『天才バカヴォン ~蘇るフランダースの犬~』 ― 新結合こそイノベーション!/宿輪純一のシネマ経済学(75)

本作品は、2008年に亡くなった赤塚不二夫の生誕80周年記念作品で、「秘密結社 鷹の爪」シリーズのFROGMANが、「天才バカボン」初の長編アニメの映画にした。

(2015年)<5月23日公開>

赤塚不二夫は、筆者が好きな漫画家の一人である。この「天才バカボン」も好きであったが、「もーれつア太郎」も好きだった。本作品は、2008年に亡くなった赤塚不二夫の生誕80周年を記念した作品で、「秘密結社 鷹の爪」シリーズのFROGMANが、「天才バカボン」初の長編アニメの映画にした。「天才バカボン」はテレビでは4回放映された。ちなみに、FROGMANはバカボンのパパの声も演じる。

しかも、訳が分からないのが人気アニメ「フランダースの犬」とコラボレーションしたという点。しかも、ネロと愛犬パトラッシュが、悪の手先となって、バカボン一家に戦いを挑むという。何が何だか分からない、バカバカしく楽しい映画。

ここで気になるのは、なぜ「バカボン」ではなくて「バカヴォン」なのかということ。FROGMANによると、赤塚不二夫が命名した「バカボン」は、そもそも「馬鹿梵」で、ボンは梵。ヒンズーや仏教世界で言うところの宇宙の根本原理を意味する『ブラフマー』。赤塚先生にとっての世の中は馬鹿げて、かわいらしく愛すべき存在だったので『バカボン=馬鹿梵』と名付けていた。また、本作品では今回は根本原理から逸脱し、新しい世界の再構築を試みるため、破壊と再生の神シヴァの名の『V』の文字を本作のバカヴォンに込めた、ということらしい。

さてストーリーであるが、「フランダースの犬」の最後シーンから始まる。ネロとパトラッシュは天に召される。ところが突然、ネロと"悪の手先"となって復活し、自分たちを不幸な状況に追い込んだ人間たちへの復讐を始める。しかし、インテリペリという秘密結社も出てくるが、「バカボンのパパの本名」を知りたがっている、などという訳の分からない状況。この秘密結社がネロとパトラッシュを使うのである。その後、激しいが、ゆるいバカボン一家との戦いが始まる。

確かに「バカボンのパパの本名」は素朴に知りたいとも思う。そして次男なのに「はじめちゃん」の理由も知りたいとも思う。(野球のICHIROも次男であるが理由があって一朗と付けた)

経済政策の長期的成長戦略は、粗く言えば、実は「人口×資金×イノベーション」に因数分解できる。そのイノベーションであるが、オーストラリアの経済学者シュンペーターの経済発展論の中心的な概念である。一部には「発明」のような概念と思われることがあるが、そうではなく、まったく違うもの、異質なものなど、様々なものを組み合わせて新しい商品(価値)を創造していくことで「新結合」という意味が正しいのである。

つまり、この作品も、新結合、つまりイノベーションなのである。しかも、産業的に考えた場合、様々な新商品は出すまで当たるか、当たらないか、また大ヒットするか分からないという可能性が高い。この作品もまさに異質な2つの作品の組合せであり、新分野を形成する可能性もある。

ちなみに、筆者が書いている「シネマ経済学」であるが、これも異質なものの組み合わせで、価値を生む例ではないか。当初、映画評論家としてスタートする時に、普通の映画評論では、まったく評価されなかった。そこで、自分の持って居る「経済学」の知識と新結合させ特徴をつけた。経済学博士号をもった映画評論家はたぶんいないことも調べた。他との差異化が企業戦略では必要なのである。実際に筆者の企業戦略の講義では実例として説明している。

また、筆者も決済系の書籍で著作権関係の被害を受けているため、この「シネマ経済学」も商標登録しようとした。特許庁の回答は半年ぐらいかかったが、いわゆる門前払いだった。

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