BLOG

次なる感染症の世界的流行への備えはできているか? 世論は否定的

2015年08月13日 21時16分 JST | 更新 2016年08月13日 18時12分 JST

nurse

リベリアの首都モンロビアで患者の体温を測る看護師

外交官や科学者の間では、こと外交政策や世界的脅威への取り組みに関する限り、一般市民は何が最善策なのかをよく理解していないという通論がまかり通っている。課題が複雑すぎて一般には理解し難いからだと専門家は言うのである。だが、最近行なわれた世論調査の結果を見ると、感染症の世界的流行が人命と経済に深刻な脅威となり得ること、そして、そのために何をすべきかを多くの人々がよく理解していることが示されている。

世界銀行グループが外部委託し、フランス、ドイツ、日本、英国、米国の先進5カ国で計4千人を対象として実施した世論調査によると、大半の人が、次なる世界規模の感染症流行に対して、自国を含め世界的に十分な対策が整っているとは思えないと回答した。「今後10年以内に再度世界規模の感染症が流行するか」という質問に対し、「流行する」と回答した人は「流行しない」と回答した人の2倍に上り、国の対策が整っていると確信する人は半数にとどいていない。さらに、「国際保健と感染症の大流行」は、テロ行為、気候変動に次ぐ世界的な不安要因と位置付けられている。

今回の世論調査は、世界保健機関(WHO)がエボラ出血熱を、最高の警告レベルである「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」と宣言してから1年後に行われた。この宣言は国際社会による大規模な対応の引き金となったが、既に西アフリカで最初の患者が確認されてから8カ月が経過していた。そして今、11,000人以上の死者を出し、何百万人もの人々の生活を破壊し、数十億ドルに上る収入喪失をもたらした後も、この脅威はいまだに終息せず、新たな症例が報告され続けている。最近でも、高い感染率をもつ中東呼吸器症候群(MERS)ウィルスが韓国で広がり、同国のGDP成長率を6年来の低水準に低迷させる原因となった。

エボラ出血熱とMERSのウィルスは、患者との直接接触が感染の原因であることから、感染を数カ国内に封じ込めることができた。しかし、これがもし、1918~19年に大流行したスペイン風邪のような空気感染で瞬く間に広がる疾病だったらどうなったであろうか。あるシュミレーションでは、今日もしスペイン風邪のような感染症が流行すれば、250日以内に3,300万人以上の死者がでると予想される。そして、そうした致命的な感染症の流行は、世界のGDPの4.8%に相当する3兆6,000億ドル以上の経済的損害をもたらすとの試算がある。

次の感染症流行に対する備えができていないとする世論は正しいのである。現在の感染症対策は、1年前とさして変わっていない。だが、対策を講ずることは可能だ。それも、即座に対応をとらなかった場合に発生するであろう損害に比べれば、わずかで済む。そのためには、次の3点を実施する必要がある。

第一に、すべての国が強靭性に更に投資することである。これはまず、質の高い基礎介護、疾病監視、そして診断能力を兼ね備えた強固な保健医療システムの確立から始まる。地域の保健医療従事者の訓練を行ったエチオピアとルワンダのような成功例を拡大すべきだ。保健医療従事者は、より多くの患者にアクセスできる上、今後の疾病の流行を水際で食い止めることができる。目標は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)である。誰もが必要なケアを享受すべきである。こうしたサービスを十分受けられない地域では、自国民だけでなく世界中の人々がリスクに晒されるのである。

世論はこのことをよく理解している。途上国の医師、看護師、診療所に投資すれば、自国内での感染症流行を防ぐのに役立ち、人命を救い、資金の節約になるとする回答は、優に過半数を超えている。だが、韓国の体験が示すように、最新の保健医療システムをもってしても、感染症の流行に備えるためにはより一層の努力が必要なのである。

第二に、世界規模の感染症流行に対する、多くの関係者の英知を結集できる協調性の高い、一段と優れた準備態勢と対応システムが不可欠である。WHOもより一層の資源が必要だ。エボラ出血熱に対する初期対応では、「国境なき医師団(MSF)」の果敢な活動に大きく依存した。感染症の発生を止める事はできない。だが、それが致命的で莫大な費用と犠牲を強いる地球規模の流行へと発展する前に封じ込めることは可能だ。そのためには、資材・人材のサプライチェーンを素早く設置して利用できるよう、中央・地方政府、国際機関、民間セクター、そして非政府組織(NGO)の間で、予め取り決めて緊密に協調することが前提となる。エボラ出血熱の初期対応で締め出されていた民間セクターは、市場規律やイノベーション、資源の導入を担うことができる。

第三に、危機の兆候が見られたら即座に、緊急資金を提供し対応チームを迅速に配備できなければならない。感染率の高い感染症には、従来のような資金を募る方法では間に合わない。世界銀行グループは、解決策の一つとして、「パンデミック緊急ファシリティ(PEF)」と呼ばれる仕組みを設定すべく、WHOや他の機関と協力している。6月にドイツで開かれたG7で各首脳の支持を受けたこのファシリティは、感染症の世界的脅威を効果的に封じ込めるため、当該国や対応する国際機関に十分な資金を迅速に提供することを目指している。同ファシリティは、保健医療従事者の増員や緊急時対応センターの設置のための資金を素早く提供できるよう、民間保険の活用や不測の事態に備えた公的資金のプールといった革新的な資金調達法を検討中である。このモデルは既に、各国政府による気候変動・自然災害リスクへの適切な管理にも活用されている。

保険会社の幹部3万人を対象とした2年前の調査では、世界規模の感染症流行が最大の懸念事項として挙げられた。しかし、彼らの警鐘は、重症急性呼吸器症候群(SARS)や鳥インフルエンザの時と同様、今回のエボラ出血熱の際も無視されてしまった。この世論の強い支持を受け、エボラ出血熱の苦い体験を教訓として、いまこそ感染症の予防と対策に取り組む時なのだ。そして、行動が伴わない議論の悪循環を断ち切らなければならない。

ジム・ヨン・キムは世界銀行グループの総裁である。

関連ページ