BLOG

モウリーニョのサッカーが時代に逆行して、ヨーロッパを制覇しようとしている面白い現象

2014年05月03日 23時05分 JST | 更新 2014年05月03日 23時05分 JST
Jordan Mansfield via Getty Images
COBHAM, ENGLAND - MAY 02: Chelsea Manager Jose Mourinho talks to the press at the Chelsea Training Ground on May 2, 2014 in Cobham, England. (Photo by Jordan Mansfield/Getty Images)

各国リーグで続々と優勝チームが決まり始めている最中、イングランドのプレミアリーグでは、チェルシーがアウェーでリヴァプールを破ってにわかに大混戦となってきた。守備的に戦って、リヴァプールの攻撃を跳ね返しておいてカウンター、というより相手のミスに付け込んで勝ち点3を奪ったチェルシー。まさに、モウリーニョらしい勝ち方と言っていいだろう。当然のように、リヴァプール側からは批判の声も上がっているようだ。

最近は守備的なサッカーは流行りではない。当然のことながら、どこの国でも監督は「攻撃サッカー」を標榜する。実際、ひと昔前に比べて、最近は守りの弱いチームが多いような気がする。

「守備的サッカー」の代名詞のように言われるイタリア。いまだに「カテナチオ」などという、古い言葉を持ち出す人もいるくらいだ。だが、実際には今のイタリアでは守備的なサッカーをするチームなどほとんどない。というか確かに「守備の文化」の名残のようなものは感じるものの、有能なセンターバックがあまり見当たらないのである。

イタリアだけではなく、現在の世界のサッカー界ではフォワードが圧倒的に優位だ。商業主義化が進むと、攻撃のスター選手と、守備の専門職とでは、サラリーの差が大きくなるからなのか、有能なディフェンダーが育っていないような印象を受ける。

日本代表は攻撃面ではすでに国際レベルにあるが、守備が不安でワールドカップも不安視されるのだろうが、他の国も似たり寄ったりである。グループCの4か国どこも、守備面では不安だらけといった状況だろう。だから、守備的サッカーは流行らないのである。

だが、強豪同士の一つ一つの試合を取ってみれば、やはり勝ちにつながるのは守備力の差ということになる。「守ってカウンター」というのは、やはりどんな時代でも、最も確実な勝利への方程式ということになる。そして、それをやり切ってしまう監督の一人が、ジョゼ・モウリーニョなのである。守備の戦術を構築し、相手の良さを消して、勝負に徹する。それが彼のやり方だ。

しかし、それを実行する時に一つ大きな障害となるのが、そのやり方をどうやって選手たちやサポーターたちに、そしてメディアに納得させるか、もしくは正当化するかである。そのへんの駆け引きもモウリーニョらしさというものがある。

たとえば、現地27日に行われたリヴァプールとの試合。現地23日のチャンピオンズリーグのアトレティコ・マドリード戦の後から、モウリーニョは「プレミアリーグの優勝争いは諦めて、チャンピオンズリーグを優先する」と明言した。だから、リヴァプール戦はメンバーを落として戦うということだ。それはそうなのかもしれないが、何もわざわざ明言しなくてもいいようなことだろう。だが、声高にそんなことを叫んでいたのには計算があったに違いない。「そういう状況なら」というのは守備的な戦いをするための口実になりえたのだ。

そして、リヴァプールに勝って、プレミアリーグ優勝の目というのも多少出てきたわけで、そうなると「チャンピオンズリーグとプレミアリーグの2つのトーナメントを並行して戦っている」という状況そのものが、守備的サッカーに徹する口実として使えるようになったのだ。まして、正GKのツェフを負傷で失っているのだ。そうした不利な状況があれば、守備的サッカーを行うための言い訳としては十分だ。どうやら、モウリーニョにとっては、やりやすい状況が生まれつつあるようである。

そういえば、チャンピオンズリーグの準決勝1st Legは、2試合とも守備的サッカーとなった。2試合合わせて生まれたゴールはたったの1つ。レアル・マドリードが自陣からのカウンターで最後はベンゼマが決めたあのゴールだけだったのだ。

チェルシーが戦ったアトレティコ・マドリードも「堅守速攻型」で、レアル・マドリードやバルセロナと対抗しているチームだから、モウリーニョがどんなやり方をしようと、このチームからは文句は出ない。そして、レアル・マドリードもバイエルン・ミュンヘンを相手には、引いて守ってカウンター、という戦いに徹していた。

唯一の例外が、昨シーズンの王者バイエルン・ミュンヘンということになるが、こちらは昨シーズン有名になった超アグレッシブな「ゲーゲンプレッシング」ではなく、バルセロナ流のポゼッションサッカーのチームになっており、昨シーズンのような迫力には欠けている。レアルとの試合では、90分を通じて73%と圧倒的にボールを保持しながら、ゴールが遠く、レアルのカウンターを何度も浴びて決定機を作られていた。

まあ、考えてみればグアルディオラがいかに名将か知らないが、バイエルンというまったく違ったサッカー文化を持つクラブに移って、たった1シーズンでチームを完成させられるわけはない。バイエルンの新しいスタイルをどう評価するのか。それは、また準決勝が終ってから考えようと思うが、どうやら今シーズンの主役はカウンター・サッカーなのかもしれない。

いずれにしても、この攻撃サッカー全盛の時代に、カウンターサッカーがプレミアリーグを大混戦に引きずり込み、また、守備的なチームがヨーロッパを制覇しようとしているのは、僕にはとても面白い現象のように思った。

2014-05-04-5.jpg
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

関連記事

(2014年4月29日「後藤健生コラム」より転載)