「地域がもっと好きになった」子供たちが自分で作った〝地元るるぶ〟

2015年03月01日 23時25分 JST | 更新 2015年03月02日 00時51分 JST

観光ガイドブックでおなじみの「るるぶ」を自分たちの手で作ろう。そんなユニークな試みが、福岡県の小学校で行われました。

自分たちが住んでいる町や、身近なエリアを題材とした情報誌を作る授業「るるぶこども編集」。ポイントは、「観光情報の発信」が目的ではなく、制作過程を通じたこども達の「生きる力の育成」が目的ということ。地域共生の取り組みとして、「こどもたちの〝生きる力〟を育みたい」「地域愛を醸成し、さまざまな世代との交流を生み出したい」というJTBの思いが込められています。2014年3月、小学生が取材・編集した初めての「るるぶ」が完成したのです。

■プロの編集者が教えてくれる授業に興味津々のこどもたち


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2013年、福岡市立香椎下原(かしいしもばる)小学校の5年生が、2学期から「総合の学習」の授業で「るるぶこども編集」の制作を始めました。20時間の学習の中で、児童たちが自通学区域にある自然や歴史、お店、行事などを自分たちで取材・編集し、「るるぶこども編集 香椎下原小学校」を制作していきます。

初めに、JTB九州の社員が外部講師となり、児童たちにJTBという会社や「るるぶ」について解説しました。「るるぶ」を発行するJTBパブリッシングの社員も教壇に立ち、雑誌編集という仕事の中身について講義しました。なじみのある「るるぶ」の制作現場の話に児童たちは興味津々です。1冊の「るるぶ」制作にはライターやカメラマン、デザイナーなど大勢のスタッフが関わっていること、そして、少人数のスタッフでたくさんの情報をとりまとめて編集しているという話に驚きの声が上がりました。

児童たちによる作業は、地域のネタ(素材)集めからスタートしました。雑誌に載せるとおもしろそうな場所、お店、イベントなどの情報を300個を目標にして集めました。集まった素材を「学ぶ(見る)」「グルメ(食べる)」「自然(遊ぶ)」の学校独自のコンセプトに沿って3つにジャンル分けし、取材するべきかどうかを話し合いながら取捨選択します。素材ごとに取材チームを振り分け、実際にその場所やお店を訪問して取材します。児童たちはこどもの目線で住民や店主に質問し、新たな発見をするとともに取材対象を深く理解していきます。

取材後、JTBパブリッシングが用意した誌面フォーマットに写真を当てはめ、文章を執筆していきます。限られた文字数で必要な情報を盛り込むのは簡単ではありませんが、先生のアドバイスのもと、こども目線ならではの生き生きとした文章がつづられていきます。


校正を経て、翌2014年3月、全8ページの「るるぶこども編集 香椎下原小学校」が完成。現物が届いた際には児童たちから歓声が上がり、自分たちが苦労してつくった「るるぶ」を手に思い思いに喜びを表現していました。

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■「未来を担うこどもたちに生きる力を」JTB九州 山口章宏


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JTB九州 本社営業部 法人営業課 山口章宏(元 地域共創戦略室)


「るるぶこども編集」のアイデアは、JTB九州 地域共創戦略室のスタッフ5名ほどによる徹底的なブレインストーミングから生まれました。かねてから地域課題の解決と自社の成長を同時に追求する地域活性化事業モデルの必要性を強く意識しており、多くの議論を重ねてきました。そして、まずは地域の課題に正対することが最初の入り口だと思い至りました。

2013年4月から始めたブレストでまず行ったのは、地域課題の抽出です。環境、所得格差、日本の学力、人口減少などさまざまなキーワードが挙がるなか、私たちが注目すべきキーワードとしてみんなの腑に落ちたのが「生きる力」という言葉でした。とはいえ、非常に大きな概念ですし、生きる力とは何かを突き詰めることは容易ではありません。そこで、「生きる力を誰につけたいか」と発想を変えたところ、「未来を担うこどもたちに生きる力をつけたい」という目標が見えてきました。文部科学省は新学習指導要領で「こどもたちの『生きる力』を育むためには、学校・家庭・地域の連携・協力が必要です」とうたっていることも知って国策に連動する取り組みにもなると確信し、内容をブレイクダウンしていきました。

地域愛の醸成、幅広い世代とのコミュニケーションの機会、仲間と一体感をもって取り組むこと、挑戦し達成する喜び。こどもたちに必要な「生きる力」について私たちはこのように考えました。では、JTBとして何ができるのか? ブレストのなかで、JTBには「るるぶ」がある、こどもたちが自分たちの町の「るるぶ」をつくることで、すべてを同時に叶えることができるのではないか、という意見が出ました。即座に、全員が「それだ!」と目を輝かせました。ここまで約4カ月が経過しており、思い起こせばまさに生みの苦しみの末に捻り出した渾身のアイデアだったと思います。


■取材をきっかけで生まれた交流「地域がもっと好きになった」

事業化にあたっては、ブレストで積み上げてきたとおり、こどもたちが「るるぶ」をつくる意義について正確に伝えることに力を入れました。学校関係者の皆様含め私たちの思いを伝えると、全員から「おもしろいね」と笑顔がこぼれました。そんな反応に、私たちの目指すものが間違っていないと確信することができました。

8月にとある校長先生に事業化についての意見を伺ったところ、それならちょうど総合の学習での新たな取り組みに熱心な学校があると、香椎下原小学校を紹介していただきました。ありがたいことに話はとんとん拍子に進み、9月下旬には早くも外部講師として1回目の授業を担当することになりました。すべてが手探り状態で困難の連続でしたが、中心となって進めてくださった工藤沙織先生の尽力のおかげで、年度内に無事刊行に漕ぎつけることができました。

冊子の納品時に行われた公開授業には、テレビ局をはじめとする地元メディアが取材に訪れ、「るるぶこども編集」の取り組みが地元で大きく報道されました。掲載したお店へは、児童が完成報告を兼ねて自分たちの手で冊子を届けました。取材をきっかけに生まれた地域とこどもたちの交流が今後も続いていくことを心から願っています。制作に携わった児童からは「地域を身近に感じるようになった」「地域のことがもっと好きになった」「地域行事に前より参加するようになった」といった声が聞かれ、うれしく思いました。また、先生方からは「実際に立派な冊子を手にすることで、こどもたちの自分たちでやり遂げたという実感はさらに大きなものになった」との感想をいただきました。地域の交流を通じて豊かな人間性を育み、生きる力を育んでもらうというチャレンジに確かな手ごたえを感じました。

今回、可能な限り授業を聴講させていただいたのですが、こどもたちが非常に楽しみながら取り組んでいる姿がとても印象的でした。今後は授業を進める先生の負担を減らすマニュアルやフォーマットを作成し、「るるぶこども編集」が永続的なブランドになるように事例を増やしていきたいと考えています。

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るるぶこども編集に関わったJTB九州社員。

■「これからの人生、新たな物事に関心を持ち続けてくれることに期待しています」香椎下原小学校 戎崎典子校長


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典子校長(左)と、工藤沙織教諭(右)

−−「るるぶこども編集」を総合の学習に採用したのはなぜでしょうか?

戎崎校長

「5年生の総合の学習で地域を取材する内容の授業を検討していました。これまで児童の通学区域を調べて安全マップを作成したことがありましたが、それでは地域の方とコミュニケーションをとる機会はなく、物足りなさを感じていました。その点、『るるぶ』の取材はこどもたちが地域の方との接点をもち、地域を深く理解することができ、私たちが実現したい授業内容に合致すると考えたからです。5年生は田植えや近隣の山への登山教室も実施する学年です。そのような体験や地域の自然情報もあらためてまとめることで、充実した内容になると思いました。しかも、1回限りの取り組みに終わらず、次の学年につなげていける点も優れていると感じました」

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るるぶ制作するための雑誌編集の学習内容。いつもと違う授業内容に、児童たちは興味津々です。


−−5年生全体を調整し、授業を先導していった工藤沙織先生は、こどもたちが授業に取り組む姿をどうご覧になっていましたか?


工藤先生

「こどもたちは"編集"という仕事に非常に興味を持ち、モチベーションを高めました。私たち先生ではなく、本業の外部講師の話を聞き、編集には半年もかかるのか、いい本をつくるためにはたくさんの素材を集めなければならないのか、と納得してスタートできたことも、児童の意欲につながったと感じています」


−−授業の中で「るるぶこども編集」の成果を感じられましたか?


工藤先生

「社会の時間で『調べ学習』をすることはありますが、調べる内容と自分との関わり、そして、なぜ調べる必要があるのかを理解させるのはむずかしいものがあります。ですが、『るるぶ』を編集する場合は自分と地域の関係について自然と考える機会が生み出されます。また、『るるぶ』を完成させるという大きな目標があるため、長いスパンでも根気強く取り組んでいけることもよい点だと感じました。オリジナルの雑誌をつくるという取り組みをしている学校はありますが、専門家がこれだけ関わってきちんとしたものをつくる試みはなかったことでしょう。こどもなりのプロ意識をもって臨める点が画期的だと思います」


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地域で集めた312のネタ(情報)は、「学ぶ(見る)」「グルメ(食べる)」「自然(遊ぶ)」のコンセプトに沿って3つにジャンル分けします。


−−「るるぶこども編集 香椎下原小学校」が完成後、先生方はこどもたちに「生きる力」が育まれたと感じましたか?


戎崎校長

「それはこれからの人生でわかってくることだと思います。今回、こどもたちは地域を見つめることの大切さとコミュニケーションをとることの大切さを実感したのではないでしょうか。そして、情報を整理分析するなかで、仲間がどのような価値観をもっているかに関心を持ち、また、そのように仲間を知ることの大切さにも気づいてくれたことと思います。また、こどもたちが香椎下原地区のメッセンジャーになれたことをうれしく感じています。これからこどもたちが進学したり、社会に出て香椎下原ってどんなところかと聞かれた際、るるぶの経験を活かして地元への愛情をもって自分の言葉できちんと紹介することができるはずです」


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完成したるるぶを、取材したお店の方にお届け。児童達の笑顔が誇らしげです。


−−「るるぶこども編集」の経験がこどもたちの将来にどのように活かされていくことを願っていますか?


戎崎校長

「今後の人生でも取材・編集の視点で新たな物事に関心を持ち続けてくれることに期待します。今回の『るるぶこども編集』では、こどもたちが長い人生を力強く生きていくためのたくさんの種まきができました。そして、JTBさんは私たち教師と同じ価値観をもって仕事されていることがわかりました。これからも価値のある教育の実現に向けて、一緒に取り組んでいただきたいです」



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