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『オデッセイ』―人間の賢さが試される「維持可能性」/宿輪純一のシネマ経済学(93)

2016年01月31日 23時08分 JST | 更新 2017年01月30日 19時12分 JST
Kevin Winter via Getty Images
LOS ANGELES, CA - JANUARY 14: Actor John Krasinski and President of the Academy of Motion Picture Arts and Sciences Cheryl Boone Isaacs announce Matt Damon as a nominee for Best Actor in a Leading Role in the film 'The Martian' during the 88th Oscars Nominations Announcement at the Academy of Motion Picture Arts and Sciences on January 14, 2016 in Los Angeles, California. (Photo by Kevin Winter/Getty Images)

(THE MARTIAN/2015)

この作品はいわゆる「宇宙生還」ものである。アメリカ映画でもあり、最後は助かるのであるが、かなりハラハラする。しかし、本作はユーモアがあって明るく楽しいのが、いままでの宇宙生還ものと違う。

原題の"Martian"とは「火星人」の意味。邦題では、ギリシャ時代の長い冒険を描いた「オデッセイ」となった。ちなみに『2001年宇宙の旅』の原題は『2001: A SPACE ODYSSEY』である。

監督は『エイリアン』『ブレードランナー』『プロメテウス』等の巨匠リドリー・スコット。出演は、『ボーン』シリーズや『イリジウム』等のマット・デイモンと『ゼロ・ダーク・サーティ』等のジェシカ・チャステインであり、このコンビは『インターステラ―』でもあり、少しイメージがダブる。

さて、火星での有人探査中に、お約束であるが、宇宙飛行士のマーク・ワトニー(マット・デイモン)が嵐に巻き込まれる。宇宙船の乗組員はワトニーが死亡したと思い、火星を去って地球に向かう。しかし、彼は生きていたのである。空気も水も通信手段もなく、食料も31日分の食料しかなく、次の定期船まで4年、という危機的状況で、ワトニーは知恵を使いなんとか生き延びようとする。

一方、宇宙救出映画には必須であるが、NASAは地球で世界中から科学者を結集し救出作戦を進める。また、この宇宙船のクルーもまた救出作戦を進める。この火星の主人公・地球のNASA・宇宙船のクルーと3つのストーリーが同時進行して飽きない。

本作は悲惨で狼狽することがメインではない。主人公は植物学者で、訓練を受けた宇宙飛行士でもあるからか、体力・知力・精神力があり、ユーモアをもって対応する。ジャガイモなどを栽培し、明るく生き伸びていく・・・。(この彼の姿は自分の生き方としても大変参考になる)

宇宙救出映画ではよくあるのであるが、テーマの一つは「その環境で生きて行く」ということである。まさにその「維持可能性(サスティナビリティ)」は宇宙の問題ではなく、我々の問題なのである。最近も、地球の維持可能性の問題で「温暖化」がある。

パリ開催の「国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)」は世界の気温上昇を2度未満に抑えるための取り組みに合意し、パリ協定を採択した。世界196カ国の国・地域がすべて、温室効果ガス削減を約束するのは初めてであり一歩前進した。まさに「人間の賢さ」が問われている問題である。

日本における、そのような「維持可能性」の大問題の一つは、世界一となった「財政赤字」である。これはまったく先が見えていない状況であり、経済成長率3%を前提とした現行の再建計画はまずできない。

このような「人間の賢さ」が問われる問題は、国民もぼーっとしていないで、皆で考えなければならない。

その点でまずは危機感を持ち、さらにさまざまな情報の公開と共有が必要になる。"短期的な視点"だけではなく、"長期的な視点"を持つことが、国だけではなく「個人の生き方」でも必要となる。こういった意識を持たせるには、政府や学校からでも、電車や飛行機のマナー放送と同様に、とにかく何回も何回も様々なルートで国民に伝える(連絡する)しかないと考える。

日本の国民は徐々に劣化しているようにもいわれているが、より賢くなって勉強し長期的な視点を持って欲しいと願っている。

少し気になったのが、中国の宇宙船が新技術の供与も含め無償で主人公の救出に駆け付けることである。大きい中国映画市場を意識したものであろうか。

本作では70年年代の音楽がベースとなっている。デビット・ボウイの「スターマン」が流れた場面では、彼が亡くなったばかりでもあり、うるっとしてしまった。

(2016年2月5日公開)

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東京国際映画祭2015 レッドカーペット