マネロン・テロ資金と財政の崖――『2ガンズ(2 Guns)』-宿輪純一のシネマ経済学(14)

借金に自ら制限をかけるという米国は、日本のように制限のない国と比べると、財政赤字を増やさないし、減らそうとする意識を感じるのは私だけであろうか。しかも法律で決まっている。いわゆる欧州をはじめとした先進国は少子高齢化が進み、経済成長率はどうしても下がってくる傾向は否めない。

『2ガンズ』(2 Guns)2013年(米)

『2ガンズ』(2 Guns)は、監督は珍しいアイスランド(レイキャビク)出身の新鋭バルタザル・コルマキュルである。

出演はデンゼル・ワシントンとマーク・ウォールバーグという実力者で、この2人が「2ガンズ」ということか。デンゼル・ワシントンは54年ニューヨーク生まれ。『グローリー』でアカデミー助演男優賞を受賞、さらに『トレーニング・デイ』では同主演男優賞を受賞。他の主たる出演作は『フィラデルフィア』、『クリムゾン・タイド』(95)、『ボーン・コレクター』、『タイタンズを忘れない』、『アメリカン・ギャングスター』、『サブウェイ123/激突』、『フライト』等。マーク・ウォールバーグは71年アメリカ マサチューセッツ生まれ。『ブギーナイツ』に主演し『ディパーテッド』でアカデミー賞ノミネート。『パーフェクト・ストーム』、『PLANET OF THE APES 猿の惑星』、『ミニミニ大作戦』最近の『テッド』も大ヒット。今後『トランスフォーマー』シリーズ最新作で主演が内定。

麻薬取締局(DEA)の捜査官ボビー・トレンチ(デンゼル・ワシントン)と、海軍犯罪捜査局(NCIS)の捜査官マーカス・スティグマン(マーク・ウォールバーグ)は互いの身分を知らずに、メキシコの麻薬王(マフィア)パーピ・グレコの組織で潜入捜査をしていた。

ある日、グレコがアメリカの税関で逮捕された。グレコほどの大物になると、確固たる証拠が得られなければ、すぐに根回しされ釈放されてしまう。ボビーは証拠であるコカインを入手するために潜入していたが、いまだに証拠が入手できていなかった。

ボビーは、マーカスからグレコの資金を奪うことを持ちかけられる。マーカスはグレコを、資金洗浄の罪で起訴することを狙った。しかし、海軍はマーカスにグレコから盗んだ資金を秘密工作の資金に回し、ボビーに罪をかぶせ殺害することが命令されてしまう。

ボビーとマーカスは銀行の金庫室に忍び込む。中にはなんと4000万ドル(40億円)もの大金が入っていた。しかもその大金は中央情報局(CIA)から盗んだものであった。そこからが、DEA、NCIS、CIAそして、マフィアが4つ巴で足をすくい合う、七転八倒劇がはじまる。しかも、実は、男ばかりが出てくるアクション・コメディなのである。

このようなマネーロンダリング(資金洗浄)・テロ資金の問題は、金融の世界では大きな問題になっている。国際通貨基金(IMF)のデータでは世界の国内総生産(GDP)の2~5%もの金額になっているという。最近でも、金融機関における本人確認の厳格化がなされた。面倒くさいとはいいながらも、大事なことである。モノの動きの裏側には、おカネの動きがあり、マネロン・テロの資金源を抑えるということである。

しかし、筆者が気になるのはCIAが4000万ドルもの資金を持っていたということである。米国も財政赤字の国であり、CIAも政府機関であるだけに、これほど本当にいわゆる裏金があるのかという、素朴な疑問がある。(ちなみに公開中の映画『人類資金』は旧日本軍の秘密資金といわれている「M資金」がベース)

現在、米国は日本ほどではないが、財政赤字に悩んでいる。米国では「財政の崖」の問題が注目されている。これは、法律で財政赤字に制限を設けて箍(たが)をはめていることである。崖といっているのは、それだけ崖を落ちるように経済に影響があるからである。この制限をめぐる問題で国会がガタガタもめていた。それはそれで米国の経済にも悪い影響を与える原因となっている。先進国では財政赤字問題は、いわば成人病なのである。

しかし、考えてみれば、借金に自ら制限をかけるという米国は、日本のように制限のない国と比べると、財政赤字を増やさないし、減らそうとする意識を感じるのは私だけであろうか。しかも法律で決まっている。いわゆる欧州をはじめとした先進国は少子高齢化が進み、経済成長率はどうしても下がってくる傾向は否めない。構造改革が行わなければ、低成長が続き、財政赤字問題と向き合わなければならない。しかし、企業でいうと毎年巨額の赤字を出して持続可能な訳はない。企業だろうが、国だろうが、同じ感覚で考えることが大事であると考えている。

宿輪ゼミ

経済学博士・エコノミスト・慶應義塾大学経済学部非常勤講師・映画評論家の宿輪先生が2006年から行っているボランティア公開講義。その始まりは東京大学大学院の時の学生さんがもっと講義を聞きたいとして始めたもの。どなたにも分かり易い講義は定評。まもなく8年目になり「日本経済新聞」や「アエラ」にも取り上げられました。

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