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『ブラックハット』 ― 知識の前に大切なのは「善悪」と「礼節」の教育/宿輪純一のシネマ経済学(74)

2015年05月06日 15時39分 JST | 更新 2016年05月04日 18時12分 JST
Universal Pictures

(BLACKHAT /2015)<5月8日公開>

 『ヒート』『コラテラル』『マイアミ・バイス』『パブリック・エネミーズ』な"ハードな男の映画"を得意とするマイケル・マン監督が、過去の事件を参考にしたと思われるが、サイバーテロをテーマに描くクライムアクションをリリースする。これは5年ぶりの最新作である。元ハッカーが主人公であるが、マッチョでハードに大立ち回りを演じるところが、ハッカーのオタク・イメージを超える。

 システムに対して攻撃する"悪意を持ったハッカー"「ブラックハット」がその題材である。ネットワークに不法侵入されたことで香港の原子炉(香港に原子炉はないはずなので、深センの大亜湾原子力発電所か)が破壊される。(それって、ものすごく大変なことじゃないのかと見ている方が心配になる)さらに、筆者も駐在し取引していた、シカゴの先物取引所にも侵入し、大豆の取引で相場を急騰させて莫大な不正利益を得る。その後、なんと、アメリカ(FBI)と中国(人民解放軍)の組合せの合同捜査チームが結成される。事件解決のため、獄中のすご腕ハッカー・元ブラックハットのニコラス(クリス・ヘムズワース)に協力を要請する。犯人は以前彼が開発したプログラムを応用しており、見えないハッカーの捜索に加わり、香港を始め、アジアを駆け巡り、最後は、主人公が(ハッカーであるが)、拳銃を持ちエージェント並みの大活躍をする。もちろん、お約束の恋愛も、特に後半にしっかり描く。

 『マイティ・ソー』シリーズなどのクリス・ヘムズワースが主演し、ハッカーのオタクのイメージを超えて逞しく、最前線の現場にも出動する。『ラスト、コーション』のタン・ウェイも共演し花を添える。

 コンピューターやネットワークなどのシステムは経済活動になくてはならないようなものになってきている。しかもプログラムを組む、そしてハッキングをするには専門的な知識が必要である。悪意をもった天才ハッカーの映画は昔から沢山ある。たとえば『ウォーゲーム』『スニーカーズ』『ソードフィッシュ』『ザ・ハッカー』などがあり、それぞれに面白かった。

 しかし、この様に手段を超えて、原子力発電所を爆発させるとは、そもそも言語道断の犯罪である。

専門的な知識の習得はもちろん大事なことである。しかし、その知識を生かすのも、悪意を持っていては、社会的に大問題である。筆者は知識というものよりも、「善悪」や「礼節」をまずは徹底的に教育すべきではないか。それが結果的に社会的なコストを下げることにもなる。特に最近の様々な面で荒れてきた日本では必要に考える。「礼節」についても重要である。それが具体化した形が「おもてなし」ではないか。

 最近、ハリウッド本作品の傾向でもあるのであるが「中国」の存在感が大きい。確かに13億の市場であり、開拓中なのであろう。現場が中国であったり、中国が主人公の仲間で出てきたりする。商売のためには仕方ないことか。そのため、今回もメインの現場が香港で、中国の人民解放軍が捜査に参加する。中国が強かに進めているAIIB(アジアインフラ投資銀行)の世界への影響力の強さとイメージがダブる。

 筆者は、金融機関に勤務しているときに「決済」などの国際的な金融インフラもリアルに担当していた。映画で、良く犯罪者が送金を世界中の都市をぐるぐる回して捜査官を煙に巻く、というコンピューターの画面のシーンが出てくる。しかし、実際は、これは速さの点でも、世界中を回す点も、絶対無理である。もっと詳しくいうと、犯罪者は一般的にドルを保有するが、ドルならばその決済はニューヨークの銀行の口座で決済(送金)するのが通例である。ということは、そのおカネはニューヨークから動かない。更に、最近では、3.11以降、米国は、非居住者に対する送金は非常に厳しい。特定の国や企業を個人に送金するのを禁止しており、それほど簡単に怪しい送金はできないのである。

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