ネット投票へのハードル、一番難しいのはこれ。

低投票率打開のカギと目される「ネット投票」を一回ちゃんと考えてみましょう。

12/14投開票の衆議院議員総選挙は、投票率52.67%と、戦後最低を大きく更新しました。この低投票率が日本の将来にとって、大きな不安材料であることは論をまたないでしょう。低投票率打開のカギと目される「ネット投票」を一回ちゃんと考えてみましょう。

■若年層ほど、政治を身近に感じられない

衆院選:投票率は戦後最低に 推定52.67% - 毎日新聞

先の総選挙の最大の問題、低投票率。

特に、若年層ほど投票に行かない傾向はどの選挙でも共通しています。

総務省|国政選挙の年代別投票率の推移について

20代・30代の投票率の低さが顕著です。

理由は様々あるかと思いますが、私としては「若年層ほど、政治を身近に感じられないからではないか」という心証を持っています。

若いうちは、自分の生活と政治がどう関係しているのか理解しにくいものです。

人生において、政治と生活が密接に関係していると最初に実感するのは、「結婚・出産」を経てからではないでしょうか。

出産の手続きで役所をたらい回しにされたり。

出産一時金、健診、ワクチン接種、etc...

「保育園に入れないじゃない!」

「子ども手当が減らされた!」

「隣の区は育児相談が手厚いのに、うちの区は全然だめ...」

「財務省が35人学級を40人に戻そうとしているぞ!」

子育てをしていくと、政治がいかに私たちの生活に密接に関わっているか、いやでも実感することになります。

そういう経験がないと、「政治参加が重要」と言われても、なかなかピンと来ないのではないかな...?と感じたりしますが、いかがでしょうか。

しかしこのままでは、政治に対して投票行動でプレッシャーをかけてこない若年層に対する政策が薄くなることが懸念されます。

少子高齢化社会において若年層施策は重要であるはずなのに、このままでは日本の将来が危ぶまれます。

■ ネット投票へのハードル、一番難しいのは?

若者の意識の低さを嘆くのも結構ですが、あまり生産的な気がしませんので、投票しやすくなる環境づくりを論じてみましょう。

やはり、切り札は「ネット投票」ですよね!

携帯やスマホでその場で投票できれば、そりゃ投票率は上がるでしょう。

多額の銀行決済もネットでできる今、ネット投票ができないことがあろうか?

というのは自然な考え方ですよね。

では、ネット投票をやろうとした場合、どのようなハードルがあるかをざっと列挙してみましょう。

1. なりすまし対策

2. 結果の改ざんへの対策

3. 投票の秘密の確保

4. ネットを使いにくい方への対策

5. システム障害への対策

1。自分じゃない人間がいつの間にか自分になりすまして投票されたら、困りますよね。

2。誰かにサーバに侵入され、集計結果をチョチョイと改ざんされたら大変なことになります。

3。誰が誰に投票したか、わかってしまうようでは困るのでは?

4。高齢の方は携帯も持っていなかったり、持っていても電話以外使えなかったりする方はまだまだいます。もちろん、障がい者や要介護者をどうするかも考えなければいけません。

5。国の行く末を決める選挙でシステム障害が起こったら目も当てられません。

さて、これらのうちで、一番困難なハードルはどれだと思いますか?

■ 一番難しいのは「秘密投票主義の維持」

1・2・5はもちろん大問題ですが、それを言ったら、億の取引を行なっている電子決済で同じことが起こっても大問題なわけですから、電子決済が実現できている今、1・2・5については「がんばんなさいよ」と言うしかないわけです。

既に地方選挙で電子投票が実現していますが、システムの信頼性に疑問符がつき、撤退した自治体もあるそうです。

日本の国政選挙はどうして「電子選挙」を導入しないの? | web R25

が、これはもう、十分な予算をつけてしっかりプロジェクトマネジメントしてがんばってね、という話です。

地方選挙で電子投票ををやろうという自治体には補助金をつけるとか、国にやってほしいですね。

4については、紙の投票を維持すればよいでしょう。

当面は、これまでの紙投票の仕組みはすべて維持した上でネット投票をやるしかないと思います。

最大の課題は「3. 投票の秘密の確保」です。

公職選挙法第46条第4項には「投票用紙には、選挙人の氏名を記載してはならない」と記されています。

これは「秘密投票主義」と呼ばれ、公正な選挙のための極めて重要な概念です。

例えば、ネット投票が実現したとしましょう。

記念すべき最初のネット投票国政選挙。

公示日前日、あなたの勤める会社の社長がこう言い出しました。

「あー、チミたち。

来たる総選挙には、○○候補に必ず投票してもらうから。

明日の公示日、各課の課長がチェックしている目の前で、チミたちの携帯・スマホから○○候補に投票してくれたまえ。

このようにしなかった者については、ボーナスは...ゲフンゲフン」

こんなことを言われたら、みなさんはどうしますか?

ボーナスをカットされても自分の信念に従って投票する...なんて人は、極めて少数でしょう。

投票の秘密が守られないと、金や権力の力に、たやすく投票結果は流されてしまいます。

「秘密投票主義」を維持することは、公正な選挙の絶対的必要条件なのです。

現在の投票方式なら、投票用紙に名前を書く瞬間、それを見ている人間は誰もいません。

たとえ職場から「○○候補に入れるように」と言われたとしても、最後の瞬間で自分の良心に従って投票することが可能になっています。

スマホ・携帯から投票可能になったとき、投票の秘密を守るにはどうすればいいか...?

残念ながら、今の私にはアイディアがありません。

ネット投票最大のハードルは、ここにあるのです。

■ ネット投票以前でもできることはある―駅やコンビニでの投票は?

とはいえ、現実的には上記1〜5のすべてが困難なハードルであり、一朝一夕にはクリアできないでしょう。

特に、投票結果が「誰もがチェック可能な」紙という形で残っているのは大きなメリットです。

いざというときには、投票用紙の現物をもう一度チェックすればいいわけですから。

投票結果が完全なデジタルデータになったとき、その投票結果になりすましや改ざんがないということを「誰もがわかる形で」証明することは難しく、技術的な努力と合わせて、広範なコンセンサスも必要でしょう。

しかし、ネット投票以外でも、もっと投票しやすい環境づくりはできるはずです。

例えば、駅やコンビニで投票できるようにしては?

誰が監視するのかという問題はありますが、それはリソースだけの問題のはずです。

国の行く末を決める選挙で、半数の有権者が投票を放棄したという現実を前に、政治家はあらゆる手段を検討する責任があるはずです。

私はまず、板橋区議会で投げかけてみたいと思っています。

(2014/12/25 訂正)

「既に地方選挙でネット投票が実現していますが」は、正しくは「既に地方選挙で電子投票が実現していますが」でした。

また、「地方選挙でネット投票ををやろうという自治体には補助金をつけるとか」は、正しくは「地方選挙で電子投票ををやろうという自治体には補助金をつけるとか」でした。

お詫びして訂正いたします。

(2014年12月23日「中妻じょうたブログ」より転載)

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