋詰めする「几帳面さ」だと思う。更に、厚労省が主張する、「この作業は「対面」でなければいけない」というのは問題の本質から逸脱しており、本当に意味不明である。

■ 角を矯めて牛を殺す事になる医薬品ネット販売規制

厚労省がやりたい事は私学の薬学部と「薬剤師」の既得権益を守る事としか思えない。安倍政権が指を咥えこれを座視すれば、他の役所も「省益」ありきで同じ様な動きをするに違いない。一方、自民党は本来役所に対し目を光らせ厳しく監視すべきである。しかしながら、その本質は「利権誘導」であり、こういった役所の動きと極めて相性が良く、官邸が余程頑張らないと「既得権益」の守護神になってしまう。先祖帰りといっても良いだろう。「成長戦略」が「衰退戦略」に転換する瞬間である。