「絶望」から立ち上がる女性たち-死者540万人以上。日本では報道されない、忘れられた世界最大の紛争

人は、何度だって立ち上がれる。何度だって、挑戦できる。そんな当たり前の事を、コンゴ、そしてウガンダで生きる彼女たちが私たちに教えてくれている、そんな気がした。

死者540万人以上―。

アフリカ大陸中央に位置するコンゴ民主共和国(以下コンゴ)の紛争は、周辺数か国を巻き込みながら、15年以上に渡り、第二次大戦後に起きた紛争としては世界最多である540万人以上の犠牲者を産み出している。

シリアやウクライナ、パレスチナなどの紛争が各種メディアによる報道を占める中、コンゴ民主共和国の紛争はこれほどの規模であるにもかかわらずメディアが取り上げることは極まれであり、特に日本においては、この紛争の存在すら十分に知られていないのが現状である。

この「無関心」が、同国の人道危機を更に深め、紛争下に暮らす人々を更なる不条理な苦痛へと追いやっている(関連記事:死者540万人以上―日本では報道されない、忘れられた世界最大の紛争(コンゴ民主共和国))。

コンゴ紛争を戦った子ども兵たち(写真提供:認定NPO法人テラ・ルネッサンス)

使い捨てられた子ども兵たち

コンゴ紛争では、子ども達が兵士として徴兵され、戦争の「道具」として危険な戦闘に駆り出されてきた。これまでで少なくとも3万人以上の子どもが兵士として戦いに加担させられ、コンゴ東部地域のある戦闘では部隊の60%~75%が子ども兵だったとも報告されている(関連記事:初めての「任務」は母親の腕を切り落とす事-子ども兵問題の実態(前編)"12歳で兵士になった女性"が語る壮絶な証言-子ども兵問題の実態(後編))。

(写真提供:認定NPO法人テラ・ルネッサンス)

子ども兵の役割は、「敵対勢力との戦闘・村の襲撃」「地雷原を歩かされ、人間地雷探知機(地雷除去装置)として使われる」「新たな子ども兵の誘拐」「武器や食料のなどの荷物運び」「少女兵の場合、性的虐待や強制結婚をさせられる(少年兵も性的虐待を受けることがある)」など、様々だ。

また、麻薬やアルコールによる洗脳を受け、肉体的にも精神的にも大きな傷を負っている。軍隊から帰還した後も、教育の機会を奪われ、戦うことしか教えられなかった子ども達が一般社会で生活することは困難を極める。それどころか、家族や親戚、地元の人々からも見放され、厄介者扱いされることも多い。

傷つけられた女性たち

子ども兵と同様、この紛争によって大きな被害を受けているのが、女性だ。

コンゴ紛争では、深刻な数の「女性に対する性的暴力の被害」が報告されている。国連人口基金によると、「1998年以降、推定20万人の女性と少女が性的暴力の被害を受けた。」とも言われている。

コンゴ東部では、反政府勢力だけでなく政府軍の兵士による女性への性的暴力も横行しており、その手法は、家族やコミュニュティーの前で行う集団強姦や性器を刃物で傷つけるなど、残虐なものが数多く報告されている。

また、対象となるのは成人女性だけでなく、10歳にも満たない少女までもがその被害に直面している。

性的暴力を受けた女性たちは、肉体的に傷つけられるだけでなく、精神的にも大きな傷を負う。夫や家族から「汚れている」「エイズに感染している」と見捨てられ、生まれ故郷からも阻害されてしまうケースが数多く存在する。

「絶望」から立ち上がる一人の女性

筆舌に尽くし難いほどの不条理な苦しみを経験したコンゴの女性たち。しかしながら、認定NPO法人テラ・ルネッサンスが実施している洋裁技術訓練により、自信を取り戻した女性がいる。

(写真提供:認定NPO法人テラ・ルネッサンス)

ステラさん(仮名)という女性は、元々小さな農村で生まれ育った。長年に渡る紛争の影響もあり、経済的には貧しい生活を送りながらも、両親と共に幸せな日々を過ごしていた。

ところが、13歳の時に男性兵士から性的な暴力を受け、そして両親も紛争によって亡くなってしまった。性的暴力を受けた彼女は、近隣住民からの差別や偏見の対象となる事もあり、それからの彼女は生きる術もなく、一人過ごす辛い日々が続いた。

テラ・ルネッサンス理事長の小川真吾氏が初めてステラさんに出会った時、性的暴力を受けたこと、また紛争で両親を亡くした事から彼女は心に大きな傷を負っており、「私は誰からも必要とされていない人間なんだ」と話した。その後、ステラさんの力になりたいと考えた小川氏は、彼女と一緒に洋裁の職業訓練を始めた。

当初はミシンを上手く使う事が出来ず、苦労する毎日。しかし、少しずつ技術が上達し、ステラさんは自分の手で洋服を作ることができるようになった。そして初めて、自分で作った洋服を身に付けたお客さんから「ありがとう」と言われた時の感想を、彼女はこのように話した。

「生きていて良かった。私は、誰かに必要とされている人間だと思えるようになりました。」

(写真提供:認定NPO法人テラ・ルネッサンス)

私自身、今年1月にアフリカのウガンダを訪れ、テラ・ルネッサンスが運営する元子ども兵の社会復帰施設を訪問した。

知れば知るほど、話を聞けば聞くほど、その不条理さに「絶望」すら覚える子ども兵問題の実態。12歳で誘拐された元少女兵アイ―シャさんから直接話を聞いた時、壮絶な経験を話す彼女に対して、私は何と声をかければいいのか分からなかった。何も出来ない自分が、本当に悔しかった。

ただ私は、社会復帰施設で授業を受ける「元子ども兵」の生徒たちの顔を、今でも鮮明に覚えている。自分には想像も出来ないほど、壮絶な子ども時代を経験した彼女たち。にも関わらず、その顔には笑顔が溢れ、そして未来への希望を語っていた。

人は、何度だって立ち上がれる。何度だって、挑戦できる。そんな当たり前の事を、コンゴ、そしてウガンダで生きる彼女たちが私たちに教えてくれている、そんな気がした。

認定NPO法人テラ・ルネッサンスの詳しい活動は、公式ホームページをご覧ください。

テラ・ルネッサンス理事長小川真吾氏とコンゴの女性たち(写真提供:認定NPO法人テラ・ルネッサンス)

記事執筆者:原貫太

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