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どこへでも飛んでいく、Uber医師

2016年12月05日 23時35分 JST | 更新 2016年12月05日 23時35分 JST

私は現在、医療系の研究室でインターンをしている。研究室には多くの医師や看護師が出入りする。体調が悪い時など、スマホで先生方に相談することもある。足腰が痛く、歩きづらい時や、生理痛がひどい時など、処置の仕方から薬局で買える薬の紹介など、メッセージ一つで済んでしまう。

 

そこで私が思ったのは、「医師と患者でも、このようにスマホ一つで診察、治療ができないのか」ということだ。

 

先日、先輩医師を訪ねて、福島県南相馬市にお邪魔した。南相馬市は福島第一原発から近く、今年の7月に避難区域が解除された地域もある。ちょっとした皮膚の炎症でも、病院で診てもらうため、何十分も車を走らせなければならないそうだ。大変な思いをして、病院に行っても、氷で冷やし、軟膏を塗れば済む症状だったりする。

 

私の祖母は長崎市内に住んでいて、街は坂だらけだ。祖母は腰が悪く、坂道を歩くことができない。病院に通えるのは、叔父の仕事が休みの日だけだ。そんな祖母は、家の中で転んだり、つまずいたりして、腰を痛めることがあるそうだ。大した痛みでないにしても、一人で病院に行くことができないため、救急車を呼ばざるをえない。病院で受ける処置は痛み止めの注射くらいだ。診察が終わり、家に帰るのも一苦労だ。叔父の仕事が終わるまで、病院で待っていなければならない。

 

南相馬の住民の方や祖母を見ていると、「電話一つで、スマホ一つで何とかなるのに、そんなに苦労するなんて」と、もどかしくなる。きっと誰しも、街中や自宅で具合が悪くなった、どこか怪我してしまったということがあるはずだ。救急車を呼ぶほどではないけど、念のために医師に相談し、薬を出してもらいたいと思ったことがあるだろう。

 

このような医療ニーズに応えるため、Uberのシステムを導入すればどうだろう。

 

Uberとは2009年にアメリカで設立された企業によって運営されている自動車配車アプリである。これはアメリカ人創設者2人がパリを旅行中、雨の中、大荷物でなかなかタクシーがつかまらず、2人で不満をもらしていた時にひらめいたアイディアから始まったそうだ。「スマホ一つで自分の場所に車を呼び、目的地まで送ってもらう」というシンプルだが、なかなか思いつかないアイディアだ。

 

私は普段は、ハンガリーの大学に通っているのだが、もちろんハンガリーでもUberは常識だ。友人たちと夜まで遊んだ際、帰宅する時に必ず使う。タクシーを使う感覚で利用している。ただ値段がタクシーよりとても安いため、お手軽だ 。日本に帰国し、このUberが使われていないことにとても驚いた。

 

ご存知の方も多いと思うが、Uberとは「安い値段でタクシーに乗りたいお客さん」と「時間があるのでアルバイトをしたい運転手」のマッチングシステムだ。具体的には、携帯電話でアプリをダウンロードして、クレジットカードを登録する。そして、利用したい時に、自分の現在地と行き先を入力する。すると、一番近くにいるドライバーの到着時間とおよその値段が表示され、ワンクリックでその車を呼ぶことができる。現在地まで迎えに来て、目的地まで送ってくれる。まさにタクシーと同じだ。

 

しかし、Uberはタクシー会社を通さないため、はるかに安い。交通状況などにもよるが、だいたい半分程度の料金で、私たち大学生でも躊躇なく利用できる。そして、行き先はもう登録してあるので、運転手と会話する必要はない。言葉の通じない海外でも簡単に使える。また、お会計は後ほどクレジットカードから引き落としなので車内でお金を払う必要もない。

 

他にも車の車種を選ぶことができたり、ドライバーの5段階評価やコメントも事前に確認し、選ぶことができる。

 

私の考えているUberの医師版というのは、スマホ一つで近くにいる医師の診察、または相談を受けることができるというシステムで、いわば「患者さんと医師のマッチングシステム」だ。

 

実際このUberの医師版が実現すれば、近くにいる医師や医療関係者がすぐに駆けつけ、診察や治療をすることができたり、多くのことが電話一本、スカイプ一回で解決してしまう。

例えば、電話で対処法をおしえて貰えれば、南相馬の高齢者が、わざわざ何十分も車を走らせる必要がなくなる。また、祖母の場合は近くの医師に注射を一本打ってもらうだけで時間もお金も節約できる。

 

ただ、これを実現させるには主に3つの大きな壁が立ちはだかる。

 

一つめは医師法20条だ。「医師は自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し(省略)てはならない」と明記されている。

医師法での「診察」とは直接の対面診療のみを意味し、電話などでの遠隔診療は基本的に認められていない。医師法とは昭和23年にできたものだ。スマホはおろか、電話も普及していなかった。平成23年になって、遠隔診療のために注意書きが追加されたのだが、内容は「初診の患者、急性期の患者、対面診療のみで診療可能な患者には適用すべきでない」などの制限が多い。

 

そして二つめは診療場所だ。医師法で定められている、「医療提供施設」でなければ診察、治療はできないことになっている。しかし今、日本が推進している「在宅医療」のように自宅では診療可能なのに、一歩外に出ると診療は不可能だ。在宅医療も再診の方のみ診療可能だ。どうして、街中で診察してもらったらいけないのだろう。

 

最後は診療報酬だ。社会保険診療報酬が明確にされていない。遠隔診療の報酬面は、再診料+処方箋料、◯◯管理料など算定できません。例えば、風邪の場合は初診料+処方せん料で350点(3500円)にもかかわらず、遠隔診療の場合は、再診料の72点(720円)が算定されるだけだ。これでは、医師への報酬が十分とはいえない。 つまり同じ病気でも対面で行った方が報酬が高いため、あえて少ない報酬を選択する医師は少なくなるのだ。

 

ここまで話すと、患者は得するが医師には利益がないように思える。しかしそれは違う。

 

私は将来、医師として働く。結婚もしたいし、子供も欲しい。せっかく医師免許を取ったならば、専業主婦ではなく、仕事も続けたい。しかし、医師という仕事をしながら、私生活や子育てを充実させるのはとても難しそうだ。医学生の私も今から将来のライフバランスに不安を感じる。だが、Uberの医師版が実現したら、それぞれの医師が独立して働けるため、好きな時間に働くことができる。そうなれば、家庭とのバランスも難しくなくなるのだ。

 

こんな患者にも、医師にも優しい「Uberの医師版」という仕組みができることを切に願う。