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図書館に「上から目線」の19世紀的啓蒙思想は必要か

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カフェやコミュニティスペースの併設、ビジネス情報支援など、本の貸出にとどまらない「つながる図書館」が登場することで、公共図書館のあり方に変化が訪れている。では、本来、図書館が担ってきた本の貸出機能はどうなっているのだろうか。ベストセラー本の貸出で「無料貸本屋」と言われることもある一方、学術書など高価な本は図書館がなければ気軽に読むことができないケースも多い。元来、図書館には、ある種の「上から目線」的な啓蒙主義があり、それが「知のインフラ」を担ってきた。ベストセラー本の貸し出しなど、利用者ニーズが変化する中で、どう将来像を描けばいいのだろうか。

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■人気本の寄贈を呼びかける図書館も

前回の記事では、図書館が住民のコミュニケーションや情報アクセスの拠点として、「つながる図書館」を形成していることを説明したが、本来の貸出機能はどうなっているのだろうか。図書館がベストセラー本を何冊も貸し出すことで、書店で本を購入する人が減るのではないかという「無料貸本屋」批判は、10年以上前から出ている。この問題について、公共図書館を取材しているハフィントンポストの猪谷千香氏は、

同じ図書を2冊以上所蔵する「複本」はしない方向性になっています。ただ、「複本」できない図書館が、本のタイトルを名指しでサイトに出して寄贈を呼びかけることがあります。何百人待ちとかになって苦情を受けても、「複本」ができないという困った状況にあるからです。そこで市民に呼びかけているわけですが、作家からは批判の声が上がっています。

結局、住民ニーズに従えば従うほど、「無料貸本屋」化していくが、作家や出版社、書店からの批判もあって、板挟み状態になっている。

利用者が図書館の上手な使い方をあまり知らないし、なかなか知る機会もありません。図書館が、急ぎで本を読みたい場合は書店にある本を買ってくださいと案内することも大事です。東京都千代田区の千代田図書館では本の街である神保町が近いので、聞けばすぐに新刊書店と古書店のデータベースで在庫を調べてくれます。利用者がもっとコンテンツに対する敬意をもてるようにすることも大事でしょう。

住民の図書館の使い方について、東京大学の生貝直人・特任講師は、別の角度から指摘する。

図書館の司書が提供する重要なサービスとして、欲しい資料を探して、教えてくれるレファレンスの機能があります。猪谷さんが訪問した各地の図書館では、こうしたレファレンスサービスはどの位、どのように使われていたのでしょうか。

これに対し、猪谷氏は、

図書館によってまちまちです。きちんとサービスの使い方を知らせないと、利用者には分かりませんので使われないでしょう。ただ、市町村立の図書館になると一般書の貸出が中心で、より高度なレファレンスは都道府県立図書館で引き受けるような機能分担もあります。

ベストセラー本の貸出にしても、レファレンスサービスの利用にしても、どれだけ利用者に対して、自分たちの機能を説明できるのかが重要になってくる。単純な利用者ニーズだけに任せてしまうと、ただの「無料貸本屋」になってしまうということだ。その批判をかわすために出てきたのがコミュニティスペース化した「つながる図書館」とも言える。

■教養主義を強調すると敷居が高くなる

図書館は単なる住民サービスの一環として、本を貸し出すだけではない。駒沢大学の山口浩教授は、図書館が本来持っているものとして、「啓蒙思想」を挙げる。

今の公共図書館像の原型は19世紀に生まれました。無料で貸す仕組みも、当時はまだ大衆にとって本が気軽に買えなかった状況から出来たものです。民主主義の前提として大衆が知に触れる機会を持つべきという啓蒙思想がその根底にある考え方でしょう。本が手軽な娯楽となった現代において同じ仕組みを維持するならそれなりの根拠が必要で、多くの人が読みたい本ばかりをそろえていれば、「無料貸本屋」との批判が出るのは当然と思います。

生貝氏も、「教養主義」をキーワードに挙げ、

図書館の中核的な価値というのは、やはりそこに「書籍が存在している」ことだと思います。しかし現在では、従来の教養主義的な図書館のあり方が、運営費の支出者である住民の理解を得にくくなってきている。猪谷さんが紹介された各地の図書館の事例というのは、「つながり」の機能であれ、カフェの併設であれ、あくまで中核的な価値を残し続けるために、新しい形で住民の理解・共感を得ていこうとする取組と見るべき部分があると考えています。

つまり、「啓蒙思想」や「教養主義」を守るために、住民ニーズの高い「つながる図書館」を作ればいいのであって、まず「つながる図書館」ありき、ではないということだ。ヤフーニュース編集部の伊藤儀雄氏は、

「教養主義」を強調しすぎると、敷居が高くなってなかなか市民に利用されなくなるということもあると思います。自治体の財政が厳しくなる中で公共図書館を存続させるために、「つながる図書館」で、コミュニティを打ち出しているのでしょう。

しかし、法政大学の藤代裕之准教授は、

啓蒙主義であれば図書館は積極的に学びを支援する必要があるでしょう。ですが現実は、暇つぶしや休憩で来る人たちの集まる場になっている側面もあるのではないでしょうか。

誰も「啓蒙」されないので、あれば、どんなに啓蒙主義を掲げていても、それは関係者の自己満足に過ぎなくなってしまう。では、「つながる図書館」を目指して、サービスが複雑化する中で、結局はどこにゴールを設定すればいいのだろうか。

■統一的な評価指標を作ることはできるか

これまでの図書館においては、貸出冊数と来館者数が大きな指標となってきた。最近のニュースでは、岡山県立図書館の入館者数が都道府県立図書館の中で最速で1000万人を超えたことが取り上げられていた(「県立図書館の入館1千万人突破」)。藤代氏は、

図書館は税金を使っているので議会や首長から活動を支持してもらわないといけません。分かりやすい指標が来館者数や貸出冊数しかない。だから、ベストセラーを用意したり、カフェを作ったりして、表向きの来館者数を増やす方向に向かっているのではないでしょうか。知のインフラとなり得ているのか疑問を感じます。

生貝氏は、サービスが多様化する中で、

図書館全体に通用する統一的な評価指標を作るのは難しいと思います。中核的機能としての知のインフラの部分は共通しつつも、図書館のどのような機能が受益・負担者である住民に求められているかは、立地や近接文化施設の状況によっても大きく異なってきます。

山口氏も、

大学教育と同じようなものです。定量化しづらいものを定量化して評価しようとする際につきまとう歪みや摩擦には危惧を覚えた方がいいでしょう。

しかし、伊藤氏が反論する。

だからといって何も指標がないのであれば、何を達成したいのか見えない。貸出冊数や来館者数のようなわかりやすい数字である必要はありませんが、何らかの評価指標は必要です。

では、貸出冊数という単純な物差しではかれなくなっている現状で、どうすべきなのか。猪谷氏は、

国会図書館、県立図書館、市町村立図書館とそれぞれ機能が異なっていて、県立図書館は専門書や学術書、市町村立の図書館は一般書と基本的には役割分担できます。さらに図書館がNPOや書店と連携して、利用者を案内してあげることで、本棚があるところがつながって、機能を拡張できればいいのではないでしょうか。

つまり、単に数量を追うだけでなく、うまく役割分担が機能しているかを見ていくことが重要になるということだ。ただ、どこにどんな本があるのかという機能面での広報をきちんとしないと、利用者からは、なぜ図書館でベストセラーが読めないのかという批判が出てくるかもしれない。猪谷氏は、

バックヤードツアーで裏側を見ると図書館が何をしたいのかがよく分かるのですが、うまく伝えきれてない面もあります。図書館はどんどん情報を発信してほしいし、利用者側も、もっと多くの人たちに自分たちの町の図書館がどうあるべきかを考えてほしいと思います。

住民サービスと密接に絡んだ「つながる図書館」になることを契機に、今後はいかに広報力を高めるのかが重要になってくる。(編集:新志有裕)

  • 「誰もが情報発信者時代」の課題解決策や制度設計を提案する情報ネットワーク法学会の連続討議「ソーシャルメディア社会における情報流通と制度設計」の第11回討議(14年4月開催)を中心に、記事を構成しています。

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