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新しいことを行うことの苦しみ――『42〜世界を変えた男〜』−宿輪純一のシネマ経済学(16)

2013年11月07日 16時53分 JST | 更新 2014年01月06日 19時12分 JST

『42〜世界を変えた男〜』(原題:42)2013年(米)

日本では「42」という番号は、なんとなく縁起が悪いようにもいわれているような気がするが、アメリカの野球の世界では、最高の番号でプロだろうが、アマだろうが、どこでも永久欠番となっている。それは、大リーグで初めての黒人選手、ジャッキー・ロビンソンの背番号だからである。本作は1947年当時、まだまだ黒人差別が厳しい中、彼が頑張っていく感動的な実話である。

監督は両親がノルウェー人のブライアン・ヘルゲランドで、監督としての主たる作品に『ペイバック』(99年)、『ROCK YOU!』(2001年)があるが、脚本家としての活躍の方が有名かもしれない。

ロビンソン役の主演はほぼ無名のチャドウィック・ボーズマンであり、メジャーの映画出演も初めてか。それよりもゼネラルマネージャーのブランチ・リッキー役のハリソン・フォード(42年生の71歳)には驚いた。お爺さん役なのである。映画の役柄とは言え、もうそんな歳になってしまったのか。(筆者の中ではいつも『スター・ウォーズ』のハン・ソロ船長なのだが)彼はまさにハリウッドの看板男優である。『スター・ウォーズ』シリーズ、『インディ・ジョーンズ』シリーズ、そして『ジャック・ライアン』シリーズなど大きいシリーズを持っているのも強みの一つ。

この映画は実話であり、基本的にサプライズはない。第2次世界大戦後の47年、ブルックリン・ドジャース(現在のロサンゼルス・ドジャース。そのころはブルックリンが本拠地。58年に移転)のゼネラルマネージャーであるブランチ・リッキーは、黒人リーグでプレーしていたジャッキー・ロビンソンをドジャースに入れる。

だが、当然のことながら、当時はまだ黒人差別が激しく(特に南部)、メジャーリーガーは全員白人だけであったため、大変な波紋や社会的な軋轢を起こす。ジャッキーは他球団はもとより、チームメイトからも差別を受け、ブランチ・リッキーと一緒に非常に辛い闘いを強いられることになる。メジャーリーグにとって黒人の存在は異端でしかない。そんな苦しすぎる状況ながらも、42を背負って一生懸命プレーするジャッキーの姿は次第に、アメリカ中の人々の気持ちを変えていき、なんと42は永久欠番となっていく。しかし、見ている方も辛くなる作品である。

新しいことをするということは、古いものにとってはマイナスであることが多く、そこに軋轢が生まれる。国としての経済をみると、いわゆる発展途上国(新興国)は先進国へ向かっていく。先進国になり、社会的にも、家庭的にも、ものが揃ってくると、また様々な産業や社会制度の構造が出来上がってしまうのである。成長率は落ちてくることになる。そこからが、先進国の経済政策の腕の見せどころなのである。つまり、構造改革が必要になってくるのである。言い換えれば、先進国の成長戦略とは経済の構造改革でしかありえないとも考えられる。

今回のアベノミクスも、量的緩和や今までどおりのインフラ整備は経済構造をかえることはできない。つまり、非常時の一時しのぎの政策なのである。その点、「第3の矢」と言われる「成長戦略」は、実際は「構造改革戦略」であり、期待している。

小泉政権のときもそうであったが、案の定、新しいことをやろうとすると構造が出来上がっているだけに、ジャッキー・ロビンソンの時と同様に、強い軋轢が起こっているようである。本作品はそんな現状に対する映画なのかもしれない。

しかし、考えてみれば、その軋轢との闘いが政治家の方の本来の仕事ではないか。個人的に筆者は期待している。

「宿輪ゼミ」

経済学博士・エコノミスト・慶應義塾大学経済学部非常勤講師・映画評論家の宿輪先生が2006年から行っているボランティア公開講義。東京大学大学院の時、学生さんがもっと講義を聞きたいとして始めたもの。老若何女、どなたにも分かり易い講義は定評。まもなく8年目になり「日本経済新聞」や「アエラ」の記事にもなりました。「シネマ経済学」のコーナーも。

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