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風営法改正によってライブハウスが風俗営業になるというのは本当か?(1)

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自己紹介

細々と個人ブログを続けてきた私ですが、このたびハフィントンポストにもブログを掲載していただけることになりました。初めてご覧いただく方もいらっしゃると思いますので、簡単に自己紹介を。

私は、弁護士として、アート・エンターテインメント法務、不動産法務、医療法務の3つを業務の柱とした弁護士法人を運営すると共に、文化・芸術を支援するNPO「Arts and Law」の理事、DJ/アーティストで構成される「クラブとクラブカルチャーを守る会」(略称CCCC)の事務局長を務めております。

また、ロックバンド「THE BUFFETTMENT GROUP」(略称BMGR)でベースを担当し、今年6月に7インチのアナログレコードを発売しました(置いてくださるお店を絶賛募集中です!)。

いろいろなジャンルの音楽に興味があり、好きな音楽の話をし始めると、本題に入ることができなくなってしまいますので、自分がクラブミュージックも聴くようになったきっかけだけ触れておきます。

96年から97年にAphex Twin、Squarepusher、Pizzicato Fiveのアルバムからドラムンベースの魅力にはまった(特に大好きなのは4heroです)のを皮切りにクラブミュージックを聴くようになっていきました。

自己紹介はこれくらいにして、本題に入りましょう。

改正風営法の施行


昨年6月に成立した改正風営法が、いよいよ今年6月23日に施行されます。これを受けて、インターネット上に様々な情報が流れ、混乱されていらっしゃる方もかなりおられるのではないでしょうか。

ナイトクラブやライブハウスの中でも、今回新設される特定遊興飲食店営業の許可取得に向けて動いている店舗もある一方で、そもそも許可を取得する必要があるのかどうかという点も含めて、よくわからないし、戸惑っていらっしゃる事業者の方も多いと思います。

また、ナイトクラブやライブハウスのユーザーの皆さんの中にも改正風営法でどうなるのかについて、疑問を持たれている方もいらっしゃるのではないかと思います。

私は、今回の改正風営法のロビー活動に関わりを持った者の一人として、できる限り、正確かつ冷静な情報提供を行っていきたいと考えております(これまでも、私の個人ブログで改正風営法の経緯等について綴って参りましたが、特に多くの方の目に止まるブログでもありませんでしたし、流動的な状況の中で記載したものも多々あるので、今後、適宜記事のアップデートをしていきたいと考えています)。

そもそもライブハウスは、改正前風営法の3号営業にあたるのか。


現在、ネット上で見られる言説のひとつに、「今回の風営法改正により、これまで風俗営業ではなかったライブハウスが風俗営業の許可取得の対象になった。ライブハウスは風営法改正でとばっちりを受けた」、といったものがあります。

果たして、この言説は正しいのでしょうか。

上記の言説には誤解を招く部分があり、正しいとはいえないと私は考えています。このまま流布されるのを放置しておくのはたいへん危険であるとも感じています。

そこで、上記の言説がなぜ正しいといえないのかについて、これから何回かにわけて検証していきたいと思います。

改正前風営法(本エントリーでは平成28年6月23日に施行される改正風営法と対比して、この施行前の風営法を「改正前風営法」と呼ぶことにします)では、ナイトクラブのような「設備を設けて客にダンスをさせ、かつ、飲食をさせる営業」(改正前風営法2条1項3号)(「3号営業」と呼ばれています)を風俗営業として規制してきました。

まず、ライブハウスでは、通常、お客さんが店舗内で購入したドリンクを飲むので、「飲食をさせる営業」にあたることになると思います。

では、ライブハウスは「設備を設けて客にダンスをさせ」る営業といえるのでしょうか。

これについては、改正前風営法を読んでも、よくわからなかったのです。なぜ、よくわからないのかというと、風営法に「ダンス」の定義が書かれていないからです。

「ダンス」といわれた場合に、どういったものをイメージするのかは、人によってそれぞれ違うと思います。社交ダンスを思い浮かべる方、ヒップホップダンスを思い浮かべる方、オタ芸を思い浮かべる方、阿波踊りを思い浮かべる方、などなど。

人によって解釈にかなりの幅がある「ダンス」について、改正前風営法には定義がおかれていなかったのです。この点は、風営法によるダンス営業規制の大きな問題点のひとつでもありました。

  • バンドの演奏を聴いて、客が音楽に合わせて体でリズムをとっていた場合、風俗営業の「ダンス」にあたるのでしょうか。
  • エレクトリックミュージックのライブパフォーマンスに合わせて客が体でリズムをとっていた場合、風俗営業の「ダンス」にあたるのでしょうか。
  • ライブハウスでもDJブースが用意され、DJがパフォーマンスすることもありますが、これに合わせて客がリズムをとっていた場合、風俗営業の「ダンス」にあたるのでしょうか。
  • アイドルがライブハウスでパフォーマンスを行い、これに合わせて客がオタ芸を披露していた場合、風俗営業の「ダンス」にあたるのでしょうか。

これらについて、一体、どう考えればいいのか。

これが改正前風営法の条文を読んでもよくわかりませんし、警察サイドが作成している改正前風営法の解釈運用基準を読んでもよくわからなかったのです。

このため、ライブハウス営業が3号営業にあたるのかという質問に対しては、端的に言うと、「よくわからない」と答えるしかありませんでした。

この「よくわからない」というのは、実は、たいへん怖いことです。なぜなら、ライブハウスが3号営業にあたる可能性もあるという意味を含んでいるからです。

実際に、大阪のナイトクラブNOONが風営法違反として摘発されたとき、NOONではDJが選曲した英国のロックミュージックを流す「ブリティッシュパビリオン」というイベントが行われていました。

警察が店内に踏み込んだとき、ロックミュージックに合わせて20名程度のお客さんが音楽に合わせて体を揺らせたり、左右にリズムをとったりしていたという状況でした。そのような状況の中、NOONの元経営者である金光正年さんは警察に身柄拘束され、その後、起訴され、いわゆるNOON裁判と呼ばれる長い裁判闘争に巻き込まれることになるのです。

ここで、NOON裁判の第一審判決が認定している当日の店舗内の状況について、判決文から引用してみたいと思います。

【ウ】 フロアでは,男女双方を含む約20人程度の客が立ったまま音楽に合わせて体を動かすなどしていた。具体的には,その場でジャンプしたり,音楽のリズムに合わせて左右にステップを踏んだり,ステップに合わせて手を左右に動かしたり,頭をうなずくように上下に動かしたり,膝を上下に曲げ伸ばししたり,左右の足を踏みかえたり,両足のかかとを上げ下げしたりするなどしていた。

中には,ボックスステップを踏み,地面に手をつけた体勢から足を出したり,腰をひねったりして踊る者もいた。もっとも,客同士で体を触れ合わせるようなダンスをしている者はいなかった。

【エ】 フロアにいた客は,ステージ側よりもDJブース側により多く集まっており,客同士の距離は,近いところでは約30cm程度であったが,客同士の体が接触しているような状態にはなかった。

【オ】 フロアにいた客は,上記ウのとおり音楽に合わせて体を動かすなどしていたほか,椅子に座って音楽を聞いている者もいた。また,バーカウンター等のフロア以外の場所に設置してある椅子に座っている客もいた。

「その場でジャンプしたり,音楽のリズムに合わせて左右にステップを踏んだり,ステップに合わせて手を左右に動かしたり,頭をうなずくように上下に動かしたり,膝を上下に曲げ伸ばししたり,左右の足を踏みかえたり,両足のかかとを上げ下げしたりするなどしていた。」

文章にすると、なんだか不思議な感じですけど、この記述のようなお客さんの動きというのは、ライブハウスでも良く観られる光景なのではないでしょうか。

結果的に、NOON裁判では、お客さんが上記のような動きをしていたことに関して、3号営業の「ダンス」にはあたらないとして、金光さんを無罪とする判決が出されました。その後も、控訴審、上告審でも無罪判決が出て、先日、金光さんの無罪判決が確定することになりました。

しかし、この結論が出るまでに、4年もの月日が流れることになりました。

ここでポイントとなるのが、上記のようなお客さんの動きが「ダンス」であるかどうかについて、金光さんは、法廷で争わなければならなかったということです。すなわち、警察や検察は、上記のようなお客さんの動きが風営法上の「ダンス」にあたると考えて、現実に、金光さんの身柄を拘束し、起訴し、最高裁まで裁判で争ったということなのです。

このことからすれば、改正前風営法のもとでは、ライブハウスも、いつ3号営業の「ダンス」をさせていると、警察サイドに判断されるかわからない状況でした。そして、ライブハウス営業は、3号営業の許可をとっていなかった場合に、風営法違反で摘発される潜在的な危険をはらんでいたということになります。

私は、ライブハウスにお世話になっているバンドマン、音楽ファンの一人として、ライブハウスが上記のような潜在的危険にさらされていることが、非常に嫌でしたし、なんとかしてこの危険をなくすことができないかと考えていました。このことも、私を風営法改正のロビー活動に向かわせた大きなきっかけのひとつです。

今回のエントリーについて整理すると、ライブハウスも、改正前風営法の3号営業として風俗営業にあたる可能性があり、3号営業の許可をとらずにライブハウス営業を行うことは風営法違反として摘発されるを危険性を有していたということになります。

この時点で、「今回の風営法改正により、これまで風俗営業ではなかったライブハウスが風俗営業の許可取得の対象になった。ライブハウスは風営法改正でとばっちりを受けた」という言説に誤解を招く部分があるということがわかると思います。

では、改正風営法では、ライブハウス営業はどういった位置づけになるのでしょうか。

これについては、次回エントリーにて触れてみたいと思います。