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さらば炎上の日々、ソーシャル「分人」の作り方

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ソーシャルメディアでの発言をきっかけに、過去の発言や友人のツイート、別のサイトに掲載された断片的な情報から本人特定が行われ、炎上してしまうケースが後を絶たない。照合作業の機会を待ち構えているユーザーもいて、「私刑」につながりかねない事態になっている。ソーシャルメディアによる情報発信は、自分の意図しない形で、情報が拡散されてしまうリスクと隣り合わせだ。そんな状況を回避するためのアイデアとして、駒沢大学の山口浩教授は、ソーシャルメディア上の人格を、リアルの人格と切り離す「分人」の法人化を提唱する。

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駒沢大学の山口浩教授

■株式会社の法人制度を参考に

ソーシャルメディアの断片的な情報を組み合わせれば、特定の個人に関する様々な情報が浮かび上がってくる。例えば、自分と別の人が、同じ時間に同じ場所にいることをそれぞれツイートしていれば、2人の間に何か関係があるのではないか推測することができる。また、過去のツイートをさかのぼって、友人を含めた周辺情報も全部洗い出すこともできる。法政大学の藤代裕之准教授は、こういった情報統合について、

「ラーメンなう」が昇進に影響する事もあり得ます。いつも深夜にラーメンを食べているサラリーマンのツイートと健康診断の情報と照らし合わせ、自己コントロールができないと評価が下がったり、将来のリスクが高いとみられ保険に入れなかったりすることもありえます。電子マネーの履歴とスケジューラー、ソーシャルメディアの書き込みを組み合わせれば、どこに住んでいるか、何を買ったか、も丸裸になってしまいます。

そこで、駒沢大学の山口浩教授は、リアルとソーシャルの人格を切り離す「分人」の概念を提案する。もともとは小説家の平野啓一郎氏が提唱したものだ。

「本当の自分がいる」という考え方はおかしく、人間はいくつもの面、つまり「分人」に分かれています。多様な「分人」がいて、すべてが自分です。個人を唯一不可分の存在として考えるのではなく、いくつもの「分人」の集合体としてとらえるのです。

山口氏が考える「分人」は、ソーシャルメディアでの人格をリアルの人格と切り離して考え、リアルの世界に影響を及ぼさないようにするという発想だ。しかし、現状では両者が接続されてしまっている以上、強制的に切り離す制度的な後ろ盾が必要になる。その際に参考になるのが企業や団体で用いられている「法人」制度だ。

ソーシャルメディアでは、被害者になる可能性があるだけでなく、加害者になってしまう可能性もあります。問題発言をリツイートしただけでも責任を問われるかもしれません。失敗のリスクが高くなっているのです。「分人」の制度を導入することによって、被害者、加害者にかかわらず、守られるべき個人を守ることができます。企業には「法人」の制度があり、事業のリスク負担を減らし活発な経済活動を促進するために、有限責任制が導入されています。個人でも、「分人」を導入することによって、責任を限定的なものにしてはどうかと考えます。

確かに株式会社であれば、株主は出資した金額以上の責任を負わなくてもいいようになっている。有限責任制を導入したことによって、過度なリスクを気にしなくても良くなる。その発想は、果たしてソーシャルメディアにおける個人の人格にも応用できるのだろうか。

■法人化するだけでなく、炎上保険も導入

概念としては理解できたとしても、現実世界に応用可能な具体策がないとある種の「妄想」で終わってしまう。山口氏は「分人」制度の具体的なアイデアについて解説する。

アカウント名で契約締結、税務申告も可能にします。そして、毎年更新など存続期間を限定したほうがいい。場合によっては共同運営や譲渡も許容します。アカウントの運用にあたっては、現実的なコスト負担の範囲内で、法令順守やリスク管理について、専門家による何らかの監査や格付けもあった方がいいでしょう。さらに、本人の許諾がないままに実名が暴露された場合には、罰則と損害賠償請求も可能にすべきだと思います。

確かに、企業の法人制度に近い本格的な制度のように見える。実名暴露を禁じることによって、いわゆる「私刑」も回避することができる。しかもこれに付随するオプションも存在するという。

有限責任制は法人側のリスクを減らしますが、そのままでは濫用を招きます。ソーシャルメディアの利用に伴う自身の損害や賠償責任をカバーする保険契約を義務づけ、法人側だけでなく、被害者救済をより手軽にできるようにすべきです。現在は、保険の仕組みがないために多くの被害者が泣き寝入りを強いられています。こうした意図せざる損害を受けるリスクが不安を増長し、利用を阻害しています。「事故歴」による保険料の増減も入れれば、利用者自身の行動にフィードバックし、リスク管理が可能になります。

いわゆる「炎上」対策の保険を設けるということだろう。損害保険会社やネットサービス事業者がその役割を担うことになりそうだ。さらにポイントなのが、いざ「分人」になった時に、身元の確認が可能(トレーサブル)であることだ。そこが匿名アカウントとの最大の違いだ。

本名を明かさずに利用できる代わりに、身元確認が必要な時にネットサービス事業者や行背がたどりつくことの仕組みになっていればいいのではないでしょうか。ある意味、現在の通名制度にも似ています。

これらの仕組みを背景に、炎上を防ぐ「分人」が機能するというシナリオが描けるということらしい。

■言論の活性化なのか、抑制なのか

制度化することによって、実効性を担保しようとしていることは分かった。確かにアイデアとしては面白い。しかし、この「分人」は本当に意義があるのかという疑問も存在する。立命館大学の西田亮介特別招聘准教授は、

ネット上の発言を促進しているようで抑制しているのではないでしょうか。特に報道機関などのジャーナリズムに制限を加えることにもなりかねないと思います。ソーシャルメディア保険を導入してリスクを減らすという提案は理解できますが、「分人」の制度化は、被害者とその被害に比べて、加害者が過剰に保護されかねないのではないでしょうか。

「分人」の導入で、発言者が制度的に守られることによって、様々な情報源にアクセスしようとする報道機関などは動きづらくなる。さらに、発言者が「加害者」となることによって無責任な言論があふれかえることにもなりかねない。これに対して山口氏が反論する。

すべてを自由にしたから発言が増えるわけではありません。それよりもむしろ、守られるべき人が守られるようにしたい。今のソーシャルメディアでは、みんなが自由に発言しているように見えて、黙っている人がかなりいるのではないかと思います。

しかし、「分人」の法人化を導入することによって発言が活発化するのか、それとも抑制されるのか、見通しが立てにくい。しかし、山口氏は

誰かが負担しないと被害者救済ができないときに、加害者にだけ負わせてもいいのでしょうか。公害問題に似ています。被害の規模が大きくなってきているときに、起きてしまった被害に対して、加害者が負担すべきだというだけでは済まなくなってきます。被害の救済が行われなくなってしまうのです。セットとして、加害者自身を守る仕組みも必要になります。会社制度はかつて無限責任が当たり前でした。それがいかにして現在のように、有限責任が主流になっていったのか、というのと同じ話です。守っておかないと活動ができないのです。

果たして、この「分人」制度が導入されることで、どのような言論空間が形成されるのだろうか。ソーシャルメディアでの炎上が無視できないくらい頻発しているだけに、このアイデアは思考実験として価値のあるものと言えそうだ。(編集:新志有裕)

※「誰もが情報発信者時代」の課題解決策や制度設計を提案する情報ネットワーク法学会の連続討議「ソーシャルメディア社会における情報流通と制度設計」の第7回討議(13年12月開催)を中心に、記事を構成しています。

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