BLOG

『グッド・ライ~いちばん優しい嘘~』 ― 難民と移民と甘え/宿輪純一のシネマ経済学(73)

2015年04月10日 14時55分 JST | 更新 2015年06月09日 18時12分 JST
2014 Black Label Media, LLC. All Rights Reserved.

(THE GOOD LIE /2014)<4月17日公開>

この話は"実話を元にした物語"である。最近は、本当に感動的な実話の映画が多い。現実は小説よりも奇なりということもあるであろうが、不幸な環境の中、辛い日々を送り、涙ぐましい努力をしている人も多いということである。

アフリカのスーダンも中東と一緒で、西側諸国の事由で国境が人工的に引かれた。スーダンは、イスラム教とキリスト教の住人が一つの国とされ、そもそも政治的に不安定さを持ってきた。本作の舞台は1983年で「第二次スーダン内戦」で虐殺が続き、難民が大量に発生する。その後、アメリカが難民受け入れを表明し、約4000人が各地に移住することになった。本作品はその若い難民たちのドラマである。文化の違いはお約束でそれはそれで面白いが、彼らの清らかな精神と頑張りは感動させる。


(c)2014 Black Label Media, LLC. All Rights Reserved.

アメリカ中西部ミズーリ州のカンザスシティーで職業紹介所勤務のキャリー(リース・ウィザースプーン)は、スーダンの内戦で両親を亡くした若い難民を空港で出迎える。これまで抜かりなく、てきぱきと仕事をこなしてきた彼女の任務は、難民の彼らに勤め先を早々に見つけることだった。だが、電話など見たこともなく、マクドナルドも知らない彼らの就職は困難を極める。しかし、若い難民の彼らは逞しく仕事に付き、打ち込込む。

当然、辛いことも多い。若い難民のうち一人は、収益性を考えて余った食べ物を捨てるという資本主義的なスーパーマーケットのやり方に対し、上司と対立して辞めてしまうが、宗教的価値観に裏打ちされた、食べ物に対する正しい考え方(精神)は譲らない。

その後、若い難民の兄弟が生き残っているとの情報を得る。当然、救出したいという強い思いに駆られる。しかし、運悪く2001年のアメリカ同時多発テロ(9.11)が発生し、スーダンはテロ支援国に指定され、難民の受け入れも止まってしまう。このとき「優しい嘘」で自己犠牲的に兄弟を救う・・・・。


(c)2014 Black Label Media, LLC. All Rights Reserved.

『ビューティフル・マインド』でアカデミー監督賞受賞した名監督ロン・ハワードが製作し、『ぼくたちのムッシュ・ラザール』のカナダのケベック(フランス語圏)出身で、移民関係をテーマにしているフィリップ・ファラルドーが監督。主人公は『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』でアカデミー女優賞受賞のリース・ウィザースプーン(1976年生)が熱演。さすがに『キューティ・ブロンド』的なキャピキャピした演技からは脱却したようで、最近はシリアスな演技が光る。

「難民」は世界的な大きな政治問題となっている。この映画の様に紛争・ 災害によって本来の居住地を離れざるを得なくなった人々で大変な苦難を経てきている。日本は、国際連合の難民高等弁務官事務所などに多額の資金を提供しているが、難民の国内への受け入れには慎重な姿勢をとっている。一方、最近、成長戦略・景気対策で「移民」も良く議論になる。

長期の経済成長は、実は「人口」×「資金」×「知識(技術・イノベーション)」の掛け算に因数分解できる。「新生児」はもちろん関連する消費は増えて景気に良い影響がある。しかし、本当に経済成長に貢献するのは「労働力人口」になってきたときである。そのため、国内で出生を増やすのもいいが、経済成長に対し即効性があるのは「移民」の方である。日本においては、移民はデリケートな問題であったが、望まれる移民として「高度人材」の受け入れを進める方針になってきた。日本は少子高齢化が進んでおりそもそもの人口も減少している。また、建築分野等の人材の不足も目立つようになってきた。

一方、日本経済は徐々に弱体化が進んでおり、移民、とくに高度人材にとってみると、魅力的な国ではなくなってきている。つまり確保が難しくなってきているのである。ちなみに、現在も強い成長を続けているシンガポールは、最初から出生の問題は諦め、移民の受け入れに重点を置いた。

この映画に出演している若い難民をよく観察していたが、まず彼らの話す英語はうまい。ちなみに筆者が銀行に入って、3年目でシカゴに赴任したときの英語よりも、格段にうまい。これはすごい、彼らは難民キャンプで頑張って勉強したのであろう。さらに、彼らは本当に辛い日々の中で努力を続け、しかも礼儀正しい。最近、日本に増加中のようであるが、努力しないで、礼節もない甘えた若者やモンスターペアレントは、日本の弱体化の一因ともいわれている。また、普通のおじさんやおばさんにも、明らかに礼節を欠いている失礼な人が増えている。彼らにこそこの映画を見せるべきである。日本のほとんどの方々は、生命や経済の面でも、ある意味、恵まれているのである。感謝の上で努力すべきである。英語力などの学力だけではなく、そのようなやる気も含めた礼節も大事であり、そのような人材の質の向上も、社会の安定だけでなく、経済成長にとっても良い影響があると信じる。

4月17日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー!

(c)2014 Black Label Media, LLC. All Rights Reserved.

www.goodlie.jp

【著者の新刊案内】

『通貨経済学入門(第2版)』(日本経済新聞出版社)税込定価¥2,808-

<書籍の帯の文章> 世界の経済を牽引(リード)する主役は通貨(マネー)! 基軸通貨、変動相場制など基本項目から今日の最近の動きまでを平易に解説している好評のテキストを、ビットコイン・仮想通貨、人民元の国際化、ロシア・ルーブルの変動相場制への移行、「資源国通貨」の考え方などの新項目を加え、時代の変化に合わせてさらにパワーアップした"決定版"!

【宿輪ゼミのご案内】
博士(経済学)・帝京大学経済学部経済学科教授・慶應義塾大学経済学部非常勤講師・映画評論家の宿輪先生が2006年4月から行っているボランティア公開講義。その始まりは東京大学大学院の学生達がもっと講義を聞きたいとして始めたもの。どなたでも参加でき、分かり易い、経済学博士の講義は好評。「日本経済新聞」や「アエラ」の記事にも。この今年4月で10年目、開催は180回に。会員は8000人を超えています。次回第180回の宿輪ゼミは4月22日(水)開催。Facebook経由の活動が中心となっており、以下からご参加下さい。
https://www.facebook.com/groups/shukuwaseminar/