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【前編】ドイツはなぜ難民を受け入れるのか? 政治的リーダーシップと強靭な市民社会

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難民・移民の流入が2015年だけで100万人に達したと言われるドイツ。かつて旧ユーゴスラヴィアから多くの難民を受け入れた経験があるとはいえ、その倍以上の受け入れは決して容易ではないはずです。なぜ、ドイツはそれでも難民受け入れの意志を貫くのか、その歴史的背景や政治的リーダーシップを支える市民社会について、研究者の久保山亮氏に聞きました。

ードイツは1950年代~70年代にかけてトルコなどから移民労働者(ガストアルバイター)を多く受け入れたものの、社会統合に失敗したとよく言われますが、実態はどうだったのでしょうか?

まず誤解を招かないように申し上げると、日本では「ドイツでは移民労働者のほとんどが家族を呼び寄せ、そのまま定住した」と考える人が多いのですが、実際にドイツに残ったのは1,500万人のうち300万人、全体の四分の一にも満たない数です。問題は社会統合の失敗というよりも、移民労働者が家族を呼び寄せるにあたって、再開発地区などの低家賃の劣悪な住宅で集住を始めたことでした。

「ゲットー化」と言われますが、同じ国の出身者が固まって定住しては社会統合上、大きな困難を抱えると懸念されました。

ーでは、その後に、どのような問題が生じたのでしょうか?

中学校での退学と職業訓練への低い参加率


ドイツでは現在、住民の5人に1人が移民の背景をもっています。10代以下の若い層では、移民の背景をもつ人が人口の3分の1近くを占めます。また、1990年代末に導入された出生地主義(生まれた国の国籍を取得できること)を採っているため、留学生や難民申請者を除く外国人の子どもは、親が8年以上ドイツに居住していれば出生と同時にドイツ国籍が与えられます。

2014年以降は一定期間の居住もしくは、学校に通っているという条件のもと、二重国籍も認めるようになりました。つまりドイツ国籍と親から受け継いだ国籍の両方を持てるようになったということです。

このように移民が増えてくるにあたって最初の問題は、彼らがドイツ特有の「資格社会」に乗っていけないことでした。ドイツには職業訓練とそれによる職業資格のシステムがあります。

大学進学校、実科学校に進学しなければ、基幹学校と呼ばれる「中学校」に進むのですが、それを終えると、OJT(職場での実地研修)で職業訓練を受けながら、週に1~2回、職業学校で簿記、外国語などの技能を学び、2、3年後に試験を受けて国家資格を取るシステムです。

どんな職業にも国家資格がしっかりとある社会なので、その中に入っていくことが社会統合の第一歩になりますが、移民の若者がそこに入っていけないケースがあります。

というのも、そもそもの学校教育でドロップアウト(退学)してしまい、職業訓練の前提となる卒業資格を得られない子どもの比率が、ネイティブの子どもに比べて高いのです。夜間学校に通って取り返せないことはないですが、なかなか難しい。結果として職業訓練の参加率が相対的に低いこと、大学など高等教育への進学率がなかなか上がってこないことが、長年の問題でした。

17才~45才の人の大学進学率(大学進学資格取得者)

移民の背景をもたない人    44%
移民の背景をもつ人      38%


2014 Statisches Bundesamt et.al. Datenreport 2016による

しかし、徐々に改善されてきました。およそ半数の人が卒業資格をもたない時代もありましたが、今は、移民の背景を持たない人で2%、移民の背景をもつ人で12%です。特筆すべきは大学進学率です。移民の背景をもたない人の進学率44%に対し、移民の背景をもつ人の進学率は38%にまで迫ってきています。移民の背景をもってドイツで生まれ、ドイツ国籍を有する子どもの進学率は、移民の背景をもたない子どもの進学率を超えてさえいます

これは、彼ら自身の努力、現場の教師やNGO、福祉団体の人たちの長年の粘り強い努力もありますが、「子どもに大学に行ってもらいたい」と願う親世代のモチベーションが、90年代、2000年代と時代が進むにつれて高まってきたことの表れでもあります。

就職の困難さ、差別などで社会への統合がなかなか進まない


ただし、ここで問題にしたいのは、職業訓練を受けても国家資格を得られない人が、69%もいることです。私が話を聞いたケースワーカーたちが口を揃えて言っていたのが、移民の若者が国家資格取得に必要な職業訓練のポストを得ようと、あるいは就職をしようと履歴書を送っても、国籍やトルコなどの中東圏諸国にルーツをもつ人特有の名前のために、書類選考で落とされてしまう、ということでした。

連邦政府もこの問題を重視しています。メルケル政権発足後、数年に1回、労働組合、経済団体、移民団体及び自治体の各省庁の代表者を集め、移民の社会統合に関する目標や計画を立てる「統合サミット」を開いていますが、2014年12月の会合では、政府は特に経済団体に対して、移民の若者が差別なく職業訓練を受けられるように、あるいは就職できるようにと要請しました。

こうした就職や職業訓練を受けようとする移民の若者への差別は、フランスをはじめ他のEU諸国でも起きている問題です。

この問題は、長い目でみたときに、絶望した移民の若者をホームグロウンテロに追いやりかねない要因の一つとなる可能性もあります。もちろんこの問題は慎重に考える必要があり、短絡的に結びつけることは控えねばなりません。ドイツではいくつかの自治体が率先して、履歴書に国籍や名前等を書かない「匿名の履歴書」制度を始めました。移民が起業した企業や志のあるドイツ人経営者の企業でも、この制度を採用しています。

ードイツの社会統合において生じた問題に対して、政府の政策はどのように変化していきましたか。

1980年代~90年代まで、連邦政府や自治体は移民の社会統合政策に非常に無関心で、福祉団体やNGOに予算や補助金を出してほぼ丸投げする形でした。しかし90年代にフランスで移民の暴動が頻発し、「放っておくとドイツでも同じことになる。このままではいけない」と、重い腰を上げた自治体が統合政策に取り組むようになり、連邦政府も、2004年の移民制御法で、自らの財政支出で賄う、ドイツ語講習とドイツ社会の知識を学ぶ「統合講習」を取り入れました。

連邦政府が移民の社会統合にきちんと向き合うようになったのはこれが初めてです。ただ、この統合講習は、ドイツが先進的に始めたわけではなく、オランダですでに行われていた「市民化講習」をまねて、取り入れたのです。

特筆すべきは、自治体の動きがかなり活発になってきていることでしょう。例えば、ニーダーザクセン州では、各自治体が、既存の団体やNGOの活動を調整してネットワークを形成し、合同プロジェクトを立ち上げたりするセンタ―を設立するなど、1990年代後半から2000年代にかけて動きが活発になってきました。個々の自治体の働きもありますが、連邦政府や州政府の取り組みが功を奏した結果でもあると思います。

問題は、難民申請中の人は、統合講習を受けられず、こうした社会統合政策の枠組みの外に置かれていたことです。周知のように、難民の認定審査は時間がかかります。その間、社会統合の枠組みの外に置かれていることは、問題があります。そこで、自治体の中には難民申請者の人たちも、ボランティアの力も借りながら、ドイツ語の講習を受けられるようにするなど独自の取り組みを行うところも出てきています。

後でお話しますが、連邦政府も2015年秋の法改正で、ドイツに残る可能性が高い国(つまり難民としての認定率が高い国ということです)から来た難民申請者は、統合講習を受けられるようにしました。難民への社会統合の取り組みもこのように少しずつ改善されてきました。

中編に続きます。

久保山亮氏プロフィール

専修大学兼任講師、立教大学・津田塾大学・横浜薬科大学非常勤講師。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。ドイツ・ビーレフェルト大学大学院博士課程修了。専門は国際社会学・比較政治。取り組んでいるテーマは、ドイツ・ヨーロッパの移民・難民政策、ドイツの非正規移民及び難民への支援など。