『ネイチャー』―自然を守る"賢さ"を 宿輪純一のシネマ経済学(39)

原題の「Enchanted Kingdom」とは「魅惑の王国」という意味であろうか。筆者は植物や動物などを始めとした”自然”も大好きで、以前『野生の王国』というテレビ番組も好きであった。しかし、いつも少し悲しくなった。それはいつも、人間のせいで動物が減少し滅亡の危機に瀕していると述べられていたからである。

原題の「Enchanted Kingdom」とは「魅惑の王国」という意味であろうか。筆者は植物や動物などを始めとした”自然”も大好きで、以前『野生の王国』というテレビ番組も好きであった。しかし、いつも少し悲しくなった。それはいつも、人間のせいで動物が減少し滅亡の危機に瀕していると述べられていたからである。

本作を制作したBBC(British Broadcasting Corporation/英国放送協会)は、NHKと同様、英国の公共放送局であるが、かなり質の高い番組を製作している。BBCの中でも、ネイチャー・ドキュメント部門のブランドであるBBC EARTHが本作を担当し、「ディープ・ブルー」や「アース」と同様に素晴らしいネイチャー・ドキュメンタリーになっている。今回、まさに知られざる大自然の姿を、特別に開発した機材を使った最新鋭の4K3D映像で捉えている。撮影には約600日という膨大な時間を費やされている。

今回は、アフリカの7つの“大自然の王国”が紹介される。今回は、コンゴ周辺の熱帯雨林、世界遺産のナミビアのナミブ砂漠、サンゴ礁が広がる紅海などなど。「謎めいた森」「燃え盛る地下世界」「異国の砂」「灼熱の平原」「魅惑の海中都市」「凍てつく山脈」「荒れ狂う激流」という7つの神秘的な自然の領域を“一緒に”旅し、グランドフィナーレへと向かう。火山や砂漠などの自然のなか、ゴリラ、フラミンゴ、トカゲ、ヒヒ、カメ、ヘビ、ワニ、ゾウなどの動物が登場する。まさに誰も体験したことのない(いや体験することができない)未知なる大自然の王国が体験できる。この映像には価値がある。

3Dの撮影は、左右の眼に異なる画像を映し出すため“2台のカメラ”を使用するが、今回はそれだけではない。2台が平行に設置されたカメラや、ハーフミラーを用いることでカメラを直角に設置した小型機など様々な3Dカメラを使用してきめ細やかに作られている。

筆者はこのようなネイチャー・ドキュメントを見ると、森林が切り倒され、動物が狩猟され、絶滅していくことに対する悲しい思いと強い懸念を抱いてしまう。発展途上国は食料と燃料の生産のため森林を切り倒し、焼き払っている。それも輸出用の場合もある。さらに、特殊な薬や食材として動物が乱獲されている。動物の種族の絶滅も大変な問題であるが、この森林の減少も問題である。それは「地球温暖化」に対して影響が大きいのである。

地球温暖化は、(議論はあるが)基本的には二酸化炭素等の温暖化ガスの増加が原因である。温暖化ガスが布団のようになって、地球の熱を宇宙に逃すのを妨害するのである。二酸化炭素は基本的には石油や石炭、そして木材などの炭素燃料を燃やすことによって発生する(現在の日本は原子力発電が十分使えないために火力発電に頼っているが)。また、森林などの植物は光合成によって二酸化炭素を酸素に転換する。そして、地球の二酸化炭素量を削減してきた。

この温暖化の問題は、まさに“短期”と“長期”の問題を考えされる。短期的な対応を最優先し、長期的な課題に手をつけるのをやめてしまうのは良いわけがない。つまり、“人間の賢さ”が試される典型的な問題となっている。

例えば、ドイツは、森林や自然を大切にして、温暖化対策にも力を入れている。木材の生産量も日本の5倍もある。経済も強く、財政赤字比率も先進国で最低ラインである。金融政策はユーロ導入後、ヨーロッパ全体で行っており、財政政策も基本的には行わず、規制緩和による成長戦略が経済政策の中心である。日本のアベノミクスでは、第1の矢の金融政策、第2の矢の財政政策という短期的な経済政策が重点となっており、長期的な第3の矢の成長戦略(構造改革)がなかなか行われない。

今さえよければいいのではなくて、将来を考えることが“賢さ”で、その短期と長期のバランスが重要なのである。健康維持と一緒である。日頃の飲み食いの不摂生が、長期的には、自分を殺しているかもしれない。

映画では『Back to the Future』は可能だか、実際の経済や人生ではそれは出来ない。

「宿輪ゼミ」

経済学博士・エコノミスト・慶應義塾大学経済学部非常勤講師・映画評論家の宿輪先生が2006年4月から行っているボランティア公開講義。その始まりは東京大学大学院の学生さんがもっと講義を聞きたいとして始めたもの。どなたでも参加でき、分かり易い講義は好評。「日本経済新聞」や「アエラ」の記事にも。この2014年4月2日の第155回のゼミで“9年目”に突入しました。

Facebookが活動の中心となっており、以下を確認、ご参加下さい。会員は間もなく6000人になります。

https://www.facebook.com/groups/shukuwaseminar/

 映画『ネイチャー』メイキング

映画「ネイチャー」画像集

注目記事