『ジュラシック・ワールド』―将来と警鐘のバランス/宿輪純一のシネマ経済学(80)

この「ジュラシック・シリーズ」は、企画で行けるシリーズであり、大変魅力的である。そも
Chris Pratt, left, and director/writer Colin Trevorrow arrive at the Los Angeles premiere of
Chris Pratt, left, and director/writer Colin Trevorrow arrive at the Los Angeles premiere of
Matt Sayles/Invision/AP

(JURASSIC WORLD/2015)

スティーヴン・スピルバーグが監督や製作総指揮をしてきた「ジュラシック・シリーズ」第4弾のSFアドベンチャー。今まで『ジュラシック・パーク』(1993年)、『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(1997年)、『ジュラシック・パークIII』(2001年)と4年毎に製作させていたので、少し間が空いた感じである。

スピルバーグは1946年生まれで、現在68歳。ジュラシック・シリーズは2作目まで監督をしていた。それ以降は製作総指揮をしている。スピルバーグは、アカデミー賞についても1993年『シンドラーのリスト』で作品賞と監督賞、1998年『プライベート・ライアン』で監督賞を受賞している。

この製作総指揮(Executive Producer)であるが、これは会社でいえば経営者みたいなもの。製作者(Producer)が映画の責任者であるが、さらにその上にいる存在で、製作者以上の権限を持つ。監督(Director)は作品としての映画を作る製造担当者である。製作者はたとえばファイナルカット権という権限を持つなど、映画の製作では強い権限をもつ。もっとも、製作総指揮といっても、名義貸しのようなパターンもあるともいわれている。しかし、筆者は来日記者会見に参加したが、そのインタビューの中で本作の監督がスピルバーグから任された時などの話も詳しく話しており、スピルバーグは製作にかなり食い込んでいる様子がうかがわれた。

さて、この「ジュラシック・シリーズ」は、企画で行けるシリーズであり、大変魅力的である。そもそもの企画はマイケル・クライトンであった。彼は1942年にシカゴで生まれ、2008年に66歳で亡くなった。かなり多彩な才能を持っていて、仕事も、作家、映画監督、脚本家、プロデューサー、医師などなど多岐に渡っている。映画化された小説もジュラシック・シリーズの他にも『アンドロメダ...』、『ライジング・サン』、『ディスクロージャー』をはじめ多数ある。しかし、筆者にとってみると、医学博士だけあって『ER緊急救命室』の製作総指揮と脚本が大変良かった印象が強い。筆者はシカゴ勤務が長かったが、勤務したオフィスがあの病院(実際にはない)の近くであり、あのシカゴの街の雰囲気も良く出ていた。

ちなみに、全くの余談であるが、筆者は慶應義塾大学の経済学部の非常勤講師と経済研究所の客員上級研究員もやっており、研究室が三田キャンパスの東館にある。その東館の杮落しの講演会がマイケル・クライトンであった。その時、6~7階吹き向けのラボ(教室)にサインをしたのが起源となり、現在、クライトン・カフェといわれている。また、彼は長身で207センチあったので、随分高いところにサインがある。(部外者は立ち入り禁止です)

ジュラシック・シリーズも彼の科学的知識を生かしたSFとなっていた。この特に映画のSFという分野も、映画の主要な分野の一つである。初期の映画である『月世界旅行』(1902年)で月への着陸が描かれていた。理系の分野では、イメージがあるとそれが目標となって実現できたことが沢山ある。携帯(テレビ)電話、スペースシャトル・・・上げだすとキリがない。

ジュラシック・シリーズもそうで、近未来に実現できそうだから面白いのである。琥珀に埋まった蚊の血液からDNAを採取し、そこから恐竜を作るというところがいかにも出来そうである。

舞台となった島は1作目と同じ、コスタリカのイスラ・ヌブラル島という架空の島で、世界的な恐竜のテーマパーク「ジュラシック・ワールド」が再び大々的に営業している。恐竜の飼育員オーウェンが警告したにもかかわらず、パークの責任者であるクレアは、営業成績が良くないので、学者にプレッシャーを掛け、遺伝子操作によって新種の恐竜インドミナス・レックス(ジュラシック・ワールドの所有がインド系だからか)を誕生させる。インドミナスは知能も高い上に共食いもする新型凶暴恐竜。子供たちが遊びに来ているとき、凶暴なインドミナスが脱走してしって、パーク内の2万人は逃げ場を失うという、お約束の展開となる。ちなみにクレア役の主演女優のブライス・ダラス・ハワードは、『ビューティフル・マインド』でアカデミー賞受賞の監督のロン・ハワードの娘。

いうまでもないが、CGの進歩は著しく、映像の迫力は満点で、これもまた企画をより磨いて、この映画のウリである。

マイケル・クライトンの原作のテーマの一つに、収益重視で突き進んでいく「奢り」というか、そういうものへの戒めがある。彼はよくそれを、科学を使って描いている。今回の作品もそうである。このとにかく収益重視でプレッシャーを掛け、一線を超えて悪いことまでしていくというパターンが「東芝」の事件を彷彿とさせるのは、筆者だけなのだろうか。

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