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「私心なき大統領」~韓国人が朴槿恵大統領に抱いていた幻想は、すべて崩れた

投稿日: 更新:
PARK GEUN HYE
Kim Hong-Ji / Reuters
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フロイトは、政治の本質をこう述べた。「私の生業は心理分析(psychoanalysis)だが、政治家の生業は精神統合(psychosynthesis)だ」。政治的な精神統合で最も典型的なものは、指導者への幻想だ。政治の指導者の「実体」とは、伝言とイメージをもとに統合された幻想であり、「偉大な」政治の指導者とは、多様な幻想をより多く凝集した存在といえる。

朴槿恵大統領は「偉大だ」と言える様々な層の幻想を集めている。彼女は朴正煕大統領と陸英修女史の娘であり、両親に投影された幻想全てを引き継いでおり、それも実にそれらしい形で統合されてきた。1960~70年代の経済成長と独裁政治に要約される父の二面性と、母の醸し出す慈愛あふれるイメージが統合され、「暴虐な独裁なき経済成長の可能性」という幻想が作り上げられた。彼女はまた母親をテロによる銃撃で、父親を側近の暗殺で悲劇的に失った。多くの人々が彼女を憐れみ、経済成長のおかげで生活がよくなったなら、何か恩返しをしなくてはいけない相手のように考えた。

彼女は結婚していない。兄弟がいるが、仲が悪く、家族がいないも同然だった。自分でも「私に子どもがいると思うか」「国家と結婚した」と言ったこともあった。大統領が代わるたびに親類縁者の不正が騒がれるが、強い家族主義的な情緒から誰も自由になれないこの国で、この言葉は幻想を煽った。家族もいない人の「公正な心」を疑うのは行き過ぎたこととされ、私心に満ちあふれていた李明博・前大統領に疲弊した人々には、この上なく輝かしいものだった。

しかし、全ての幻想が壊れた。経済成長はなかった。さらには「国民の幸福」もなく、代わりに「ヘル朝鮮」という言葉が流行した。気に入らない人は与野党を問わず容赦なく捕らえられた。そこから人々は独裁なき成長ではなく、成長なき独裁を目の当たりにした。

2014年にセウォル号沈没事故が発生した後、遺族らの拠点となったペンモク港を2回目に訪問した朴大統領は、遺族に対し「家族を失った悲しみは経験したことがあり、よくわかる。皆さんがどんな気持ちが考えると胸が締め付けられる」と話した。しかし、その後の行動は言葉通りではなかった。朴大統領は「ハン(怨恨)」の多い人だ。そんな彼女を大衆は気の毒に思い、大統領になったら、その「ハン」から解放され、情を施してくれるだろうと信じた。しかし、セウォル号遺族に見せた姿は自身の「ハン」に閉じこもり、共感能力を失った人だった。

そして、ついに最後の幻想が壊れた。金などには関心がなさそうだった大統領が、財閥から資金を集めていた。家族はいないものと思っていたが、家族同然の、いや家族以上の人々が存在した。そうでなければ、あれほど多くの国家機関と多くの財閥、そして「名門」梨花女子大までもが、大統領の実の娘にも与えないような権勢を、崔順実氏の娘に与えただろうか(訳注:梨花女子大は崔順実氏の娘の不正入学疑惑が持ち上がった)。いくら何でも公正な心だけはあるだろうと思っていた朴槿恵大統領にも、公正な心はなかった。いや、もっと正確にいえば、彼女は公正な心と私心の区別以前に、全ての私心は公正な心と信じる人だった。

全ての幻想が壊れた状態で、我々はこの多くの「ハン」と復讐心あふれる大統領を呆然と眺めている。そして「国軍の日」の記念演説から推測するに、大統領は南北関係の重大問題が手つかずで放置されている幻想の場を「宇宙が乗り出して」助けに来てくれることを強く願っているようだ。

ハフポスト韓国版に掲載されたものを翻訳しました。