政治のチェック強化、官民「回転ドア」で実現?

ネットを通じて政治家に意見を届けることが容易になり、署名・請願サイトなども立ち上がってきたが、政治の側からの情報発信をどうとらえればいいのだろうか。

ネットを通じて政治家に意見を届けることが容易になり、署名・請願サイトなども立ち上がってきたが、政治の側からの情報発信をどうとらえればいいのだろうか。特に、政治家が、有権者受けの良さそうなテーマを見極めて、特定の方向へ世論を誘導しようとすることは、「政策マーケティング」とも呼ばれ、インターネット選挙が解禁になった昨年夏の参院選でも話題になった(原発争点化を避けた自民党のソーシャル戦略)。巧妙さを増していく政治家の情報発信を見破るためには、官民「回転ドア」による人材流動化やジャーナリズムのイノベーションなど様々なアイデアを考えてみる必要がありそうだ。

■ 選挙はコミュニケーションのF1

前回の記事では、「Chage.org」のような署名サイトを活用して、市民によるキャンペーン活動が容易になることと、その弊害として、ポピュリズムや行政コストの増大を招きかねない懸念があることを挙げた。しかし、有権者によるキャンペーンではなく、政治家のキャンペーンにこそ問題があることを、キャンぺナーの工藤郁子氏は指摘する。

有権者のキャンペーンの話が中心になりがちですが、歴史的には既得権側、政府や政党によるキャンペーンの方が洗練されています。本当はそこを一番警戒しないといけません。

特に政治の側からのキャンペーンが激しくなるのは選挙だ。米国ではオバマ大領領の選挙戦に代表されるように、民意を詳細に分析して、巧みに働きかけることにより、勝利が得られるようになってきているからだ。

選挙はコミュニケーションのF1と呼ばれています。2012年の大統領選でオバマ陣営は、従来のPRやマーケティングに力を入れるのに加え、データ・アナリストを5倍に強化しました。そして、SNSやボランティアの記録といった支持者のパーソナル・データ、政治献金の額や頻度、有権者登録情報、世論調査結果などの各種データを統合して、有権者の動向を予測することで最善の方法を選択していました。

もともとは市民から発せられたメッセージが政治の側に利用されることもある。例えば、「One Voice Campaign」というネット選挙解禁のための運動は、安倍首相が出した動画メッセージの中でも取り上げられた(「ネット選挙運動解禁で、安倍首相が動画メッセージ、One Voice Campaignを評価」)。

政治の世界の内部調整のための手段としてキャンペーンが機能することもあります。ネット選挙を求める運動の場合、政府・与党内、与野党間の協議において有効なカードになったことを示唆しています。

目指していたものが実現に近づくことは全く悪いことではないが、民間の動きが、「国民がこういう方向を求めているから」という正当化の理由として、政治の側に利用される可能性があることも示唆している。

■ 回転ドアの実現、ジャーナリズムの革新がカギ

では、こういった政治の側が仕掛けてくるキャンペーンを見抜くにはどうすればいいのだろうか。工藤氏は、米国の状況を解説する。

キャンペーンの世界でも「リボルビングドア」(回転ドア)が注目されています。米国では政権交代の度に、政策の専門家が政府から民間に、また、民間から政府へと転身しています。これが情報の非対称性を緩和し、イノベーションを生む要因になっています。例えば、政府とNPOの担当者同士がかつて同じ職場で働いたことがあると、非公式なコミュニケ―ションが活発になります。

確かに、政府の側に力をもった人材がいたとしても、定期的に入れ替わるのであれば、力関係の偏りが解消されるかもしれない。ただし、日本では人材の流動性が低く、回転ドアといえるような状況ではない。立命館大学の西田亮介特別招聘准教授は、

日本の場合、リボルビングドアが乏しく、専門知と人材、手法が独占されています、政党と大手広告代理店、利益団体のつながりも固定化しており、相対的に市民や新しい業界のロビイングを排除しがちです。

もちろん、人材流動化のための戦略を考えることは重要だが、現状を見る限り、米国のような相互監視機能に高い期待を寄せることは難しそうだ。そこで今度は、権力監視の代表的存在として、メディアの役割を考えてみたい。しかし、法政大学の藤代裕之准教授は、

権力と市民のキャンペーンの間にジャーナリズムが存在しているはずですが、リテラシーが低いのでチェックアンドバランスは機能していません。高度になる権力側のプロモーションもチェックできないし、市民側のプロモーションは疑うことが少ない。マスメディアは話題を広げる単なる加速装置となっています。

しかし、西田氏は、これまで、チェックアンドバランスを標榜してきたジャーナリズムの役割を見つめ直すことが「早道」であることを主張する。

伝統的に、政治と市場、メディアは独立して競合して、チェックアンドバランスが働くことが民主主義の前提でした。しかし、現実には相互依存の度合いも高めています。広報の分野では、「戦略PR」という言葉も注目されていますが、戦略PRの世界では、堀を埋めるように、人々が意識せずに意思決定を行う「空気」の形成を重視します。こうした進化に対して、日本のジャーナリズムは遅れを取っています。そこで、「第4の権力」としてのジャーナリズムとそのイノベーションで、相互依存は排除できないかもしれないが、チェックアンドバランスを取り戻す必要があると考えます。

ジャーナリズムに対しては期待と懸念が存在しているが、今後、どうチェック機能を強化すべきかを考えなければいけない段階にきている。

■ テクノロジーの力で政治を監視できるか

現状ではチェック機能が乏しいのであれば、一方的な政策マーケティングが今後も一方的に潜行することになりかねない。今までにない手法を考えることも重要になってくる。そこで、西田氏は東日本大震災でも活躍した、各分野の専門家がスキルを持ち寄る「プロボノ」と呼ばれる手法を提案する。

既存のプロを正規で雇うのはコスト面でも大変です。理想はきちんとした経費を払って始めるべきですが、暫定的にプロボノとして協力をお願いできる可能性はあるのではないでしょうか。例えばプロボノの力で運営している「CODE for JAPAN」では、公共分野のUIアップグレードに貢献しています。資金もクラウドファンディングで集めています。

ただし、政府と協業関係になる面もあり、監視の機能を果たすことが第一の目的にはならないないかもしれない。そこで、西田氏はネット事業者の影響力についても言及する。

事業者しかえられない、精度の高いデータがあります。例えば検索エンジンのデータです。Yahoo! JAPANは検索データを政党には販売しないとあるシンポジウムで言っていましたが、これが事実なら非常にいいことです。独占的な影響力を持つ事業者が政治にだけ便益を提供しないというのは重要です。政治と有権者のあいだで、解消困難な情報の非対称性が形成されてしまいますから。

こういった非営利団体の取り組みと営利企業の間には溝がある可能性もある。そこで、駒沢大学の山口浩教授は民間連携における大学の必要性を説く。

営利企業と非営利団体をどうつなぐかが重要になります。この際、大学は1つの鍵になるのではないでしょうか。一般に非営利セクターの人は、営利に走ったとの批判を受けたくないためか、営利企業と連携することを嫌がる傾向がありますが、大学は社会的位置づけがはっきりしているためか、そうした批判を比較的受けにくいように思います。教員や学生のマンパワーの活用という面も含め、大学が触媒になることで、連携がうまく機能するようになる可能性があります。

新たな仕組みも活用しながら、民間同士の連携が進むことで、ある程度は機能を果たせるようになるかもしれない。さらに、仕組みだけではカバーできない部分を突破するものとして、テクノロジーの進化がある。工藤氏によると、

サンライト・ファウンデーションが提供している「ポリグラフト」というウェブサービスでは、報道記事のURLを入れて見ると、例えば銃規制に反対している政治家の名前の横に、その政治家が全米ライフル協会からいくら献金をもらっているのかが表示されるようになります。これは、公開されたデータを記事に上乗せするものですが、ニュースをより深く客観的に見ることができるようになります。技術的なアプローチでメディアリテラシーを発達させることはできるのはないでしょうか。

政治情報の新たな流通という点では、「エレクトペディア」のようなウィキサイトも日本に存在する。テクノロジーが進化することによって、新たに見えてくるものも出てくるだろう。ただし、政治の側でもテクノロジーを取り入れた選挙マーケティングは活発になっている。結局は、どんな手段であっても、時の政権と対等に向き合えるだけの人材を民間で活躍させることのできる土壌作りが重要になってくる。

(編集:新志有裕)

10. University of North Carolina, Chapel Hill

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