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「書き捨て」られる苦しみ 部落差別は眠らない

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高知市の市民会館に掲げられたスローガン

「寝た子を起こすな」――。知らない者はそっとしておけば、差別は自動的に消滅するという考え方だ。部落差別については、古くからそんな考え方が提唱されてきた。しかし近年、そこに波紋を広げているのがインターネットだ。ネットの書き込みは削除しない限り、半永久的に消えることがない。あそこは部落だ、あいつは部落だ、と書かれたらその情報が一人歩きを始める。書いた方はすぐに忘れてしまっても、書かれるほうにとっては深刻そのもの。逃れられないもう一つの「部落」がネット上で広がり始めている。
(取材・文・写真/富谷瑠美)

部落差別の発端は、はるか昔に作られた身分制度にある。数百年を経ても、まだ差別は消えていないのだろうか。差別をされている人々は、インターネットの書き込みをどのように感じているのか。書かれる側の気持ちを求め、高知市を歩いた。

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高知市内の様子

■「同和地区」は消滅したが...

部落問題とは、被差別部落出身者に対する差別から生じる様々な社会問題を指す。例えば就職や結婚差別、居住地や職業の制約、それに伴う貧困など――。1993年の調査によれば、当時高知県には73の被差別部落があった(一般社団法人部落解放・人権研究所調べ)。

被差別部落と似通った用語に「同和地区」がある。同和地区とは、昭和44年の同和対策事業特別措置法で、行政により同和対策事業が必要であると認定された地区を指す。高知県では他の自治体同様、予算を投下し、様々な特別対策を実施してきた。しかし対象地域の状況が改善されたとして、2001年度で特別対策を全て終了した。これをもって少なくとも行政的には「同和地区」は消滅したことになる。

このことを根拠に、部落差別はなくなったという見解を持つ人々もいる。

しかし、行政上の同和地区は消滅したとしても、部落に対する差別意識はそう簡単に人々の頭から消えないようだ。高知県が調査した、ある興味深いデータがある。

■30%が結婚「気にします」

2012年度の「人権に対する県民意識調査」で、高知県は県内在住の成人3000人に対して人権問題全般に対する意識を調査した。その中の「同和問題」には、このような項目がある。「同和地区や同和地区の人ということを意識することがありますか」。

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(出典:平成25年「高知市の人権について」)

回答の1位は「気にしたり、意識したりすることはない」(53.0%)だが、2位に迫るのが「結婚するとき」(30.3%)だ。3位は「不動産を購入したり借りたりするとき」(9.2%)、4位は「隣近所で生活するとき」(9.1%)と続く。全回答者のうち「気にしたり、意識したりすることはない」(53%)「その他」(2.0%)を除いた45%の人々が、(かつての)同和地区に対して何らかの意識を抱いていることになる。

実際のところはどうなのだろうか。

ゴールデンウィーク前半、高知駅にほど近いある民宿に泊まった。取材に出ようと部屋の扉を開けると、正面のチェックアウト済みの部屋を筆者と年恰好の近い女性が掃除している。
「すみません、部落差別について取材をしているんですが......」。
恐る恐る話しかけると、案の定女性は「えっ」としばし絶句。
「まあちょっとちょっと、こっち来て座ってください」。

他の宿泊客の目を気にしたのかもしれない。掃除していた畳の部屋に筆者を迎え入れ、向かい合わせに座ってくれた。

「今はね、私は普段そんなに気にしちゃあせんですけど。あ、でも、私にボーイフレンドができると、おばあちゃんが戸籍調べてきます」。

今度は筆者が絶句する番だった。たかだかボーイフレンドの戸籍を調べるとは。と言っても、現在は素人が他人の戸籍を入手するのは不可能なはず――。
「おばあちゃんに聞いてきましょか」
女性はわざわざ、同じ敷地内に住む祖母に聞きに言ってくれた。5分もしないうちに、バツが悪そうな顔をして戻ってくる。

女性いわく、調べる方法は「プロ」か口コミ。もっともムラ社会の高知では、プロに頼まずとも口コミからアタリがつくことがほとんどだ。
「そんなことに首突っ込まんと、ほっとき」。女性は祖母から大目玉をくらったという。

■「関東の人には分からんですよ」
高知市中心部の民宿から徒歩10分ほど離れたイタリアンレストラン。池田始さん(仮名・42)は数年前、友人に相談を持ち掛けられた時のことを話してくれた。友人は部落出身の女性との結婚を、両親に反対されていた。

「『女捨てるか、親捨てるかどっちかよ』って言うたちや。そしたらな――。あっいま、おまんの話をしゆう」。

折しも店に入ってきたのは、池田さんの友人の根津芳樹さん(仮名・39)。「なんや、こんなところで」と笑顔で近づいてきた根津さんだったが、池田さんの次の言葉でその笑顔は消し飛んでしまった。
「おまん、ほら、部落の女、いたじゃろ」

「やめて下さいよ。その話は」。
「この人、部落のこと取材しよるんやって。かまんが、今さら」。
だが根津さんは俯いたきり、一度も目を合わせようとしない。

筆者の出身は関東だが、川向こうには「部落」と呼ばれる地域があった。小学校の頃、道徳の時間に部落差別のビデオを見て感想を書く、という授業があった。「差別は良くないと思いました」。そんな通り一遍の感想文がいくつか読み上げられたが、教師も、感想文を読み上げた同級生も、同じクラスの汚れた服を着てくる男の子には、いつもとても冷たい態度をとる。帰宅して憤慨しながら母親にビデオの内容を話すと、「そうねそうね」と同調してくれた。
だが筆者が「じゃあ、部落出身の人を好きになったら結婚してもいいよね」と聞くと、母は真顔になった。「絶対にダメ」。今思えば「自分は関係ない」と思っている人々の「本音とタテマエ」である。なぜだろう。このことがずっと頭から離れなかった。

こうした話をしても、根津さんは一言も話さないまま、相変わらず地面に視線を落としている。数秒の沈黙の後、やっと視線を上げてこう言った。
「関西はね、関東と違って『濃い』んです。関東の人にはね、分からんですよ」

■寝た子を起こすな、という論理

「あいつは結局、親をとったんよ」。根津さんが立ち去った後に、池田さんが教えてくれた。

「昔っからな、『寝た子を起こすな』ちゅう言葉があるんよ」。池田さんは続ける。同和教育の廃止で、差別を知らない人も増えている。知らせずにそっとしておけば、差別はいつかなくなるという考え方だ。「でもな、ずーっと寝ちょればいいけど、寝た子は寝っぱなしでおらんのよ」

近年、「寝た子を起こす」ツールになっているのが、インターネットだ。

「部落の地名教えて」「エタ(同和地区出身者を指す差別用語)の名字教えて」――。ネット上を検索すると、こうした掲示板やスレッドが無数にヒットする。自分の出身地が載っていれば、いつ周囲に自分の出自がバレるか分からない。もちろんでたらめな情報もある。「部落で交通事故を起こすと、法外な金額を吹っ掛けられる」「足を踏み入れただけで雰囲気が荒んでいる」など、おどろおどろしさをあおった書き込みも多いが、単なる思い込みに基づいて書かれたものが少なくない。

インターネットが身近になる前は、年代や地域によって、部落差別に関する意識に差があった。被差別部落を出ていった若者は、故郷を捨てる代償に、差別から逃れることができた。しかし現在は違うという。部落解放同盟高知市連絡協議会議長の竹内千賀子さんはこう明かす。「故郷を出て行っても、おじおじ(怯えながら)暮らしゆうもんもおるんです」

■罵倒するためだけの「部落」

相手を罵倒するための表現として「部落」が使われることもある。その一例が、2009年に起こった朝日新聞社員による「2ちゃんねる被差別表現書き込み事件」だ。

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朝日新聞社員が2ちゃんねるに書き込んだとされる発言

校閲センター社員(49)が業務用パソコンから、被差別部落出身者や精神障害者に対する差別表現を連続投稿。2ちゃんねる側の調査で、朝日新聞ドメインの1つからの書き込みであることが判明し、当該社員は厳しい処分を受けた。「他の投稿者と応酬するうちにエスカレートしてしまった」と答えたという。

被差別部落との接点も、知識も、思想もないであろう社会人が、相手を罵倒するためだけに「部落」という言葉を使う。人権には人一倍神経を使っているはずの新聞社員ですら、ネット上ではこんなに陰湿になれる。

こうした差別をあおる書き込みは、高知の人々にも届いていた。
「『そんなこと気にするな』と言われるかもしれん。でも、見てしまう。ここに澱のように溜まっていって、息ができんようになる。それがインターネットかもしれんね」。旧同和地区の市民会館で館長を務める岡林さんは、胸に手を当てながら話してくれた。

■子供にも広がる書き込み 後手に回る行政

子供たちの間でも、部落差別の書き込みはより陰湿化し、親や教師の目の届かないところに潜っている。20年以上中学校に教員として勤め、子どもの人権を研究・啓発する千斗枝グローバル教育研究所を立ち上げた山中千枝子さん(62)によると、高知でよくこうした書き込みがされるのは、本来はホストの情報交換をするために設立されたホームページ。実際にそのページにアクセスしてみると、確かにほとんどブログや掲示板のように使われている。

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ホストの情報交換用のホームページにも差別の書き込みが...

こうした同年代が集まるホームページなどに、学校名と氏名を名指しして「部落の子」と書き込む。誰かがまちBBS(地方ごとに分かれて立てられている掲示板のこと)に面白半分で「エタの名字教えて」と立てたスレッドは、170を超えたという。中には明らかに、子供たちが書き込んだと思われる書き込みもあった。

こうした掲示板などで個人の氏名などがさらされている場合は、一刻も早く削除依頼を出す必要がある。現在はほとんどの掲示板やサイトが、24時間から48時間で削除してくれるという。ただ、行政の対応は後手に回っている。県の人権課が報告を受け、当該サイトに削除依頼を出した件数は、平成22年度に2件、平成23年度に6件、平成24年度に2件と微々たるものだ。

■書かれたら、一人歩きする

一度名指しで「部落の子」と書かれれば、インターネット上でその情報が一人歩きを始める。LINEのグループチャットや、検索にかからない裏サイトなどでは、行政や教師どころか書かれた本人すら気づかないこともある。

被差別部落は人為的に作られたもので、差別されるいわれはない。そのため、そもそも「部落の子と書かれるのを恐れる」こと自体がおかしいのだが、子供たちは必死だ。

千斗枝グローバル教育研究所の山中さんはこう指摘する。「ネットに書かれていることだけで、自分で判断するしかない。知らないから同調するしかない。同調するから、差別が拡大する」

教育現場でも、今や部落差別は「してはいけないもの」としてしか触れられないという。部落差別について本格的に学ぶ機会がないということだ。

「部落問題について、ネットでしか知らない今の子らは、親に『結婚するな』と言われても闘うすべがないのではないですか」

ネット上で部落問題が語られる時、よく挙げられるのが同和利権という言葉。部落出身者が就職や住居補助などで逆差別、つまり優遇されているのではないかという指摘だ。例えば高知県では2001年、部落解放同盟県連幹部が関係する企業(モード・アバンセ)に県が予算を流用して12億円を注ぎ込んでいたという、いわゆる「闇融資」事件が発覚している。

しかし法的措置の終了によって状況は大きく変わった。現在、高知市では旧同和地区に対する補助金などは全て廃止済み。「例えば貧しい人への支援であれば、同和というくくりではなく、生活保護の枠組みで救う」と県の人権課は説明する。

■終の棲家が300人の雇用を生んだ

取材して印象的だったのは、部落出身であっても「我々を特別扱いせよ」という人は1人もいなかったことだ。

旧同和地区の市民会館で事務員を務める女性は「部落差別だけやない。朝鮮の人も体が悪い人も、一緒」と言っていた。部落差別だけではなくあらゆる差別を許してはいけない、という意味だ。

「地区の子らはなんとしてもみんなで守る。子供が殴られるくらいなら自分が、という母親の気持ちと同じかもしれん。そういう時、殴られても『へへっ』と笑うことはできるかもしれん」(市民館長の岡林さん)

差別を力に変え、福祉の分野でその力を発揮している人々もいる。
 
高知市内にある「やさしい里グループ」は、グループホームやデイサービスセンター、高齢者向け住宅など、高齢者福祉関連の施設群。高知市の部落解放同盟の母ともいえる社団法人高知市労働事業協会の森田益子さん(90)によって作られた。

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取材に答える森田益子さん(90)

先頭に立って、差別の時代を戦いぬいてきた森田さん。90歳にして「わては闘うおなごよ」と笑う。

■自由と苦しみは別物
 
貧しい人も多かったかつての同和地区では、高齢者施設に入れないお年寄りも多かった。森田さんの願いはそうした人々を救うと同時に、被差別部落に雇用を創出することだった。数十年かけてそれを実現したのが、一連の「やさしいグループ」の施設群だ。高齢化が進む高知県で、現在は市内の全域からお年寄りを受け入れている。

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「やさしい里」に掲げられた水平社宣言

小学校では「へんど(乞食)」と呼ばれる。12歳で身重の母を亡くし、実母を含めて3人の母を持つ。17歳で結婚、二男をもうけたが長男は25歳で亡くなり、次男は覚せい剤中毒で2回刑務所へ――。そんな中で森田さんは半世紀にわたって戦ってきた。高知市議会議員を経て県議会議員。そして部落解放同盟県連委員長。女性ということを考えると、生易しい人生ではなかっただろう。しかし、近くで見続ける山崎誠躬さん(69)は森田さんのことを「自由」と表現する。

「自由と苦しみは、違うんよ」
「苦しいから自由ではない、ということではない。僕から見ると、森田さんは自由に生きたと思う。たとえ差別からは、解放されなくてもね」

森田さんの理念は「福祉こそ究極の解放」。森田さんの言う「福祉」は「雇用」という意味合いも強い。「やさしい里」は貧しい人の終の棲家になるとともに、常勤、非常勤併せて300人以上の雇用を生んでいる。これらの施設の総工費11.5億円は森田さんによると、同和事業に対する補助金ではなく、同盟員や市の職員からのおよそ30年分の浄財(寄付)から支払われているという。

グループホームとデイサービスセンターをそれぞれ見学させてもらった。5月5日、15時少し過ぎ。18人の高齢者が入居しているグループホームでは、個室を出て廊下を歩いたところにある居間のような広めのスペースにはこいのぼりや鎧兜が飾られている。この日はこどもの日なので、職員たちが入居者の集合写真を撮るという。職員の声かけで、個室から入居者たちが、目をこどものように輝かせて集まってきていた。

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グループホーム内で語らうお年寄りたち(左)と、日当たりのよいホームの個室

こちらはデイサービスセンターよりも介護度が高いお年寄りが多い。1人6畳ほどの個室があり、室内には車いすのまま入れる広いトイレもある。介護度にもよるが、家賃はだいたい3万2000円以下、食費や介護費などを入れても生活保護で十分入居できる額だ。少し離れた高齢者向け住宅「いきいきの里」にも、高齢者たちが入居している。ヘルパーは常駐していないが、約20部屋にはそれぞれナースコールボタンがついており、夜間は夜警が見回りに立つ。

デイサービスセンターでは10人ほどの老人たちが、帰宅前のおやつを食べ終わったところだった。子どもの日が近いからか、食堂には兜が飾りつけられている。

老人達は月曜日から土曜日まで、平均して月に12回程度、このデイサービスに通う。通所料金は要介護度によって異なるが、介護度2では831円、入浴をする場合は851円。他に1日500円のおやつ代が必要だが、生活保護を受けている人など、支払いが苦しい人の場合は減額する場合もある。

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おやつを食べる老人たち(左)と帰宅時の様子

杖や歩行器で歩き、おしゃべりしながら帰宅する高齢者たちは、一見すると元気そうに見える。ただ、話を聞いていると会話がかみ合っていない場合もある。認知症のためだ。80代の女性のとある女性は、額に大きな赤黒いたんこぶを作っていた。まだ暗い早朝に1人自転車で出かけ、転倒してしまったという。そんな状態でも、デイサービスに通ってきている。額の傷は痛々しいが、通所仲間の友人と会うのが何より楽しみだという。

■直接言い返せない

「出自を知られない自由」は全ての人にある。しかしこの「やさしい里」で働くある男性は「名前を出してかまわんです」と言って筆者の取材を受けてくれた。デイサービスセンターの管理者を務める竹内康輔さん(38)だ。

「(部落差別の問題を)知らん人がいるといっても、結婚の時に調べる人は調べよる。ほっといてくれ、そっとしといてくれ、と言ってもそうはならんのです」。

部落差別について、昔と変わらないこと、変わったことをそれぞれ話してくれた。
「おんなじ悪いことしよった時でも、地区外だと『悪い奴もおる』。地区内だと『これだから部落のもんは』と言われる。それは昔から変わらんのです」。
「私は地区外の人とお付き合いする前に、自分の出身を言うようにしちょります。それで(差別を受けるのが)直接であれば、きれいに言葉で言い返せる。でも誰が書きよるか分からないネットだと、できんのです。相手の挑発にのって書き込めば『ほら見ろ』と言われるのが分かっちゅう」

そう話してくれた竹内さんは、最後にポツリと言った。

「同じ(人間)やのにね」

■高知の差別は「他人事」か

今回話を聞いたのは、東京から遠く離れた高知市の人々。だが差別表現を書き込むことは、ネットユーザーならどこの誰にでもできる。書く側にとっては「書き捨て」かもしれないが、書かれる側の苦しみは少しでも伝わっているだろうか。

意識せずとも、ネット上で差別表現を目にしてしまう人は多いはずだ。なんか恐そう、だけど自分には関係ない――。そう思っていた人の前に、いざその地区の出身
者が現れたら、果たしてどんな反応をしてしまうのか。我が事と捉えない限り、部落差別が消えることはないだろう。

(この記事はジャーナリストキャンプ2014高知の作品です。デスク:依光隆明)

【筆者プロフィール】
1983年埼玉県生まれ。外資系コンサルティング会社で全国紙のコンサルティング、日本経済新聞社 電子報道部で日経電子版テクノロジーセクションの記者を経て2014年よりフリー。