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日本代表アギーレ監督はとんでもない名監督か、それとも...

2014年10月17日 18時42分 JST | 更新 2014年10月17日 18時52分 JST
Masterpress via Getty Images
SINGAPORE - OCTOBER 14: Japan head coach Javier Aguirre looks on during the international friendly match between Japan and Brazil at the National Stadium on October 14, 2014 in Singapore. (Photo by Masterpress/Getty Images)

とてもではないが、「試合」と呼ぶにはおこがましいような「格の違い」を見せつけられてしまったブラジル戦だった。それも、考えてみれば当然の結果である。何しろ、本田圭佑や長友佑都といった通用しそうな主力選手はベンチに置かれ、代表経験のほとんどない選手たちをスターターとして並べたのだ。代表のブルーのシャツを着ていること自体が驚きのような選手が、ブラジル代表と戦っているのである。

ブラジルの方は、もちろん「本気」ではないだろうが、中2日のゲームであるにも関わらず、負傷したダヴィド・ルイスを除いて、北京で行われたアルゼンチン戦とほぼ同じメンバーを並べてきた。疲れはあるだろうが、当然、チームの完成度は高い。なにしろ、ドゥンガ監督就任以来、アルゼンチン戦まで全勝。しかも、無失点というチームなのだ。

そんなチームに、若手主体の日本が敵う訳もない。ブラジルの強さは2列目にあった。ネイマールが下がり気味でプレーし、そこに両サイドのウィリアンやオスカルがポジションチェンジしながら絡み、さらにアルゼンチン戦で2ゴールを決めたジエゴ・タルデッリが中途半端な位置取りで絡んでくる。そんな、ブラジルの2列目を、代表初先発の田口泰士が一人で止めることができるはずもない。ワンボランチのサイドのスペースを自由に使われてしまったのだ。

この試合で勝負をかけようと思ったら、ボランチを2人(あるいは3人)並べてスペースを埋めたうえでアグレッシブにボールを奪いにいくこと。そして、カウンターからの一発のチャンスに賭けるしかないはずだ。勝負として考えれば、この試合はアギーレ監督の明らかな采配ミスということになる。だが、アギーレ監督はこの試合で勝とうなどとハナッから思っていなかった。アジアカップに向けたチーム作り、そのために選手を観察する機会。それが、唯一の目的と割り切ったからこそ、アギーレ監督はこんな選手起用をしたのである。

若手選手を使いたいのなら、格下のジャマイカとのホームゲームで使うべきであり、世界最強の一角ブラジルとの試合は現時点での最強チームで戦うべきという意見も、当然あるだろう。いや、むしろ、そう考える方が常識だ。ブラジル相手に若い選手を使って叩きのめされたら、若い選手たちが立ち直れないようなダメージを受けるかもしれないと考えることもできる。

だが、アギーレ監督は、敢えてブラジル戦を若手のテストの場として使ったのである。若い選手を使っても、相手が弱くて、それなりに良い内容の試合をして、勝利を収めてしまう。それでは、その選手の本当の限界なり、本当の潜在能力を見極めることはできない。アギーレ監督は、そう考えたのではないだろうか。強い相手に完膚無きまでに叩きのめされる。そんな試合の中で、意気消沈したり、冷静さを失って何もできなくなってしまう選手。一方で、どんなにやられても、それなりに反発心を持ち、強い相手に対しても諦めずに何度でも仕掛けていける選手。そんな、選手の反応を見たかったのではないだろうか。

宿舎のホテルに帰ってからも、大敗を喫した試合の直後に選手たちが、どんなリアクションを見せるのか。アギーレ監督は、そんな選手たちの様子も観察することができる。アギーレ監督は、それが目的でこんな選手起用をしたのだろう。もちろん、ブラジル相手にあんな選手起用をするというのは失礼千万なことだし、試合というのはいつも勝ちに行くべきものという考え方をする人も多いはずだ。

例えば、前任のアルベルト・ザッケローニ監督だったら、たとえテストだとしても、こんな大胆な選手起用はしなかったはずだ。ジーコ監督だってそうだ。歴代監督の中で、これだけ割り切った選手起用=テストができるのはおそらくイビチャ・オシム監督くらいだろう。「アギーレ監督のこういったやり方に賛成するか?」という問いについては、僕は回答を留保させてもらいたい。

4年後に層の厚い強力な代表チームが完成していたとしたら、「ああ、あの頃のあの大胆なテスト采配が良かったのだ。アギーレは名監督なのだ」ということになるが、こういう敗戦を機にチーム内に不協和音が生じたりして、チームが崩壊に向かったとしたら、「アギーレが、あんなバカなやり方をしたからだ」ということになる。監督の評価などというのは、常に結果論なのである。

ただ、ブラジルでのワールドカップで日本代表が敗れ去った直後には、「ザッケローニ前監督の選手起用が固定的過ぎた」と誰もが文句を言っていたはずだ。それなら、とりあえず、アジアカップまではアギーレ監督の大胆極まりない選手起用について見守ることにしたい。9月のシリーズではほとんど無名の選手を抜擢したり、選手起用については思い切ったことをする監督であるのは間違いない。

そして、そのテストに合格しないと、すぐに代表から外されてしまう。しかも、若手選手と言えども、ブラジル相手という難しい試合に突然起用されて、反応を観察されてしまう。選手にとっては、過酷というか、冷酷というか、厳しい監督ということになる。ううん、ハビエル・アギーレ。なかなか一筋縄ではいかない指導者のようである。

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後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

(2014年10月15日「後藤健生コラム」より転載)

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