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レアル・マドリードに叩きのめされたバイエルン・ミュンヘン 「ドイツ的なるもの」をいかに取り戻すのか?

2014年05月04日 00時02分 JST | 更新 2014年05月04日 00時36分 JST

長いことサッカーを見続けていると、じつにいろいろなことが起こるものである。

日本代表がワールドカップに出場すること自体が驚きのはずなのに、今ではグループリーグで敗退したら監督は批判を受けることになるようだ。「日本人ダービー」と言えばプロヴィンチャ同士の試合だけだったはずなのに、どうやらミラノ・ダービーで日本人対決が実現しそうだ。湘南ベルマーレが3-0で京都サンガに勝って開幕10連勝を飾ったというのに、監督会見では反省の弁ばかり聞こえてきたし、僕自身「3ゴールだけ、シュートがたった10本ではシブかったな」と思ってしまう……。どれも、驚きの連続である。

世界に目を転じても、GKを含めてブラジルは守備力では間違いなく世界最強であろう。昔は、ブラジルはGKだけは穴だったのに……。一方で、GKの宝庫だったはずのイングランドは人材難……。

そして、ドイツのチームとスペインのチームが対戦した試合を見ていたら、ドイツ側がポゼッションにこだわって、スペイン側がスピードを生かしたカウンターを仕掛けているのである。もちろん、チャンピオンズリーグの準決勝、バイエルン・ミュンヘン対レアル・マドリードの試合の話である。

レアル・ホームのファーストレグでも、バイエルン・ホームのセカンドレグでも、ボール・ポゼッションではバイエルンが64%という数字を残した。ボールを持っていたのは、間違いなくバイエルン。だが、それがいっこうにゴールに結びつかず、180分をノーゴールで終えてしまう。まあ、サッカーという競技は相手がしっかり守り、運が悪ければどんなに攻めても点が入らないものだが、2戦を通じてバイエルンは「決定機」と呼べるようなチャンスをとうとう作れないまま終わってしまった。

そして、レアルはカウンターから数多くのチャンスを作った。ファーストレグが1点で終わったのが不思議なくらいだった。セカンドレグの開始50秒で作ったビッグチャンスは左サイドでクリスティアーノ・ロナウドが浮いたボールをうまく処理してディマリアを走らせたものだった。ディマリアのクロスにベンゼマが走り込んでいたが、かろうじてGKのノイアーがセーブした。あれはファーストレグ唯一のゴールとなったベンゼマのゴールと同じ形だった。ロナウドが走らせたのがカルバハルだったところだけが違う。

つまり、あの形はレアルの狙いであったわけで、バイエルンはそれを繰り返させてしまったわけだ。そして、セカンドレグのレアルは、バイエルンのセットプレーでの守備の脆弱さを衝いて2点を先行。圧巻は3点目のカウンターだった。

攻撃は自陣深いところでベイルがモドリッチにボールを預けたところから始まった。モドリッチからベンゼマを経由したボールが足を止めずに走っていたベイルに戻り、ドリブルでペナルティーエリアまで持ち込んだベイルからのボールを、まったくフリーで走り込んだロナウドが決めたもの。パスやボールコントロールの正確性。そして、スピード、ダイナミズム。完璧なゴールだった。

しかし、ああいう前にボールを運ぶ推進力、突破力というのは本来ならドイツのサッカーが得意とするものだったはずだ。

1970年代のベッケンバウアーらの時代の西ドイツ。まさに、ハイレベルなテクニックを持った選手がスピードを生かして敵陣を切り裂いたものだ。「美しくて強いサッカー」だった。だが、その後ドイツのサッカーは次第にスピードとフリーランニングだけの、あまりにも単純なものに変質していってしまった。それでも、勝負強さは失わず、「強いけれど、つまらない」と陰口をたたかれた。時間的に言えば、1980年代後半から1990年代である。

そして、その反省から若手育成を見直したドイツからはここ数年すばらしいテクニシャンたちが生まれ、運動量とかスピードの要素はそのまま維持しながら、テクニックのすばらしさも見せる、まるで1970年代を彷彿させるようなサッカーに生まれ変わっていった。

そして、昨シーズン、チャンピオンズリーグ決勝はドイツ対決となり、一瞬「ゲーゲンプレッシング」という言葉が流行った。

そのチャンピオンとなったバイエルンが、バルセロナで一時代を築いたペップ・グアルディオラを監督に迎えて作り上げたのが今シーズンのバイエルンだった。

まるで、バルセロナのようなポゼッション・サッカー……。それは、バイエルンというクラブが望んで作り上げたものだった。そして、ブンデスリーガを圧倒的な強さで制覇。クラブの選択は正しかったかに思えた。

だが、そのバイエルン。リーグ優勝で気が緩んだのか、調子を落としてしまう。そして、バルセロナ対策でポゼッション・サッカーとの戦い方に慣れているレアル・マドリードに完膚なきまでにたたきのめされてしまったのだ。

バルセロナのチャビやイニエスタのように、ポゼッション・サッカーの申し子のような天才はバイエルンにはいない。相手のDFとDFの間の小さなスペースを使うには、彼らのような繊細な感覚が必要だろう。だが、バイエルンにはバルセロナにはいなかった強力なトップ=マンジュキッチがいる。「ゼロトップのポゼッション」とは違ったサッカーができるのかとも思った。あるいは、バルセロナよりもっと縦への推進力の強いポゼッション・サッカーでもいい。だが、少なくともレアル・マドリードとの2試合ではマンジュキッチの存在はまったく活かされなかった。

まったく抵抗することもできずにホームで惨敗したバイエルン。当然、グアルディオラ監督の持ち込んだポゼッション・サッカーの功罪。そして、将来の方向性に関する論議が沸き起こることだろう。すでに、ベッケンバウアーあたりからはファーストレグが終った段階で異議が出ているようだ。

他クラブとは財政的にも、人材的にもかなりの差があるブンデスリーガ。しかも、ポゼッション・サッカーというドイツでは異質なものを持ち込んだために国内では圧勝できたバイエルンだったが、それはまだヨーロッパのトップでは通用しないようだ。今後、グアルディオラ監督のポゼッション・サッカーにドイツ的な縦への動きをプラスしていくのか、それとも完全に原点に返るべきなのか(そうなれば、グアルディオラである必要はなくなる)。

ドイツ国内での議論の行方に注目したい。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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(2014年4月30日「後藤健生コラム」より転載)