『さようなら』―アンドロイドにみる人の劣化/宿輪純一のシネマ経済学(88)

近未来はアンドロイドが当たり前になるという設定。

第28回東京国際映画祭のコンペティション部門に出品された異色の作品で、実験的でもある。なんと、主人公がアンドロイドなのである。しかも、最優秀女優賞にノミネートされた。(惜しくも落選)

このアンドロイドは女性型の遠隔操作型 アンドロイドのジェミノイドFで、映画の中での名前はレオナである。SF映画の本作では、人間とアンドロイドが共演している。

舞台は近未来で、日本の13カ所の原子力発電所が爆発し、日本の殆どの国土が放射能に汚染される。政府は国を放棄し、国民を外国に避難させるという刺激的な設定。

もう一人の主人公ターニャ(アメリカ・ワシントン出身のブライアリー・ロング)は南アフリカからの難民。アンドロイドのレオナは、体の弱い彼女を幼少期からサポートしてきた。

外国への避難にも優先度があり、ターニャは南アフリカからの難民のせいか優先度が低い。放射能のせいもあり、日に日に体調が悪化している。でも、そんなターニャにも恋人がいた。彼は、在日コリアンのサトシ(新井浩文)で、結婚も約束してくれた。しかし、彼の家族が避難の順番になると、彼はターニャを捨てて去っていく。

人も少なくなり、次第に命が尽きる時期が近づいていることを悟ってくる。滅亡の風景の中で、ターニャは絶望に向かっていく。しかし、アンドロイドのレオナの命は尽きない・・・・。

この日本の原子力発電所の殆どが爆発し、日本に住めなくなるという設定も刺激的であるが、それ以上にアンドロイドが生活に溶け込んでサポートしているという設定が刺激的である。

以前、AIBO(アイボ)というペットロボットがあった。ソニーが1999年から2006年にかけて発売していた子犬型などのペットロボット(エンタテインメントロボット)。名称は Artificial Intelligence roBOt の略で、AI(人工知能)、EYE(目、視覚)そして「相棒」 (aibou) にちなんでいた。

以前、筆者はソニーの企業内大学(社内研修制度)ソニーユニバーシティでも講義をしたが、そんなこともあり、当時、筆者の東大大学院の講義(企業戦略)に担当の方に外部講師として来て頂いた。

AIBOとファン(ユーザー)との関係の深さが印象的であった。人との関係よりも濃いケースもあった。それはペットと人との関係と同様、いやそれ以上のものがあった。AIBOは、その後、ソニーのリストラ計画で生産は終了した。しかし、その後もファンは熱心に活動を続けている。

このアンドロイドもAIBOのように、近未来に人の生活に入ってくるであろう。そして、関係が深まっていくであろう。最近、アンドロイドではなく、人間が巻き起こすひどい事件が多い。日本でもそうである。ひどいことをする人間、無神経な人間、常識や礼節の無い人間、訳の分からない人間のような「マイナスの人間」と付き合うよりは、アンドロイドの方が、よっぽど良いと思うことがあるのではないか。少なくとも気分を害することが少なくなるのではないか。

この映画の中でも、アンドロイドが人間と同じ立ち位置にあり、裏切る人間よりも大事な存在に描かれている。実際、最近、社会的に「マイナス人間」の増加が加速しており、今後、それと合わせて、アンドロイドの価値が向上してくるであろう。

しかし、よく考えると、逆に人間の"劣化"を止め、「マイナス人間」を減らすことに注力したほうが、社会的に、そして経済的にも望ましいのではないかと考えている。学問も大事であるが、この様な面も学校で教えるべきであると考えている。

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