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ソマリア海賊と米国の貿易黒字――『キャプテン・フィリップス』 ―宿輪純一のシネマ経済学(18)

2013年11月26日 02時43分 JST | 更新 2014年01月24日 19時12分 JST

『キャプテン・フィリップス』(原題:Captain Phillips)2013年(米)

本作品は2009年4月に実際に起こったソマリア海賊によるシージャック(人質事件)をベースとした実話。4日間にわたって海賊の人質となった船長の運命と、米国海軍特殊部隊ネイビーシールズ(Navy SEALs) による手に汗握る救出作戦。アカデミー賞候補の作品。

ネイビーシールズはよく映画に出てくるし、テーマや題名にした映画も何本かある。Navy SEALs いう名前は、Navy が海軍、SEがSEA(海)、AがAIR(空)、LがLAND(陸)の組合せ。また、海軍らしく、動物のアザラシ(seal)も掛けている。陸海空問わずに軍事的特殊作戦を実行できるという、海軍所属の最強のアメリカ特殊部隊の一つ。

 

あらすじであるが、ソマリア海域を航海中の米国籍貨物船マースク・アラバマ号を、ソマリアの海賊が襲撃。武器を所持していた4人の海賊に、武装していなかったアラバマ号はあっという間に占拠される。

船長のリチャード・フィリップス(トム・ハンクス)は、20人の乗組員を開放させ、自ら船長一人が海賊の人質となる。その後、米国海軍も動き、駆逐艦2雙、航空母艦を動員し、ネイビーシールズによって緊迫した救出作戦が始まる。本作品は米国海軍の協力により、本作品に登場する駆逐艦2雙、航空母艦は米国海軍の本物である。

 

監督は、9.11のハイジャックされた飛行機を描いた『ユナイテッド93』(06年)、そして『ボーン・スプレマシー』(04年)や『ボーン・アルティメイタム』(07年)の英国人ポール・グリーングラス。彼の強みは作品を見てもわかるように、社会問題とサスペンスを得意分野としており、本作品はまさに得意分野の組合せ。

まさに、誇りを持って恐怖に立ち向かう立派な船長にトム・ハンクス。彼はアカデミー主演男優賞を2回受賞している名優。このような"逆境パニックもの"への出演も、『アポロ13』、『キャスト・アウェイ』等がある。ちなみに、筆者は、たまに監督や俳優などの映画関係者にインタビューするが、彼は筆者のようなC級映画評論家に対しても、受け答えも配慮があり、"最も"尊敬できる態度と素晴らしい話の内容であった。あのような人格者になりたいと思った。

さて、この海賊の話であるが、昔は積荷を狙ったが現在ではそうではない。特にソマリアの場合はある意味、産業化されており、身代金を狙うものである。海賊産業に出資する投資家もいる。ソマリアは独裁政権が長く、産業が育たなかった。世界経済から取り残された「経済格差」がこの海賊のベースにある。このソマリア海賊の船長も元漁師(英語をしゃべれる!)だった。目の前を大きな貨物船が通っていったのであろう。その後、このような海賊対策として、最近では、武装警備員を載せるなどして、このようなシージャック事件は減ってきているそうである。

経済の大前提には"安全"がある。特に、資源を海外に頼る日本経済とすると、このようなテロ対策や安全保証も大事な問題である。例えば、中東からの石油の輸送に関しては、このような危険は常にある。また、そのような安全保障の面では、本作品でもそうであるが米国の軍事力の影響は強い。一方、民主党政権と共和党政権では、軍事に対する力の入れ方は民主党の方が弱いともいわれている。「アラブの春」もそのようなことの背景の一つではないか。さらに、米国ではシェールガスが本格生産されたら、貿易黒字国となり、彼らにとっての中東の重要性が薄れることを懸念せざるを得ない。

しかし、米国が貿易黒字とは。筆者が大学生の頃には想像もできなかったことである。日本の貿易赤字もまた想像できなかったが。

※『ローマの休日とユーロの謎―シネマ経済学入門』(東洋経済新報社)

不朽の名作『ローマの休日』がなければユーロは誕生しなかった? 『スターウォーズ』は現在の通貨理論を超えている? 『007 ゴールドフィンガー』に出てくる経済学の基本的な法則とは? 『バック・トゥ・ザ・フューチャ―』が教えてくれる最も大事な経営資源とは? 拝金主義を否定していた『ニュー・シネマ・パラダイス』? 『マンマ・ミーア!』は行動経済学の教科書? 『タイタニック』で景気の先行きが分かる? 『セックス・アンド・ザ・シティ』が提起する都市の経済問題とは?

『ローマの休日』から最新作まで、さまざまな映画85本を題材にとりながら、経済・金融・経営・人生などのさまざまなトピックをやさしく解説した、新しい「シネマ経済学」入門。映画と経済の第一線の専門家だから出来た新しい解説。「シネマ経済学」は人気講義で、テレビでも解説。

映画を観てから読んでも面白いし、本書を読んでから映画を観ればその映画がもっと好きになる。古典的な名作から最近の話題作まで解説し、老若男女を問わず楽しめる1冊。

宿輪ゼミ

経済学博士・エコノミスト・慶應義塾大学経済学部非常勤講師・映画評論家の宿輪先生が2006年から行っているボランティア公開講義。東京大学大学院の時、学生さんがもっと講義を聞きたいとして始めたもの。老若何女、どなたにも分かり易い講義は定評。まもなく8年目になり「日本経済新聞」や「アエラ」の記事にもなりました。「シネマ経済学」のコーナーも。

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