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ワールドカップ開幕前、ブラジル国内がまったく盛り上がっていない

2014年06月13日 19時18分 JST | 更新 2014年08月13日 18時12分 JST

ブラジルに入って2日が経過した。個人的には、細かいことがたくさん起こり、すでに当初の移動計画がいくつも変更を余儀なくされている。サンパウロに到着して空港バスで市内に移動し、ホテルまで荷物を引っ張って歩いていると、早速チョコレート強盗の歓迎を受けた。「チョコレート強盗」というのは人にチョコレート(あるいはケチャップ、マヨネーズ等々)を引っかけておいて、仲間が「服が汚れてますよ」と声をかけ、親切そうに汚れを拭き取ってくれるのだ。そして、その間に金目のものが抜き取られてしまうという、南米ではかなりポピュラーな犯罪手口の一つである。中には変な薬品を引っかける輩もいる。今回は本当のチョコレートを少量かけられただけだったから良心的な方ではあったが、僕がそんな初歩的な手口で騙される訳はないではないか。あちらもプロなら、ちゃんと騙されそうな人を選んでもらいたいものである。

そんなことより大問題が発生した。発端は、ブラジルの航空会社TAM(タムではなく、タンと発音する)が予約していた便を勝手に変更してしまったことだ。たとえば、僕は現地時間6月12日(以下現地時間)にサンパウロで開幕戦を見てから、その足で空港に向かって深夜の便でサルバドールに行き、13日にスペイン対オランダを観戦するつもりだった。そうしたら、日本を出発する直前になって「11日の深夜便に変更した」というメールが送信されてきたのだ。

それでは、開幕戦が見られない!すぐに、メールでクレームは入れたものの、電話のコールセンターはブラジル国内からしかかけられない番号になっており、日本には対応できる代理店はない。しかたなく、サンパウロ在住の同業者に連絡を依頼したものの、コールセンターの電話は全くかからない状態だというのだ。結局、サンパウロ入りした10日になって、「13日早朝の便に変更した」というメールが来て一件落着。そして、TAMは12日の夜のホテルも手配してくれたのだ。こうして、12日の深夜移動がなくなり、今回の旅行中で最も豪華なホテルに泊まれることになりそうなのである。ラッキー!と、良かったんだか、悪かったんだか......。今後も予定変更の連続になることだろう。ちゃんと、予定している18試合を全部見られるのかどうか......。

さて、そんな個人的なことを長々と述べてもしかたがない。こちらに着いての一番の驚きは、ワールドカップがまったく盛り上がっていないことだった。たとえば、普通、こういう大会があると空港には盛大に歓迎の飾りつけがなされていて、市内までの道路の両側には参加各国の国旗が翻っているものである。そして、地下鉄の駅にも、街の商店にもワールドカップ関連のグッズが溢れているはずだ。だが、ここにはそういうものが一切ないのだ。広告看板に多少はワールドカップ関連のものがあり、テレビでは関連番組がいくつも流れているが、それは開催国でなくても同じこと。ドイツ在住の日本人記者に聞いたら、ドイツ国内はワールドカップ関連の飾りつけでいっぱいになっているそうだ。日本でも、ワールドカップは盛り上がっているではないか。

到着早々、開幕戦が行われるアレーナ・コリンチャンス(大会期間中は「アレーナ・デ・サンパウロ」と呼ばれる=クラブ・ワールドカップの期間中は日産スタジアムが「横浜国際総合競技場」に戻るのと同じだ)。スタジアム周辺だけは警備の警官も配置され、見物客で賑わっていたので、確かにワールドカップらしい雰囲気だった。だが、街に戻って来るとやはり何もないのだ。そんな街を見て、僕はサッカーの人気が無いアメリカ合衆国で、開かれた1994年のワールドカップを思い出した。あの時も、スタジアム周辺だけが盛り上がって、街中を歩く人たちは「何か、サッカーの大会をやっているみたいだ」程度の感覚だった(全然知らない人も多かったはずだ)。サンパウロが、そんな雰囲気なのである。

ワールドカップ開催反対デモが行われ、そのデモが教育や医療の充実を目指すものである以上、人々は大っぴらにワールドカップ開催を支持するような言動はとれないのだろう。サッカーに関心が無い(なかった)アメリカ合衆国での話なら仕方がないのだが、本来なら世界で一番サッカーが好きな国民の一つであるはずのブラジル人が、ワールドカップに対してこのような態度を取らざるをえないのは実に悲しいこととしか言いようがない。32ヶ国参加と肥大化したワールドカップ。1990年代までとは違って世界中のサポーターが詰めかけるようになったワールドカップ。規模も大きくなりすぎ、テレビ放映などに関連する技術的な要求も高まるばかり。そして、交通や宿泊のインフラの整備の後れも顕著。スタジアムを含めて、空港、道路整備などは未完成のところが大半となっている。

いや、最初に僕個人の例として挙げたTAM航空の対応などを見ていると、ハード面での遅れだけでなく、システム的にも「ブラジルにはワールドカップを開催する能力が本当にあったのか?」という問題にもなるのだ。まあ、その結論は一ヶ月間の大会が終了してからにしたいが、あまりに巨額のお金がかかりすぎることで、あのサッカー好きのブラジル人から反発を買うような大会になってしまったのは確かである。今後、FIFAは先進諸国だけで開催するようにするのか、あるいは発展途上国でも開催できるように、規模を縮小したり、たとえばブラジルでは全く必要のない近代的なスタジアム建設を要求したりしないようにするなどの対応が求められる。

まあ、もっとも、オリンピック開催に対して反対運動を行うことができなかった北京やソチの市民に比べたら、反対運動をあれだけの規模で起こせるわけで、ブラジルがBRICsの中では民主的なことだけは間違いないようである。そういえば、東京でも2020年にオリンピックが開催されることが決まっている。そして、まったく不必要というかむしろ邪魔だとしか思えない巨大な屋根に包まれた新国立競技場の建設には、現在の段階でも1700億円という巨費が投じられるのだ(ちなみに、アレーナ・デ・サンパウロの建設費は300億円程度だと聞く)。

2020年のオリンピックを、今回のブラジル・ワールドカップと同じように東京都民にソッポを向かれる大会にしてはいけない。ブラジルのことを揶揄するだけでなく、日本人は今回のワールドカップの問題を自らの問題として考えなければならないのだ。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

(2014年6月12日「後藤健生コラム」より転載)

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