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21世紀型 マスメディアとパブリックアクセスの可能性

2013年05月07日 23時10分 JST | 更新 2013年07月07日 18時12分 JST

「今、最も革命が必要なのはニュースルームだ」。

これは世界のデジタル技術を牽引するマサチューセッツ工科大学メディアラボ所長で昨年6月から、ニューヨークタイムズ取締役も勤める、伊藤穣一氏の言葉だ。かつて筆者が伊藤氏にインタビューした際、特定の職業メディア人による閉鎖的空間でつくられる日本の報道には民主主義が存在しないと語った。情報はオープンな環境で共有されてこそ、新たな価値を生み出すと断言し、インターネット後の社会における「組織」は異質なそれぞれが柔軟にかつ俊敏に補完しあい創造性を高める存在でなければならないと語った。

メディア変革を模索する動きは、世界中で始まっている。去年2月、イギリスの大手新聞・ガーディアンは「次代の報道はオープンジャーナリズムの実践しかない」と宣言し、報道の仕組みに新たな手法を取り入れる大胆な改革に踏み切った。

オープンジャーナリズムとは、ソーシャルメディアの発達にともない存在が議論されるようになった概念だ。これまでは編集権を主張し、特定の職業メディア人によって取材、制作、編集がなされてきた作業工程に、市民をはじめとした非メディア人が制作者の1人として関わる取り組みを指す。

例えば、ガーディアン紙はその日の朝刊・夕刊などのニュースオーダーを決めていく様子を、リアルタイムでホームページ上で公開している。「open news list」と名付けて、これまでブラックボックスだったニュースセンターの心臓部を公開した。どのような価値判断でニュースが決められていくのか市民が確認できるようにした。編集権は編集長に委ねられたままで市民自身によって内容の変更はできないが、リストには取材者の名前とtwitterアカウントなどのリンクが紹介されており、彼らに直接意見する事ができる。さらに報道写真の投稿も広く一般に募集、市民記者が記事を寄稿する仕組みも導入した。

オープンジャーナリズムの導入はガーディアン紙だけではない。テレビメディアも積極的に、市民の発信力を自らの報道に取り入れ始めている。

緊張が続く中東。昨年、イスラエルとパレスチナの間で衝突が続く中、注目する動きがあった。

ロケット弾を打ち込み、戦闘機による空爆を仕掛ける双方の軍や政府関係者が自ら攻撃や被害の状況をSNSを使って発信した。ネット上には紛争の様子が写真や動画でリアルタイムで拡散されていった。中東の衛星テレビ局アルジャジーラは、そうしたSNS上の情報を独自に集計して、攻撃を受けたり、逆にしかけたりした地点などを位置情報から割り出し、地図上に記して順次HPで公開していった。現地から絶え間なく送られてくる情報を世界中の人々が見守った。

そうした中、イスラエルによるガザへの空爆が激しさを増し、子どもを含む多数のけが人や死者が出たという情報が発信され始めると、ネット上では、瞬く間に「ガザを守れ」というかけ声が広がり、米国内でも抗議集会などが開催される事態に発展した。そうした声の国際的な広がりは、両者の停戦に向けた一定の推進力にもなっている。

市民をはじめ、一次情報保持者が直接、マスに対して発信者になれる時代。そうした発信力を軸に据えたジャーナリズムのあり方が、今、潮流になろうとしている。世界の動きを眺めてみると、これまで特権階級意識を持ち、かつ閉鎖的だといわれたマスメディアにもようやく変容の兆しが感じられる。

日本はどうか?

とりわけ電波という既得権益にしがみつき、自らの組織力の維持に力を注ぐテレビメディアの硬直化は、日本のメディア変革の足を引っ張っている。イギリスでは、公共放送BBCが電波の一部を市民に開放し、誰もが自由に番組制作に参画できる「パブリックアクセス」の取り組みを続けている。同じく、パブリックアクセスが定着している、アメリカでは市民の寄付などによって運営されるテレビ局がインターネットも駆使しながら発信力を強めている。メディアに参加し、自ら情報と向き合い発信を行う事で、市民の当事者意識の成長に貢献しているという。

日本では、パブリックアクセスの権利は保障されていない。市民は自由に電波を使う事もできない。メディアの中枢は依然、外部から隔絶された状況にあり閉鎖的だ。日本でのパブリックアクセスの実現を掲げ、筆者が宇野常寛氏ら数人の仲間とともに立ち上げた、市民投稿型ニュースメディア「8bitNews」には、開始5ヶ月で500本を越える市民取材の動画が投稿された。閲覧者は世界78カ国から17万人近くに達した。需要は高い。 ハフィントンポスト日本版のスタートには市民発信とマスメディアの融合に期待がかかる。

日本のニュースルームに革命は起きるか。マスメディア自身で変革の扉を開ける事が出来るのか、この国の民主主義が問われている。

【訂正】当初の記事では伊藤穣一氏がニューヨークタイムズ取締役に就任した日付が「今年6月」となっていましたが、「昨年6月」の誤りでした。