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『ミリオンダラー・アーム』― 挑戦する気持ちこそ生きている意味 /宿輪純一のシネマ経済学(60)

2014年09月28日 17時17分 JST | 更新 2014年11月27日 19時12分 JST

(2014年/MILLION DOLLAR ARM)

 先日この映画評論の連載で『42』という映画を紹介したが、それは黒人がアメリカ大リーグで初めて挑戦した話であった。今回はインド人がはじめて大リーガ―になった話であるが、主人公は崖っぷちのエージェント。

 インドは、植民地であったため英国の影響を受けている国。アメリカ発祥の野球は行われておらず、野球の起源であるクリケットが行われている。クリケットといえば、現在、インドでは日本のテレビアニメ『巨人の星』がインド人を主人公にしてリメイクされ、大人気だそうである。そのスポーツは野球ではなくクリケットである。(『おしん』や『巨人の星』といった根性モノは、社会環境のせいか、高度成長期の新興国では受けるようである)

 ちなみに、筆者は現在ボストンに滞在しているが、アメリカでの野球の人気は相変わらずすごいものがある。国技でもある。日本人選手の活躍も、なんとなく誇らしいものがある。アメリカでは最初に国歌を歌い、後半に歌を歌うことが多い、シカゴカブスのリグレー・フィールドでは7回の表が終了すると、日本映画のヒントにもなった『私を野球に連れてって』が歌われる。そして、ボストン・レッドソックスのフェンウェイ・パークで、8回表が終わった後に『スィートキャロライン』が流される。なんとニ―ルダイアモンドの作品であり、このキャロラインとは、現駐日米国大使のキャロライン・ケネディである。

 さて、この『ミリオンダラー・アーム』であるが、12億の人口を持つ野球未開の地・インドから初のメジャーリーガーを発掘するエージェントのすごい実話。

スポーツエージェントのバーンスタイン(ジョン・ハム)は、現在、顧客ゼロに。そこでバーンスタインは、12億も人口がいればと、野球と似たインドのクリケットの選手から逸材を発掘することに。(発想としては乱暴だが、極めて面白い)

 インドではテレビ局と「ミリオンダラー・アーム」という番組を企画し、数千人の中から2人の青年をアメリカに招く。しかし、言葉や文化の壁もありトラブル続出でも、一生懸命頑張って、道を開いていく。本作はそもそもサクセスストーリーで、良い意味で脚本がストレートで、爽快に楽しめる。

監督は『ラースと、その彼女』などのクレイグ・ギレスピー。本作の中の音楽が心地良いとおもったら『ムトゥ 踊るマハラジャ』『スラムドッグ$ミリオネア』『ロボット』『127時間』などのA・R・ラフマーン。アメリカに連れてくる2人のうちの一人マドゥル・ミッタルはどっかで見たなーとおもったら『スラムドッグ$ミリオネア』の主人公の兄役だった。

 いろいろなことやろうとする時に、もちろん報酬もあろうが、もっとも大事なことは「挑戦する気持ち」ではないか。近代経済学では、いつも合理的に考える「経済人」が分析のベースとなることが多い。しかし、スコットランド出身の経済学の父アダムスミスは「神の見えざる手」も有名であるが、経済の成長のためには、新しいことに挑戦していく「アニマル・スピリッツ」が大事と書いている。

 新しいことは良く分からないことが多いし、失敗も多い。「強い気持ち」持ち続け、それに負けずに試行錯誤することが大事となってくる。前例主義では何も起こらない。

 筆者は非常勤講師ではあるが、2003年から大学院と大学で教えて10年を超えた。最近の学生さんは、現状で十分、といったように、「アニマル・スピリッツ」が弱くなってきたような気がしてならない。それも成熟化というか、日本経済の成長率がおちてきた原因の一つではないか。それは個人の問題であるが、社会(環境)の問題でもある気がしてならない。日本経済の、構造改革が進まず、世界一の借金大国になったのも根本のところは一緒かもしれない。

 個人的には、何歳になっても、一生懸命頑張って挑戦する気持ちだけは失いたくないと思っている。

「宿輪ゼミ」

経済学博士・エコノミスト・慶應義塾大学経済学部非常勤講師・映画評論家の宿輪先生が2006年4月から行っているボランティア公開講義。その始まりは東京大学大学院の学生さんがもっと講義を聞きたいとして始めたもの。どなたでも参加でき、分かり易い講義は好評。「日本経済新聞」や「アエラ」の記事にも。この2014年4月2日の第155回のゼミで"9年目"に突入しました。第167回目のゼミは10月8日(水)に開催!

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