『闇金ウシジマくん Part3』―欲望と人生と経済(107)

ギャンブルや性欲などをベースとしたおカネの欲望に翻弄されて、転落していく人生を描く。

(2016年)

コミックを原作とした社会はドラマ「闇金ウシジマくん」の映画3作目。実は筆者は27年間銀行員をやってきたせいもあり、金融映画は好きである。本作も、ここはちょっと違うな、と思うところもいくつかあったが、面白かった。

本映画のシリーズは大体2つのテーマを持つ。今回は「ヤバいネットビジネス(ねずみ講)に入るフリーター」と「ヤバい状況になっても会社にしがみ付くサラリーマン」である。いつもであるが、ギャンブルや性欲などをベースとしたおカネの欲望に翻弄されて、転落していく人生を描く。

まず、ネットビジネスの方は、1秒で1億円を稼ぐとの派手な宣伝により、極貧フリーターが一攫千金を狙う(そんなに甘い話は無い)。当然、詐欺師の様なことも行う・・・。サラリーマンの方はキャバクラ嬢に入れ上げ、会社の金に手を付け、キャバ嬢に騙され、油を掛けられ焼かれる(!)が、会社にはしがみ付く・・・。

ウシジマくんが経営する闇金「カウカウファイナンス」では「10日で5割(トゴ)」の金利で貸し出す。映画にも出てくるが、まさにおカネに困った人・どうしても今、必要な人の最後の拠り所である。銀行員のころ考えたのであるが、「闇金」というか(そのころは「街金」といっていた)、そのことはまだ「10日で1割(トイチ)」といわれていた。しかし、考えてみると、この金利を返済できる収益性の高いまともな商売はあり得ない。ということは、街金に手を出した時に、時間の問題になってくるわけである。

この「闇金ウシジマくん」に出てくる人には特徴がある。ギャンブルか、風俗(含むホストクラブ)などに入れ込んでいて、それで多額のおカネが必要になるのである。一種の病気かもしれないが、目の前の欲望に負ける。そして、人生をダメにしていくのである。つまり、短期の視点を重視し、長期の視点を失うのである。これは、現在のアベノミクスにも通じる。現在、短期政策である異常なマイナス金利という異次元の金融緩和まで行うが、長期政策の構造改革にはあまり注力しているようには見えない。人生でも、経済でも長期の視点を持つことこそが賢さであり、大事なのである。

筆者がこの「ウシジマくん」が好きなのは、反社会的な世界を描いているが実は勧善懲悪であり、またウシジマくん自体も実はいい奴なのである(と思っている)。筆者は、あまり俳優さんのことは褒めないが、このウシジマくんを演じる山田孝之はなりきっていてすごい。

ちなみにどうでもいい話であるが、銀行員のとき、最後の一年間、筆者の前に座っていたのがウシジマくん(本名)であった。彼は真面目な銀行員である。

暴力シーンもありPG12(12歳未満(小学生以下)の鑑賞には、成人保護者の助言や指導が適当とされる指定)である。

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