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元経産省官僚・古賀茂明氏が語る「政府と原子力ムラが"いま目指すもの"」

2013年07月20日 00時33分 JST | 更新 2013年09月18日 18時12分 JST

先週初め「元経産省官僚 古賀茂明氏が語る「安倍政権が原発再稼働を急ぐ"ワケ"」を寄稿したところ大変多くの方々に読んで頂いた。記事への「いいね!」は6000を超え、筆者もその反響の大きさに驚いている。参院選挙の投開票日まで残すところあと1日となったが、与党候補からは原発の是非に対する持論が積極的に聞こえてこない。最大の争点は経済政策だと訴える与党候補も目立つ。一方、原発の是非に対しては厳しい姿勢を打ち出している野党各党だが、例えば東京では自民・公明に次ぐ議席を確保するのに必死で共闘はなくそれぞれで激しい票の奪い合いとなっている。

そうした中、九州、四国、関西などの電力会社各社は、今月中旬、原子力規制委員会に対して再稼働に向けた安全審査の申請を行った。使用済み核燃料から取り出したプルトニウムとウランを混ぜて燃やす「プルサーマル発電」の対象となる原発が目立つ。先月末にはフランスからMOX燃料が運び込まれ再開に向けた動きが本格化してきた。

日本の核燃料サイクル政策の中心は、青森県六ヶ所村の再処理工場と高速増殖炉の「もんじゅ」の一体運用だが、「もんじゅ」の敷地周辺には活断層の存在が指摘されており、今、原子力規制委員会が調査を続けている。活断層だと認定されれば、廃炉の可能性も高まる。そうなれば日本のエネルギー政策の抜本的な見直しが求められる問題でもあり、もんじゅの問題のみならず原発の将来については本来であれば争点として国民的議論も必要なはずだ。

今回の参院選では衆参両院の「ねじれ」解消となるかが焦点だ。ねじれが解消されると与党は次の国政選挙までの数年間にわたって、法案可決のフリーパスを手に入れることになる。投開票日まで残り1日。投票日に向けた議論は十分だろうか。原発の問題をはじめ、国民的議論が必要な重要テーマがまだまだある。 元経済産業省のキャリア官僚、古賀茂明さんと対談。前回に続き、エネルギー政策の裏側を聞いた。

(こが・しげあき)1955年、長崎県生まれ。麻布中・高校、東大法学部卒業後、80年に旧通商産業省に入省。産業組織課長、OECDプリンシパル・アドミニストレーター、産業再生機構執行役員、経済産業政策課長を歴任。国家公務員制度改革推進本部事務局審議官として公務員制度改革を相次いで提議。現在、大阪府市統合本部顧問。近著に『信念をつらぬく』(幻冬舎新書)がある。

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■原発輸出のメーカーリスク 電力会社VS日本メーカーの構図


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(堀)

日本の原発技術って本当に安全かどうかという話なんですけど、南カリフォルニアにサンオノフレ原発という原発があって、いま、それが問題を抱えていることを、皆さん、聞いたことありますか? 

サンオノフレ原発という、南カリフォルニア・エジソンという電力会社が運営している原発で、去年の1月に放射性物質を含む水が漏れ出す事故がリアクター(原子炉)域で起きました。運転していた2基のリアクターを両方止めたんです。それで現在は、再稼働問題で揺れているんです。そして、事故を起こした水蒸気発生装置をどこがつくったかというと三菱重工なんですね。事故が起きた直後にアメリカの原子力規制委員会NRCが調査をしたところ、装置の1万7000カ所以上に異常な摩耗が見つかった。つまりこれはそもそも設計に問題があって、設計変更が必要だということになり、エジソンと三菱重工は共同で設計変更を行いました。NRCは設計変更が終わって、安全検査を実施して大丈夫だということであれば再稼働に向けた手続きを受け付けるとしていて、去年の10月ぐらいにエジソンが、安全検査が終わりました、設計変更できましたということでNRCに再稼働を申請したんですね。

それで、NRCが何をやったかというと、神戸にある三菱重工の事業所に立ち入り調査に入ったんです。アメリカからチームを送り込んで。その結果、コンプライアンス違反の可能性があることがわかったんです。三菱重工が電力会社のエジソンやNRCが定める安全検査の手順をきちんと守っていない疑いがあるということになった。報告しなければいけない書面が足りなかったり、同じ検査機関に出してはいけないという規約を守っていなかったり、手順を飛ばしていたりとかしたわけです。

そのことがどういうかたちで明らかになったかというと、NRCが去年の12月にインターネット上で三菱重工側とのメールのやりとりを全部公開したんですね。すごいんですよ。担当者の名前から電話番号、住所、メールアドレスにいたるまで全部公開したんです。インターネットで。だから誰でも見られるんです。それによって、そういうことが起きていることがわかった。

三菱重工側は、確かに安全検査の手順に不備があったのは認めるが、検査結果については自信があると反論したんですね。ところが結局、アメリカ国内では三菱重工の製品が安全かどうかについて、他の複数の検査機関によって検証しなければいけないという話になった。そのため、去年の夏過ぎから秋にかけて再稼働の方向だと言われていたものが、結局、目途が立たない状況になり、アメリカ国内ではサンオノフレは廃炉になる可能性もあるという話まで出てきているんです。

つまり、1メーカーの安全検査の手順を踏まえて、アメリカ国内ではそういう問題も起きているんですね。ただ、こうした情報って日本国内のニュースでは報じられていないんです。朝日新聞がその状況を少し報じた以外は、あまり詳しくは報じていない。ちなみに三菱重工はエジソンから、再稼働できなくなったことで損害賠償を求めてられていて、300億円規模の損害賠償も課せられているんですね。

そういうことを考えると、まだまだ原発の安全検査の手順とか、もっと徹底的に公開しなきゃいけないものがたくさんある。

今回、インドと原子力協定が結ばれて、インドに原発を輸出することになりましたね。福島第一原発の事故に関してはメーカーは責任を問われていませんが、インドではメーカーが責任を負うことになる。ですから、メーカーが本当にちゃんとやってるかどうかを政府がきちんと面倒を見てやらないと、ゆくゆくはメーカーが背負う責任がまた僕らに跳ね返ってきます。ですから、こういうのはしっかりやってほしいですよね。

■六ヶ所村ともんじゅの関係

(質問)

ジャーナリストの田中宇(たなか・さかい)さんのサイトの記事で見つけたんですが、日本政府が10月から六ヶ所村の施設を稼働させようとしていて、アメリカ政府が懸念を表明したとウォールストリートジャーナルに書かれていたそうですね。これはどこも報道されていないんですが、どうなんでしょうか。

(古賀)

日本政府は六ヶ所村の施設を引き続き動かしたいという考え方を持っています。アメリカがそれに対してクレームをつけているというのは、実は報道されています。でも、全然変な意味で報道されているんですよ。要するに、普通に考えると六ヶ所村の施設を動かすというのは再処理をしますということです。再処理をするということはプルトニウムができるということですね。

ところが、そのプルトニウムを使うはずの「もんじゅ」はどうなるか全然わからないわけです。ということは、いまでもすでにプルトニウムを大量に持っているのに、使うあてがないプルトニウムをまだ増やすことになる。これは核不拡散の観点から見ると非常に問題がある、というのがアメリカの問題意識なんですね。

ですから、本当は動かすべきじゃないんだという意味合いがあるんですが、そういうかたちでは報道されていないですね。どういう報道になるかというと、むしろ逆で「もんじゅ」を動かさなきゃいけないというコンテクストになっている。要するに出口が見つからないのに再処理を動かすのは許されないので、「もんじゅ」を動かして核燃料サイクルを維持しないと、国際的に日本が批判されるという文脈で報道されているんです。

マスメディアも一次情報で書くんじゃなくて、政府から情報をもらって報道するので、政府の見解を一緒にくっつけて報道するから変な報道になっちゃうんですね。そういうのに騙されないようにしないといけないと思います。

(堀)

僕もそのニュースは見ましたから、たぶん報道はされてるんですけど、ニュアンスが違うんでしょうね。海外にある日本のメディアの仕事を見ていると、外信を訳して、それを自分たちのニュースにして出すというパターンがけっこうあるんですけど、その過程で、オリジナル性を高めるために余計なものを付けて出すことになっているみたいです。

海外の情報ってもっと共有したほうがいいと思うんですよ。日本人って、僕もそうなんですけど、英語力に乏しいので、海外の情報を取るのってけっこう体力が要るじゃないですか。ですから先日、ある会議の席で経産省の人に、「クールジャパン」を売りにするんだったら、海外の関連情報を翻訳して、みんなで共有しやすくする工夫があってもいいんじゃないか、そういうところにお金を使ってもいいんじゃないかとという話をしました。けっこうな情報格差があるんですよね。

実は、アメリカ側もそうなんですよ。アメリカにいると、日本の情報って全然入ってこない。だから、ニューヨークタイムズやウォールストリート・ジャーナルが曲解して報じたりすることが、ときどき起こる。この言語の問題は重要で、ここを乗り越える策って短期でできることは何かと言ったら、全文和訳、全文英訳なんだけど、そういうことを進めてもいいんじゃないかなと思ったりします。

(古賀)

そうですね。僕も3・11のときに心がけたのは、アメリカのメディアを読む、新聞を読むことです。ニューヨークタイムズが一番多かったですけど、本当のことを知るには、それが一番早かった。初期の頃、3月の終わりから4月の初めぐらいの時期に、彼らはいち早く日本の原発の安全基準には本質的な問題があると言ってるんですよ。それが実はいまもまったく解決されてない。

たとえば日本の地震に関する基準ですね。今回もちゃんと見直していないんですが、なぜ見直さなかったかというと、見直すときには当然欧米の基準に合わせなくちゃいけなくなりますけど、それができないからなんです。できないというのは、それをやると厳しすぎるとか、そういうんじゃなくて。そういう基準をつくる能力がないんですね、実は。どういうことかというと、問題は確率論なんです。確率論を導入した基準地震度をつくる。700ガルとか900ガルとか聞いたことがあると思いますが、これぐらいの強さの揺れに耐えなきゃいけないという数字があります。その数字をつくるにあたって日本はどうやっていたかというと、過去のいろんな古文書とか、たまたま見つかった過去の遺跡調査で1000年前に大きな地震があったので、その1.5倍にしておけば大丈夫でしょうと、そういう作り方なんですね。ときどき、2倍とかいうのもあるんですけど、1.5倍にするのか、2倍にするのかって、何の基準もないんです。思い切り厳しくしたので絶対大丈夫です、という、そういう作り方です。

ところがこれ、過去10年ぐらい見ても、絶対安全ですと言っていた基準地震度はもう5回ぐらい破られているんですよ。もうあり得ないですね、こんなことは、世界の他の国では。

世界では、40年前は日本と同じだったんですけど、30年以上前から、それじゃあダメだということになって、確率論で基準値をつくることになっています。私も、この確率論を計算する数学の詳細についてはわかりませんが、いま集まっているあらゆるデータを全部入れるわけですね。500年とか1000年の記録をベースにして、それをたとえば1万年に広げた場合にどんな異常値が出るか、論理的にどんな最高値が出るかというのを計算する。そういう学問が、この30年ぐらいの間にものすごく発達してきてるんです。

最初は極端に厳しいところから極端に緩いところまで、ものすごく幅のある確率しか出せなかったそうですが、最近は非常に精緻化されてきて実用的になったので、それを導入しているんですね。それで、3・11のあとはヨーロッパでもストレステストをやるようになっていて、その際には、1万年に1回の地震に対応するような基準になっている。アメリカは10万年に1回だそうですから、とてつもなく厳しい。地震だけじゃありません。ハリケーンのような自然災害については全部そういう確率論です。ある地域では秒速130mの風が吹くと。それに耐えられなきゃいけないことになっている。秒速130mで竜巻が起きたときには、2トン弱、1.8トンぐらいのアメリカの車が飛ぶんですよ。家だって巻き上げられちゃうぐらいだから、飛ぶんですね。それが秒速80mか90mで飛ぶんです。原発の施設はけっこう大きいですから2000人とか3000人が働いていて、アメリカだと全員車で来ますから、2000台、3000台の車がある。そして、たまたま風の方向性が原子炉に向かったとすると、原子炉に2000台、3000台の車が直撃することになる。これはミサイルほどじゃないんですけど、それに近いぐらいの衝撃を与える。それが2000発飛んできます。それでも原子炉は安全でなければいけません――そういう基準なんですね。

それに比べて日本というのは、思い切り厳しくしましたと言っていた基準がすぐに破られちゃう、そんな程度の基準なんです。班目春樹(まだらめ・はるき)さんという原子力安全委員長がいましたね。彼はそういうことがよくわかっていて、国会事故調や記者会見で、基準地震動を過去の何とかのケースの2倍にしたとかいうことについて、「その意味があんまりわからないんですよね」と言ったんですよ。

どうしてこんなに厳しくなっているかというと、海外では毎年、IAEAなどの会議で安全基準について話し合っていて、実際の事故を分析する中でどんどん厳しい基準に変えていっているからです。そうすると、海外の原発は安全確保のためのコストが増えていきますから、ものすごくコストが上がる。なので、海外の先進国では原発が安いと言ってる国はないんですよ。日本だけですよ、原発が安いと言っているのは。 

■原発のコスト 世界の状況は?

(古賀)

アメリカはもう35年ぐらいは原発を建設していません。禁止しているわけじゃないですよ。なぜかというと、ペイしないからです。ヨーロッパでも、フランスは国策で無理やりつくったりしていますけれども、最大の原発推進国イギリスでは、新しいプロジェクトがどんどん頓挫してるんですね。理由の一つはドイツのイーオンという電力会社が進出したことです。ヨーロッパでは国を越えて電力会社が競争していますから、イーオンが進出したことで、原発をつくるはずだった会社が撤退すると言い始めて、あわてて中国企業に建設を要請した。ところがその中国企業も、こんなに基準が厳しいんじゃできませんと言って帰っちゃった。フランスのアレバがやっているプロジェクトも頓挫している。イギリスというのは、日本の原子力企業から見ると、ヨーロッパの最後の砦なんです。イギリスで原発ができなくなっちゃったら大変なので、何をやったかというと、日立がイギリスの電力会社を買収しました。100%子会社にして、そこがいま原発をつくるということになっています。それを日立が受注しようということのようです。

でも、そういう仕組みの中で万が一、事故が起きたら責任は日立がかぶっちゃう。それは怖いから、建設後、運転が始まる前までにその会社の株式を協力企業に買ってもらおうとしています。取らぬ狸の何とかみたいな、そういう皮算用でやっているんですよ。また、トルコには三菱重工がアレバと組んで原発をつくりますね。アレバは電力会社なんで、アレバに運転保証を請け負わせるというのが、三菱側の思惑だと思いますけど、トルコ政府がそれを簡単に許すかどうかわからない。

ですから、ヨーロッパやアメリカでは原発の建設はほとんどできないんです。フィンランドでも、アレバが建設しようとしていますが、これが何年かけてもできない。その間にどんどん、どんどん安全基準が厳しくなって、もう大赤字になっている。それでアレバは2年ぐらい前に、かなりの送電線を売ったんですよ。海外は発送電分離されていますので、自由に売り買いできますからね。まあ、そうしなければならないくらい、欧米では原発の建設がなかなかできない。基準がどんどん厳しくなって、儲からないからです。アメリカでも、基準が厳しくなったことで過去につくった原発を動かすためには改修しなくちゃいけなくなって、それじゃあ損だということで廃炉になっている例がたくさんあります。訴訟もたくさん起きています。

原発の訴訟というのは、アメリカでは電力会社ないし原発企業が政府を訴える。日本における原発訴訟というのは、一般市民や市民団体が政府を訴えるんです。要するに何を言いたいかというと、アメリカでは政府が市民の側に立っていて、企業の側が政府を訴える。それがアメリカなんです。ところが、日本では政府が企業の側に立っているので、訴えるのは市民なんです。

■東電福島第一原発から出る汚染水をどう処理するか?

(質問)

いま私が一番心配なのは汚染水です。お金さえかければ地下水の流入を食い止めるような手立てはあるんでしょうか。もしあるんだったら、公共事業なんて一切やめてもいいから、税金を注ぎ込んで、そっちをやったらいいと思うんですけれども。

(古賀)

汚染水の問題ですね。これも答えがない問題の一つですね。これは私のよく知っている佐藤暁さんから聞いた話ですが――佐藤さんは大阪のエネルギー戦略会議の委員で、かつてGEで原子力コンサルタントとして働いていて、福島第一原発をつくるときの運営管理責任者のような仕事をしていた人です――、彼が事後のあと、一番最初に言ったのは、とにかくあの第一原発の周りを可能な限り深く掘って、遮断壁をつくれということでした。そのことを、ものすごく強く言っていました。それはまさに、地下水による汚染をどうやって防ぐかということを考えていたからです。それを彼は、民主党政権、それから東京電力にも言っていた。でも結局、基本的にはコストの問題と、それから当初はそんなに危ないということを言いたくないという理由で、実現しなかった。それから、掘ってみて、万一汚染されていた場合に、汚染されているという現実が明らかになってしまうのは困るという問題もあって、掘りたくないという力も働いたようです。それで、いまだに実現できていない。

いま、いろんな方策をようやく考え始めていますが、おそらく政府が考えるのは、時間を稼ぐことです。時間を稼ぐと、少なくとも、ヨウ素系のものは半減期が短いのでなくなっていきますね。セシウムなどはまだ残りますが、とにかく時間をかければかけるほど濃度が下がるんじゃないかということで、時間はかけたほうがいいというインセンティブが働く。

ですから、何がネックになっているかというと、お金の問題なんです。お金が、単にたくさんかかってお金がないから困るというだけじゃないんですよ。この汚染水処理にお金が何兆円かかりますという具体的な試算が出てきたときに、それが原発事故のコストですということになるんですね。それで、いま原発が安いということで組み立てられている政府側の論理が音を立てて崩れてしまう。何兆円、何十兆円とかかりますからね。除染も同じです。非常に中途半端な除染しか行われていないんですけれども、これも、山林も除染しましょうということになると、桁違いに費用が大きくなるからなんです。でも、山林を除染しないことには、本当の除染はできないんです。ですが、その費用を乗せると、事故が起きたときの原発のコストは非常に大きくなる。いま見積もっているものの二桁の倍数になっていく可能性があるんですね。

そうすると、原発というのはとてもコストが高い施設だということになっちゃって、政府としては困るんですね。だったら原発なんかやめて、再生可能エネルギーの開発を進めたほうがいいじゃないかと、そういうふうになってしまいますね。

それからもう一つは、その数字がはっきり出た途端に、東京電力はやっぱり破綻しているじゃないかという議論に直結するんですね。東電は絶対破綻させたくない。絶対破綻させたくない理由は何かというと、破綻すると銀行の債権がカットされるからですね。東電には3・11の事故のあと、3月末に、メガバンクが2兆円融資しました。緊急融資。本来あり得ない話なんですよ。だって、東電は事故を起こして株価がどんどん急落していたんですから。つぶれるかもしれない、どうなるんだろうと言っているときに、無担保で融資したんですよ。しかも最優遇金利で。普通なら特別背任に値するような行為ですね。それなのに、なぜ融資したかというと、経産省が保証しているからです。絶対大丈夫です、東電はつぶしません、と。これについては、当時の三井住友の頭取と経産省の次官の間で密約があったという情報もあります。真偽はわかりませんが、いずれにしても政府としては約束しちゃってるので銀行の債権を絶対にカットできない。カットしないためには破綻させてはいけないという、そういう変なしがらみみたいなものがあります。

そんな、いろんなタブーがあるので、たとえば汚染水の問題も、お金がいくらかかってもいいから抜本的なことを思い切ってやろうじゃないかと言って、仮に案があったとしても、すぐには明らかにしないと思います。「方法がわからないので計算できません」と言って、ずっと逃げていくんじゃないでしょうか。

政府が考えているのは、薄めてしまえばいいということなんです、基本的には。ここに集まってくださった皆さんはあの事故のことを片時も忘れたことはないと思いますが、2年経って国民の間ではずいぶん風化してきている。あと5年ぐらい経てば、もっと風化する。その間に、漁協にはお金がどんどん流れていって、漁協の理解を得られたという話になって、処理した汚染水を海に流しちゃおうという方向に持っていこうとしているんじゃないかと思います。それが政府の狙いだと思う。

そうすると、そう考えている以上、そんなにお金をかけて本格的な対策をしようという方向にはないだろうなという感じはします。それでいいという意味じゃないですよ。それをどうやって止めるかと言ったら、やはり、いまの政治の構造を変えないことには、そうなる危険性がかなり高いなあというふうに思います。

■原子力ムラの住民は果たして悪人か?

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(質問)

先ほど名前が出た原子力安全委員会の斑目さんですとか、名前は覚えてないんですけれども、原子力安全・保安院のトップの人たちは、世間では悪い人のような扱いをされてしまって、私から見るとかわいそうだなと思うんですよね。古賀さんですとか、堀さんのような信念に忠実な行動ができる人はむしろ少数派で、斑目さんとか保安院の人たちは普通の人だと思うんですね。その人たちが悪いというよりは、仕組みが悪い、あるいは、住宅ローンだとか立場のことなどを考えてしまう。普通の人って、そういうものだという気がします、会ったことがないからわかりませんけど。古賀さんには、そういう人たちの姿はどう映っていらっしゃるんでしょうか?

(古賀)

彼らに責任があるのは確かですよね。ある地位にいたら、その人がいいか悪いかということではなくて、やはり地位に伴う責任はあるので、その責任は取らなくちゃいけないと。運のいい悪いはありますよ。ありますけど、そういう責任を問われるぞという前提がないと、その職を全うしようということにならないので。何でも仕組みの問題です、組織の問題ですと言って、だから個人の責任は問われませんというのはちょっとよくないなと思うんです。

ただ、責任と言っても、その人に何兆円も損害賠償をしろということではありません。やはり組織の上で誰が責任を負っていたのかということを明らかにして、それなりの処分をしていくことは必要だと思います。

一方で、斑目さんなんかは、先ほど言ったようにすごく重要な証言をしているんです。何が問題だったのかということも知っているわけです。それを隠そうとしている人なら何の役にも立たないんですけど、斑目さんは少なくとも本当のことを言ったなと、私は思っているんです。ですから、斑目さんに会いたいなあと思っているくらいです。ただ、不幸なことに、斑目さんはそういう重要な証言をしたときに、失言もしていて、それでものすごい袋叩きにあって葬られちゃったんです。何かというと、事故直後に斑目さんが菅さんに対して、海水注入なんかやったらダメですよと言ったんじゃないかという話です。それを再三にわたって国会事故調で聞かれた。

何度も聞かれて、斑目さんが言ったのは、「覚えていない」という証言でした。私はあのとき何十時間も寝てませんでした、意識が朦朧としながら、でも何とか頑張ってやってました、そのときのことなんで、何を言ったのか、記憶がないんですよ――そんなことを言ったんです。それでみんな、「あんな重要なことを忘れるなんてあり得ないだろう」「自分の命もかかっている話なのに、何を言ったかわかりませんなんて、デタラメを言うやつは絶対許せない」ということになってしまった。その場面が繰り返し、繰り返しテレビで流れたんですね。私は、こういうところがマスメディアの本当に悪い部分だと思います。誰かを悪者にして、非常にわかりやすい場面があるとそればっかり流しちゃう。

だけど、斑目さんはそのときにすごく重要な証言をいっぱいしているんですよ。たとえば、海外で安全基準が強化されたのに、なぜ日本ではそれを実施できなかったのかという質問に対して、「他の国では海外で基準が強化されると、各国とも必ずそれをどう適用しようかと検討する。急に適用するのは大変だから、2年猶予を置こうという議論などをしてきた。ところが日本だけは、なぜかみんなで、どうやったら日本に適用しない理屈をつくれるのかということを必死になって考えました」って、彼は正直に言ったんです。それから、「日本の安全基準には瑕疵があります」と言ったんです。瑕疵って、できそこない、欠陥という意味です。そういうことまではっきり言っているんですね。

だから、本来であれば、マスコミはそこを報道しなくちゃいけないんですよ。こんなにデタラメなことが行われていたんですという部分を。それなのに、こいつはこんな大事なことを忘れたと言って嘘をついた、とんでもない馬鹿者だという調子で報道した。それでネットには「まだらめ」じゃなくて「でたらめ」だというような言葉がバーッと流れていきましたよね。

そういう人の証言というのは非常に貴重なんです。だから、これからの安全基準をどうしていくかというときの参考にするために、失敗の教訓をいろいろ語ってもらうべきなんです。ある意味、仲間として認めた上で、反省もして、正しく指摘しているんだから、だったら協力してもらいましょうという姿勢も必要じゃないかと感じますね。

(堀)

仕組みの話をする場合に、仕組みの中にいる人と、仕組みをつくることができる側の人では、またちょっと話が違うかなと思いますね。組織の長、トップは自分の思いで組織を変えることができるじゃないですか。ある程度責任のある立場に立った人にはきちんと役割を果たしてほしいというのは、これは現場の人間の一番の切望する姿ですよね。だから、トップというのは、やはり古賀さんがおっしゃったように、それなりの重い責任がある。そのトップに就く人は、そういったすべてのリスクを自分で引き受けるんだという強い覚悟を持ってその職に就いてもらいたいというのは、これは一番大事なポイントだと思います。

(質問)

斑目さんはそうでもないんですけど、保安院の方に関しては、俺は運が悪かった。何でこんな立場なんだという空気ばかりが、画面を通じて伝わってくるんですね。もちろん、そういう言動はないですけど、そんな感じがするんですよ。

(堀)

僕らは、受け手側も、メディア側も、そこに悪意であったり、陰謀論的なものであったり、そういうもので物事を判断しないようにすることが、大事なんじゃないかと思うんです。それぞれの立場の決断を、それが合っていたか、間違っていたか検証するときに、人間性を攻撃したりするのは、生産的じゃないと思うんですよ。

僕は、それぞれの立場の人って、そんなに悪意があって物事を決めているとは思えない。マスコミもすごい批判されたりするんだけれども、何か大きなものを守るために悪意を持ってやっていることではなくて、その立場の人たちが自分の職責を果たそうと思った結果、変な空気が生まれて、進行してしまうということがあると思う。ですから、そういう状況がなぜ生まれたのかということを、むしろ検証しなきゃいけないんじゃないかな。

斑目さんについて言えば、日本の安全基準には瑕疵があると言いながら、でもそれがまかり通ってしまったのは、おそらく、そういうふうにさせた空気があるんでしょ。ですから、時代背景であったり、そこに関わっているプレーヤーとはいったいどういう産業の人たちだったのか、どんな学者だったのかを明らかにして、その上で、人間性ではなく、そのときの判断についてきちんと検証する議論を冷静にやりたいと思うんですよね。

先ほど紹介しましたが、内部被曝もあるから気をつけてくださいと山崎記者が言い、僕が絶対そうだと思ってツイートしたことに対して、「そんなことを言うな」という空気もあったんですよ。おそらく、ここに来ている皆さんは問題意識もあって、物事を冷静に判断しなくちゃいけない、検証することが大事だ、事実を正確に知るところから始まる、と考えていると思うんです。いわゆるリテラシーがある人たちだと思う。でもそうじゃない、随意反応的に、「そんなことを言うな」と声を挙げる世論というのも一方であるわけですよ。しかも、それがおそらく非常に大きいパイであると思うんですね。

だからこそ、情報の受け手である一人一人が成長していく仕掛けをつくることが大事になってくる。ひょっとしたら、ここに集まっている皆さんが、隣にいる人たちに対してそういうメッセージを投げかけてみたりする中で、草の根的に変わっていくんじゃないかなと。そういう空気ができれば、斑目さんのような人が無駄に叩かれたりとかする必要もなくなるのかなと思ったりするし。マスコミに関わっている一人一人も、変にセンセーショナリズムに走ってしまう判断をしないディレクターであり、記者であり、アナウンサーでありというものにならなければいけない。

だから、もっと僕は地に足の着いた、もっと気持ちのいい言論空間みたいなものをつくる運動があってもいいんじゃないかなと思いますよね。

※出典「堀潤の発信は誰にも止められない

 撮影:古本隆男