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『世界一美しいボルドーの秘密』― 逆にバブルを作ってないか /宿輪純一のシネマ経済学(59)

2014年09月22日 15時21分 JST | 更新 2014年11月21日 19時12分 JST
ASSOCIATED PRESS
A man pours a glass of red wine on the opening day of the 44th edition of the annual International Wine and Spirits Exhibition "Vinitaly", in Verona, northern Italy, Thursday, April 8, 2010. The wine exhibition runs until April 12. (AP Photo/Luca Bruno)

(2013年/RED OBSESSION)―Obsessionとは執念・妄想などの意味

筆者は海外が長いこともあり、ワインも好きである。ワインは産地によって特色がある。そのなかでも、フランス南西部のボルドー(Bordeaux)は最高級のワインの産地で、高級なボルドーワインは数種類のブドウを混ぜことが多く、熟成させるため、コクがあり渋みが強く、重厚な味わいとなる。ちなみにワイナリー(ワイン製造所)のことをブルゴーニュでは「ドメーヌ」と呼ぶが、ボルドーでは「シャトー」と呼ぶ。

そのボルドーワインの生産者であるシャトーと、ワイン価格の高騰に見られたバブルなどを中心としたドキュメンタリー映画で、実は「金融」の勉強にもなる。

ボルドーには最高ランク1級の5大シャトー(ラフィット・ロートシルト、ラトゥール、ムートン・ロートシルト、マルゴー、オー・ブリオン)があるが、彼らに加え、ペトリュス、パルメ、ディケム、コス・デストゥルネルなどの高級シャトーの関係者がこれでもかと登場する。まず彼らがワインに対する熱い思いを述べる。実際にワイナリーを持つフランシス・フォード・コッポラ監督も登場する。

ワインもフランスやヨーロッパ域内だけではなく、世界中に輸出されることから世界経済の影響を受ける。しかも、近年は投資対象となっており、「ボルドー・インデックス」などの指数も出来ている。

需要というか購入サイドを見てみると、この10年では最初はアメリカが主役で大量に購入していたが、2008年のリーマンショックで購入が激減。次に中国(特に大富豪)が異常な量を購入し、一気にワインはバブルとなった。シャトー関係者は昔からの顧客を失うのを恐れたほどである。その後、中国もGDP伸び率が10.5%とピークとなった2010年を最後に、逆に購入が激減、さらにヨーロッパ債務危機も発生し、需要は激減する。シャトーの関係者は歴史や経済に翻弄されてきた400年の経験で、いろいろな変動を吸収していく。

投資の対象となる高級品といっても、ブランド物の商品、たとえばカバンは職人がいて皮があれば作ることができる。それに対してワインは、土壌(テロワール)や気候などの自然など運命的なものに左右されることも多く、トップクラスのワインの年間の製造量(供給量)は400年ほぼ変わらない、いや変えられない。だから、ビンテージといわれる当たり年のワインは100年に5年といわれている。ラフィットでいうと、1961年、82年、そして2009年といわれている。

このように、様々なもの、それも高価なものが投資対象となって、バブルが発生し、そして、必ずバブルというものは崩壊する。

実は、筆者は「行動経済学」をベースに「バブル」についても研究している。最近のFRBや日本銀行などの各国中央銀行が行っている「期待」をコントロールする手法こそ危険な気がしてならない。要は金融市場を安定化させるために、金融政策をあらかじめ説明している。そうすると市場参加者は安心して取引ができるし、金融市場も安定するというわけである。

しかし、人間はいつもある程度のリスクを取る性質をもっている。そうなると、いつも取引をしている金融市場が安定すると、普段は手を出していないリスクの高い市場に手を出し、それらの市場がバブルとなる可能性が極めて高い。つまり、過去の「いつ金利操作するかわからない」といった"悩む"市場の方が、取るリスクを抑え、バブルを作る可能性が低いのではないかと考えている。

ちなみに、原題は『RED OBSESSION』であるが、このREDはワインの赤と中国の赤と2つの意味をかけているのではないか。この映画で、中国についての部分が約半分を占めていることからもそう思う。

「宿輪ゼミ」
経済学博士・エコノミスト・慶應義塾大学経済学部非常勤講師・映画評論家の宿輪先生が2006年4月から行っているボランティア公開講義。その始まりは東京大学大学院の学生さんがもっと講義を聞きたいとして始めたもの。どなたでも参加でき、分かり易い講義は好評。「日本経済新聞」や「アエラ」の記事にも。この2014年4月2日の第155回のゼミで"9年目"に突入しました。
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