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原発争点化を避けた自民党のソーシャル戦略

2013年11月22日 00時50分 JST | 更新 2014年01月21日 19時12分 JST

7月の参院選では、選挙期間中のインターネットの活用が解禁されたことを契機に、政党や候補者による情報発信が活発になった。その鍵を握るのは、ソーシャルメディアで、何が評判になっているのかを探る「ソーシャルリスニング」だ。自民党は、「原発問題」が話題になっていることを踏まえ、あえて「争点隠し」を図ることで、野党を制した。徹底した世論分析に基づくソーシャル戦略は、選挙戦略の世界にどんな変化をもたらすのだろうか。

■いかに原発問題を争点にしないか

自民党は、全候補者にタブレット端末を配布して、毎日、ニュースの中から演説で使えそうなネタと「模範解答」を自民党本部から送った。演説の仕方まで注意することで、炎上を避けた。自民党がネット選挙についてまとめた報告書でも、その対応を自賛している。(朝日新聞「自民、共産ゆるキャラ評価 ネット選挙、炎上対策は自賛」)法政大学の藤代裕之准教授が自民党の戦略について解説する。

今回のネット選挙については、「失敗だった」、「盛り上がりに欠けていた」との報道もありますが、政党や候補者の目標は当選です。選挙マーケティングという側面からみれば成功したのではないでしょうか。自民党は、テレビや街頭演説に対するツイッターやブログの書き込みを分析するソーシャルリスニングという手法を行い、原発の争点化を避けました。

脱原発か、原発推進か。原発問題を争点にしてしまうと、反発する層が出て、大きなうねりになる可能性がある。そこで、原発再稼働をめぐるネット世論の盛り上がりを踏まえ、安倍首相が出演したNHKの党首討論でも、再稼働か脱原発かという二者択一ではなく、「安全第一でなければならない。厳しい基準を作っている」というメッセージにとどめて、争点になるのを回避した。ただし、原発問題が話題になっていたのは、あくまでネットが中心だ。敬和学園大学の一戸信哉准教授は、こう分析する。

原発については、一般の世論としては盛り上がってないけれども、ネット世論では盛り上がっている状況にあったのですが、政権与党は両者が接続しないように分断する事ができたということです。極端な意見がネット世論で出ているのに対して、対処する方法としてとらえるならば、ネット利用は結構有効だったと言えるかもしれません。消極的な使い方として、ネット選挙の戦略があったのではないでしょうか。

「消極的な使い方」というのがポイントだ。話題になっていることに積極的に働きかけるのではない。この戦略に対して、野党は攻め込むチャンスがあったと考えることもできるが、有効な手を打てなかった。先ほど挙げた自民党の報告書でも、野党の対応として評価したのは、共産党の「ゆるキャラ」を活用した親しみやすさの演出であり、民主党の討論サイトのような、政策面での世論形成の手法は評価が低かった。

■プロパガンダにつながりかねない問題

しかし、「選挙マーケティング」が幅を利かせるようになると、有権者に対する一方的なプロパガンダ(政治宣伝)の強化につながりかねない。藤代氏は指摘する。

情報のコントロールはプロパガンダにつながる問題も含まれています。ソーシャルリスニングして、有権者の反応をみながらテレビでのコメントを変えたり、タブレット端末を通じて全国の候補者に街頭演説の内容をアドバイスして行ったりというやり方が今後どういう問題を生み出していくのか。ネット選挙失敗、成功という話しよりも、ソーシャルメディアを通じた選挙マーケティングがうまくいった時の課題を考えるべきではないでしょうか。

各党からのプロパガンダが激化すると、有権者にとっては、適切な判断材料を手に入れることが難しくなる。政党としては、自分たちに有利な状況に持ち込むことを考えるのは当然ともいえるが、メディアなどの第三者によるチェック機能も必要だろう。ただし、デメリットがあるからと言って、全否定しても意味がない。政治家と有権者の信頼関係を構築することにも使えるはずだ。駒沢大学の山口浩教授は、こう見ている。

もうちょっとネット選挙をつかいこなしてほしいな、という感じはあります。結局、政治家はネットを演説会の場所を告知するためにツイートするといったことにしか使ってないわけです。ソーシャルメディアはアーンドメディア(信用や評判を得るためのメディア)ですから、普段から交流していて人間関係を作っておくのが大事なのに、なぜ、そういう感じにならないのでしょうか。告示や公示の前であれば、ネット選挙運動解禁前でもできたはずなのです。ビジネスの領域では、もっといろいろなことが行われてきていて知見の蓄積もあるので、そういうものを取り入れていったらいいのにと思います。

同じマーケティングの手法を駆使するにしても、一方的な情報発信ではなく、もっと双方向のコミュニケーションが求められているということだろう。

■有権者自身がネット世論を分析できる時代に

では、有権者としては、政党や候補者サイドの情報発信にどう向き合えばいいのか。毎日新聞と共同で、「参院選期間中のソーシャルメディア分析」を行った立命館大学の西田亮介・特別招聘准教授は、

自画自賛ではないですが、今回の企画でよかったのは、自民党に近いかもしれない精度で、ソーシャルリスニングを全国紙で展開することができたということです。有権者と政治の情報の非対称性を埋めるのに一定程度貢献できたのではないでしょうか。政党の担当者たちも毎日新聞が提示したような情報を見ている可能性があって、メディアもですが、僕たち有権者も同種のものを見ながら投票先を考えることができるようにする必要があるように思います。

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(討議の光景、右端は立命館大学の西田亮介・特別招聘准教授)

ソーシャルメディアの解析は、ネット事業者などが今回の選挙でも実施して、その結果を公表している。ツールを活用すれば、自分自身で解析することも可能だ。マスメディアのチェック機能に任せるだけでなく、有権者自身が情報を手に入れる環境が整えば、政党や候補者の情報を見極めることができる。そのためにも、選挙の時だけネットに注目するのではなく、普段からの地道なコミュニケーションが重要になってくるのだろう。(編集・新志有裕)

※「誰もが情報発信者時代」の課題解決策や制度設計を提案する情報ネットワーク法学会の連続討議「ソーシャルメディア社会における情報流通と制度設計」の第4回討議(13年7月開催)を中心に、記事を構成しています。

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