大手レコード会社、音楽スタートアップ向け支援プログラムを発表

近年、音楽スタートアップを専門にするアクセラレーター・プログラムの存在は、世界で注目を集め始めています。

世界最大のレコード会社、ユニバーサルミュージックは、近年注目が高まる音楽スタートアップや、音楽テクノロジー関連の起業家をグローバル規模で発掘し育成するため、メジャーレーベルでは初となるスタートアップ・アクセラレーター・ネットワークを発表しました。

アクセラレーター・プログラムの特徴は、ユニバーサルミュージックが世界で活動するアクセラレーター・プログラムや起業家育成プログラムと連携しながら、音楽スタートアップの発掘を行う「ネットワーク」を構築することが、このプログラムが一般的なアクセラレーターとは異なる点です。

ユニバーサルミュージックは、申し込みのプロセスでアイデアを評価した後、プログラム参加企業のメンターとしてスタートアップを支援していきます。パートナーとして参画するアクセラレーターは、製品開発、サービス立ち上げ、資金調達などのアドバイスを行っていくといいます。

参画するアクセラレーター・プログラム

ユニバーサルミュージックと連携するアクセラレーター・プログラムも同時に発表され、ベルリンの「Axel Springer Plug and Play」、ベルギーのVCが立ち上げたデジタルメディアを専門にするアクセラレーター「LeanSquare」、ニューヨークでデジタルメディア関連のスタートアップ立ち上げ向けのプログラムを学生などに提供する「NYC MediaLab」の参画が決定しています。

なお、「Axel Springer Plug and Play」は、ドイツ最大手のメディアコングロマリット、アクセル・シュプリンガー(Axel Springer)社が主催するアクセラレーター・プログラムで、シリコンバレーに拠点を置く世界有数のスタートアップ・アクセラレーター「Plug and Play Tech Center」とのジョイントベンチャーです。

上記の3プログラムに加えてユニバーサルミュージックは初年度には、世界各地で最大10のアクセラレーター・プログラムとの提携を目指すといいます。

ユニバーサルミュージックのデジタル戦略担当取締役副社長マイケル・ナッシュ(Michael Nash)は、アクセラレーター・プログラムが目指すゴールを次のように語っています。「強固なアクセラレーターのネットワークを作ることで、ユニバーサルミュージック・グループは、かつてない刺激的な体験を全てのアーティストやファンに提供するための革新的なアイデアを持った次世代の起業家たちを支援する上で重要な役割を担っていきます」

またユニバーサルミュージックでニューデジタルビジネス部門副社長を務めるツヒン・ロイ(Tuhin Roy)は、アクセラレーター・プログラムによってユニバーサルミュージックが果たす役割についてこう説明しています。「ユニバーサルミュージック・グループは、エンターテインメント業界の中心で活動するクリエイターと、世界各地の起業家たちの活動拠点に集まる革新的なスタートアップのコミュニティとの戦略的な橋渡し役の役割を担う可能性があります」

加速する音楽スタートアップ・アクセラレーター・プログラムの波

近年、音楽スタートアップを専門にするアクセラレーター・プログラムの存在は、世界で注目を集め始めています。しかし、音楽スタートアップの存在や、起業家のコミュニティはまだまだ小さいことは、デジタル化が進む音楽業界において大きな課題です。

しかし、世界的な音楽ストリーミングサービスの成功や、デジタルテクノロジーによる収益源の多様化を受けて、音楽業界はより画期的なアイデアや、ビジネスの課題解決に向けたアイデアを実現する音楽スタートアップの発掘、育成、連携に、これまで以上注力し始めていることが、昨今のアクセラレーターの活動を加速化させています。

アメリカでは、元Twitterの音楽ビジネス責任者で、Topspin Media、Yahoo! Musicなどに携わってきたボブ・モクジドロウスキー(Bob "Moz" Moczydlowsky)が率いる「Techstars Music」や、テネシー州ナッシュビルに拠点を置く団体Entrepreneur Centerが設立した、音楽テクノロジー専門のアクセラレーター・プログラム「Project Music」、シカゴのFort Knox Studiosが運営し、同市では初となる音楽、映画、テクノロジーのB2Bスタートアップ・アクセラレーター「2112」などが、主要な音楽都市を拠点に活動しています。

またイギリスでは、ロンドンにあるビートルズなども使用してきたレコーディングスタジオ、アビー・ロード・スタジオ(ユニバーサルミュージックが所有)が運営するスタートアップ・アクセラレーター「Abbey Road Red」、ロンドンで活動するインディーズレーベル「Marathon Artists」が設立した「Marathon Artists LABS」など、音楽テクノロジーを専門にするスタートアップのアクセラレーター・プログラムを立ち上げ、起業家の支援を始めました。

これらのアクセラレーター・プログラムの登場によって、音楽スタートアップのエコシステムは、新たなフェースに入ったと言えます。アクセラレーターの役割は、IT業界のアクセラレーターとは異なる部分があり、レーベルやアーティストなど音楽業界と起業家とのコラボレーションの促進、数多くの権利とステークホルダーが入り乱れる音楽業界やレコードレーベルのさまざまな機能を理解するためのメンターシップやアドバイザーとの連携と起業家とのマッチングなど、多岐に渡ります。

以前のように、「DIY」的な発想だけで製品化サービス化を目指してきた音楽スタートアップの時代とは明らかにエコシステムが変わり、音楽業界のテクノロジーやスタートアップの発掘とそれに伴う投資活動も活性化していることは明るい未来です。

ソース

(デジタル音楽ビジネスメディア「All Digital Music」で2017年10月18日に掲載された記事に加筆し転載)

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