中村憲剛が語る、理想的なJリーグのあり方

国内リーグが活性化されなければ、代表も強くならないというのは、中村憲剛を筆頭に多くのベテラン選手が口を揃えている。だからこそ、各チームは魅力あるサッカーをピッチ上で表現していくべきだ。
KAWASAKI, JAPAN - MAY 12: (EDITORIAL USE ONLY) Kengo Nakamura #14 of Kawasaki Frontale looks on prior to the J.League match between Kawasaki Frontale and Kashiwa Reysol at Todoroki Stadium on May 12, 2012 in Kawasaki, Japan. (Photo by Masashi Hara/Getty Images)
KAWASAKI, JAPAN - MAY 12: (EDITORIAL USE ONLY) Kengo Nakamura #14 of Kawasaki Frontale looks on prior to the J.League match between Kawasaki Frontale and Kashiwa Reysol at Todoroki Stadium on May 12, 2012 in Kawasaki, Japan. (Photo by Masashi Hara/Getty Images)
Masashi Hara via Getty Images

2014年ブラジルワールドカップでの日本代表の惨敗から2カ月。既にJリーグも再開され、9月からはハビエル・アギーレ新監督率いる新生・日本代表が本格始動するなど、新たな4年間がスタートしている。

先に開かれたJリーグの理事会では、ブラジル大会後のJ1の平均観客数(6試合)が、ワールドカップ前の3.3%減の1万6825人だったと発表。村井満チェアマンは「大きな落ち込みはなかった」とコメントしたという。確かに、同じく惨敗した2006年ドイツワールドカップの時は7.5%も減少しており、その時よりは減少幅は小さい。ワールドカップ惨敗のJリーグへの影響もそこまで大きくないように思える。けれども、当時の平均観客数は1万7423人と現在より多いのだ。日本代表戦も9月9日のベネズエラ戦(横浜)は8月下旬の段階で1万5000枚程度の売れ残りが出ているという。こうした現実はしっかりと認識しなければいけないだろう。

2006年当時、海外でプレーする日本人選手は中村俊輔(横浜)や稲本潤一(川崎)、高原直泰(相模原)、松井大輔(磐田)ら数人だけだった。だが今では、日本代表の主力級はもちろんのこと、ブラジル大会のメンバーに入れなかった田中順也(スポルティング・リスボン)や原口元気(ヘルタ・ベルリン)、久保裕也(ヤングボーイズ)ら20歳前後の世代までもが海外へ行く時代になった。それだけJリーグは多くのファンを魅了するスターの減少を余儀なくされる。もちろん中村俊輔や中村憲剛、大久保嘉人(共に川崎)ら、30代のベテランでも傑出したパフォーマンスを見せている選手はいるし、宇佐美貴史(G大阪)や南野拓実(C大阪)のように将来を嘱望される若手もいる。しかし、これからの日本は一層の少子化・人口減少時代に突入する。いかに多くの観客にスタジアムまで足を運んでもらうかというのは、日本サッカー界全体の重要テーマと言ってもいいはずだ。

目下、ホームの等々力陸上競技場が改修中で、来季から3万人収容の新スタジアムがオープンする川崎にとっては、観客維持・増加は考えなければならない大きな命題である。「最近の等々力は浦和レッズ戦、セレッソ大阪戦をファンにとって興味深いカードが続いたせいか、チケットも売り切れて2万人近いお客さんがコンスタントに入っているけど、3万人収容となれば又いろんなことが変わってくる。それだけのキャパシティを埋めるためにも、僕ら選手たちがピッチ上で面白い試合をしないと、お客さんはついてこない」と中村憲剛も危機感を口にする。

J1中断明け以降の川崎は、23日の横浜F・マリノスとの神奈川ダービーこそ0-2で敗れたものの、6勝2敗とまずまず好調。21試合終了時点で首位・浦和と2差の勝ち点39で4位につけている。その数字以上に、実践しているサッカースタイルの魅力が目を引く。8月9日の浦和戦以降、3-4-3の新布陣に本格的に取り組んでおり、前線に陣取る小林悠や大久保、レナトはもちろんのこと、両ワイドにいる森谷賢太郎や登里享平、最終ラインに陣取る小宮山尊信や谷口彰悟までもが、隙あらば攻撃参加して前線へ攻め上がる。そういうシーンは16日のセレッソ大阪戦でも随所に見られた。それだけ多くの選手が積極果敢にアタックしてくれば、当然、相手チームも戸惑う。それを中村憲剛と大島僚太の両ボランチが巧みにコントロールして、得点に繋げるのだ。そういうサッカーが機能していれば、見る者は常にワクワクする。最近の川崎の観客動員が安定しているのは、風間八宏監督のスタイル浸透度が高まっている事と無関係ではないだろう。

「僕らのサッカーは浦和や去年優勝したサンフレッチェ広島みたいに守備を固める方向じゃない。そういう意味ではちょっと独特かもしれないし、現代サッカーの方向性に沿ってない部分もあるかもしれない。だけど観ていて面白いウチみたいなチームがあってもいいんじゃないかと思う。いいサッカーをやって勝つのが一番楽しい訳だし、ボールを持つ事の楽しさを多くの人々に知ってもらう事が出来る。やっぱりサッカーは面白いのが一番。自分達は、その方向で進化していきたいよね」と中村憲剛は明るく前向きに語っていた。

今のJ1は実力差がほとんどない。広島の森保一監督は「レッズにはバイエルン・ミュンヘンになって欲しい」と注文をつけていたが、資金力などのチーム事情を考えるとやはり難しい。そんな時代だからこそ、チームごとに明確なスタイルがあった方がリーグも盛り上がるだろう。国内リーグが活性化されなければ、代表も強くならないというのは、中村憲剛を筆頭に多くのベテラン選手が口を揃えている。だからこそ、各チームは魅力あるサッカーをピッチ上で表現していくべきだ。

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元川 悦子

もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。

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(2014年8月25日「元川悦子コラム」より転載)

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