『メッセージ』―将来は分からないから面白い/宿輪純一のシネマ経済学®(121)

将来は分からないから面白いのではないか。将来が分かると「やっても無駄」的な発想になり、やる気も失う。

(原題『Arrival』2016年)

"コンタクトレンズ"の様な形をした巨大な球体型宇宙船が、突然、地球にやってくる。世界中が不安と混乱に包まれ、お約束であるが敵対する雰囲気が盛り上がり、戦闘の準備が進む。そんな中、言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)は、宇宙船に乗ってきた7本足(!)の知的生命体(宇宙人)たちの言語を解読するように、軍から依頼される。

彼らが使う文字をイアン(ジェレミー・レナー)と共に、懸命に分析していくと、彼女は時間をさかのぼるような不思議な感覚に陥っていく。そして、努力の結果、なんと、まったく訳が分からない言語を、最後には理解することができるようになる(すごい!)。

彼らがそこで、宇宙人が地球を訪れた意外な理由と、地球の人類に向けられたメッセージが判明していき、中国の宇宙船への攻撃も事前に止めることができる。

それで終わりではない、言語を身に付けていくとともに、宇宙人が持っている過去・現在・未来を理解する不思議な能力をも身に付けていき、彼女の運命が大きく変わっていく。そして『シックスセンス』的なフラッシュバックが・・・。

アカデミー賞主要8部門ノミネートで、アカデミー音響編集賞音響賞を受賞作品。確かに音響もすごい。中国系アメリカ人テッド・チャンの小説「あなたの人生の物語」をベースとしたSFドラマ。

主人公の女性は将来も分かるようになる。それはそれでいいのであるが、将来は分からないから面白いのではないか。将来が分かると「やっても無駄」的な発想になり、やる気も失う。

個人的な話であるが、筆者は能力もそれほど高くないし、失敗ばかりであった。会社でも学会の世界でも嫌がらせもあったし、楽しいことの方が少なかった。お前なんてうまく行くわけない、といわれてきた。しかし、将来を変えよう(道を切り開こう)として努力してきたつもりである。後悔しないということを第一に考えてきた。

ひと昔前『不確実性の時代』というガルブレイス先生の名著もあった。経営も、経済も分からない将来を変えていこうとすべきであると考えているし、そう学生に教えている。

分からないから経営努力するし、経済政策を実施するのではないか。やってみないと分からないことも多い。逆に、分からないから面白いのではないか。

最も大事なのは、学問的ではないが「前向きな気持ち」ではないかと考えている。それが将来を変えていく(道を開いていく)と考えている。

さらに、ゲーテではないが、達成した目標よりも、その「一生懸命努力している時間」にこそ、ある意味「価値がある」(幸せ)ではないかとも考えている。やる気のない人、負の考え方をする人の将来はさらに沈んでいくであろう。

個人的には私は、一生懸命限界までやって、最後は「サイコロ振って出たとこ勝負」と考えている。経営や経済はそれでは困るが(笑)

【「シネマ経済学」商標登録のお知らせ】

筆者が2003年から様々な媒体で書き、テレビでも解説してきた「シネマ経済学」ですが、平成28日12月18日付で特許庁(小宮義則長官)により、商標登録して頂き、商標登録証も届きました。以前、共著者が共著を英訳し単著として勝手に出版した事件(現在も係争中)が発生し、皆様からのアドバイスも多数頂戴し、以降、著作権や商標権に真剣に対応するようになりました。今後「シネマ経済学」に興味がある方は、筆者までまずご連絡ください。今後「シネマ経済学」(単語)にも®(Registered Trademark)を付けます。

【「宿輪ゼミ」のご案内】

博士(経済学)・帝京大学経済学部経済学科教授・慶應義塾大学経済学部非常勤講師・映画評論家の宿輪先生が2006年4月から行っているボランティア公開講義。その始まりは東京大学大学院の学生達がもっと講義を聞きたいとして始めたもの。どなたでも参加でき、分かりやすいと、経済学博士の講義は好評。「日本経済新聞」や「アエラ」の記事にも。いよいよ4月で11周年、開催回数は227回、会員は1.2万人を超えて、日本一の私塾とも言われています。原則、毎月第1と第3の水曜日に開催。今後の予定は5月 24日(水)、6月に開催。Facebook経由の活動が中心となっており、以下からご参加下さい。

尚、2017年4月より文化放送「The News Masters TOKYO」に、火曜日朝7時からレギュラー出演中。

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