世界の安価な医薬品のために日本ができること、しなければいけないこと

安価な治療にとって、世界中で重大な脅威となるだろう。

2017年2月27日から1週間、第17回東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉会合が神戸市で開催される。日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドと東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国が参加し、知的財産権を中心とした貿易交渉を続ける。

RCEP交渉国は、世界人口の約半数を抱えるだけでなく、世界で最も貧しく周縁化された人びとが暮らす地域でもある。一方、世界中の人びとが利用する安価な医薬品とワクチンを製造する大手メーカーも擁しており、それら製薬企業は治療革命の先駆けとなってきた。

例えば、HIV治療の第一選択薬の価格は、2000年には1万米ドルだったが、インド産のジェネリック薬(後発医薬品)による競争と、中国産の安価な医薬品原料によって、現在では100米ドルまで引き下げられた。

RCEP合意は貿易を大幅に促進するとみられているものの、安価な治療を必要とする人々にとって、重大な脅威になりうることを知っている人はどれ程いるだろうか。世界有数の大手製薬企業を有する日本は現在、RCEP域内の新興市場に勢力を確保すべく、条項に含まれる有害な知的財産権規定を推進している。

これらの規定は世界貿易機関(WTO)の要件よりはるかに厳しく、製薬企業の特許条項の拡大を目指している。これによりジェネリック薬による競争を遅らせ、独占を維持し、治療費をさらに高騰させるとみられる。安価な治療にとって、世界中で重大な脅威となるだろう。

保健医療体制の根幹を揺るがす

MSFは薬価高騰がもたらしてきた惨状を踏まえ、富裕国に対して、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定をはじめとした過去の貿易協定においても有害な知的財産権条項を取り下げるよう、繰り返し要請してきた。自由貿易協定で知的財産権規定を厳格にすることは、保健医療体制の根幹を揺るがすからだ。

各国政府は現在でさえ、C型肝炎や薬剤耐性結核、がんなどの重病治療で、維持できないほど高い薬価に直面し続けている。

また知的財産権による市場の独占は、新たな国際公衆衛生の課題に対しても解決策とはなっていない。

例えば今、抗菌薬耐性に対応し得る新たな抗菌薬の研究開発が求められている。特許制度によって膨大な利益が見込まれるにも関わらず、新薬の開発は進んでいない。特許による独占は価格の低下を妨げる一方で、必要とされる新薬開発のインセンティブにもなっていないのだ。

17年前、もし知的財産権がRCEPにみられるような条項に支配されていたら、HIV治療薬の価格は下落せず、HIVに感染した数百万の人々が命を落としていただろう。日本は今、同様の悪夢が起きる事態を防ぐために重要な役割を果たすことができる立場にある。

国内においても、国民皆保険制度内でジェネリック薬の割合を増やそうという提案が出されているが、日本は国連において、また先進7カ国(G7)で見せたリーダーシップを通して、安価な治療を推進する最前線に立ってきた。

日本は今回の神戸会合で、命を脅かす知的財産権条項をRCEPから削除することで、そうした提案を実行に移せるのではないだろうか。

RCEPがなぜ"有害"な協定なのか、こちらもご覧ください。

「カイセツ!RCEPって知っていますか?」

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