『グレート・ビューティー/追憶のローマ』― ユーロ経済の試金石のイタリア /宿輪純一のシネマ経済学(55)

イタリアも日本と同じように構造改革が進まず、先日も欧州中央銀行(ECB)から構造改革の催促を受けていた。先進国は、経済の構造も政治の構造もどこもあまり変わらない。低成長の時代に突入しているのである。

今回の舞台は、現代のイタリア・ローマ。第86回アカデミー賞や第71回ゴールデン・グローブ賞では外国語映画賞を受賞。

65歳の作家ジェップ(主人公)は、老いて女性との関係もさすがに若い時のような体の関係では無くなってきた。セレブとの優雅だがむなしい生活にも疲れてきた。そんな中、主人公に初恋の女性の死亡の知らせを、その夫がジェップに届ける。更にむなしさ・喪失感が募り、暗いローマの街を"美しいもの"を求めるようにさまよいはじめ、人生について考える。

不思議な映像が続く。クラブで様々にセクシーに踊りまくる男女、ローマ水道の石の台座に全速力で頭からぶつかっていき倒れる女性・・・。冒頭も、日本語を話すイタリア人ツアーガイドと、日本人観光客を演じるツアー客が登場し、そのうちの一人がなぜかいきなり卒倒。意味が良くわからず、日本人である筆者は苦笑するしかない。

全体の雰囲気とすると、年配の映画ファンはフェリーニの『甘い生活』(1960)を思い出すのではないか。確かにイタリアは、デザインでも、美術でも、ファッションでも、美しいものが多い。(ちなみに、映画音楽ではエンニオ・モリコーネをはじめイタリアの方が本当に多い)

この映画は、美しい都市"ローマ"への愛情があふれている。今までにないカットでローマを紹介している。最後の「サンタンジェロ城」も心を打つように美しい。

イタリアは、ヨーロッパでは、ドイツ、フランスに続く第3位の経済圏を持ち、ヨーロッパ全体への影響もそれなりに大きい。実際、商品もセンスの良い美しいものが多く経済を支えている。

この数年のヨーロッパは、経済的には辛いことが多い。ギリシャショックを発端とする欧州債務危機が発生。特に財政的に弱い南欧諸国であるポルトガル・アイルランド・イタリア・ギリシャ・スペインはPIIGSとまでいわれた。そんな中、最大国ドイツは独り勝ちともいえる大きい貿易黒字、高い経済成長率、そして少ない財政赤字で、ヨーロッパ経済を引っ張り、安定してきたかに見えた。

しかし最近、ロシアによるウクライナ危機が発生し、ロシアへの経済制裁も導入され、ヨーロッパ経済はさらに沈むことになった。特に、このイタリアは4~6月マイナス成長でリセッションとなっている。

しかし、いい兆しもある。イタリアの政治はまとまらないという印象が強いが、最近は違う。39歳と史上最年少で首相に就任した(かなりのイケメンでもある)マッテオ・レンツィの政権安定度は非常に高い。株式などの金融市場も評価している。

イタリアも日本と同じように構造改革が進まず、先日も欧州中央銀行(ECB)から構造改革の催促を受けていた。先進国は、経済の構造も政治の構造もどこもあまり変わらない。低成長の時代に突入しているのである。

※本作にも登場するローマやイタリアの経済的価値やユーロの誕生については、特に『ローマの休日』(1953年)をベースとした、弊書『ローマの休日とユーロの謎―シネマ経済学入門』(東洋経済新報社刊)を参照して戴けましたら幸いです。

「宿輪ゼミ」

経済学博士・エコノミスト・慶應義塾大学経済学部非常勤講師・映画評論家の宿輪先生が2006年4月から行っているボランティア公開講義。その始まりは東京大学大学院の学生さんがもっと講義を聞きたいとして始めたもの。どなたでも参加でき、分かり易い講義は好評。「日本経済新聞」や「アエラ」の記事にも。この2014年4月2日の第155回のゼミで"9年目"に突入しました。

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