「フェミサイド」を国際法に、フランス大臣が提言。--奴隷にされる女性たち

フランスのローランス・ロシニョル家族・児童・女性権利大臣は、イスラム国支配下においてヤジディ教徒の女性たちが置かれている深刻な状況をがフェミサイド(Femicide)に相当するという懸念を示した。

今月17日(木)、アメリカ合衆国のジョン・ケリー国務長官は、「イスラム国(以下IS)がイラクやシリアで行っているキリスト教徒や少数派ヤジディ教徒、イスラム教シーア派の殺害は、ジェノサイド(大量虐殺)に相当する」と発言した(関連記事:イスラム国は「ジェノサイド(大量虐殺)」に関与、アメリカ政府が発言。注目すべき点は何か?)。今月14日には、アメリカ議会下院において賛成393-反対0で、ISによる殺害行為を「ジェノサイド」として非難する決議が採択されていた。

その一方で今月16日(水)、フランスのローランス・ロシニョル(Laurence Rossignol)家族・児童・女性権利大臣は、ニューヨークで開催された第60回国連女性の地位委員会において、イスラム国支配下においてヤジディ教徒の女性たちが置かれている深刻な状況を指摘。「彼女たちは、女性だから、そしてヤジディ教だからという理由だけで人身売買や殺人の被害に直面している。」と発言し、この状況がフェミサイド(Femicide)に相当するという懸念を示した。

同時に、アフリカ西部のナイジェリアにおいて、イスラム過激派組織ボコ・ハラムによって行われている少女や女性の誘拐も、このフェミサイドに相当すると指摘している。同組織は2014年4月、ナイジェリア北東部において女子生徒200人以上を誘拐し、世界に衝撃を与えた。

今月15日には、シリアの人権状況を調査している国連の国際調査委員会・ピネイロ委員長が、スイス・ジュネーブで開かれた人権理事会で調査状況を報告。「3000人以上のヤジディ教徒の女性や少女が、奴隷として今も囚われている。」と述べた上で、ISによる行為を厳しく非難していた。同時に、同組織によって行われている人権侵害は、国際法上の人道に対する罪に相当するものとして、人権侵害を行った全ての勢力に対し、国際社会は早急に刑事責任を追及すべきだと訴えていた。

フェミサイド(Femicide)とは?

女性殺害のうち、性別的な要因が大きく関係するものを指す。1970年代にフェミニスト運動*が盛んになった際、女性という性別的な理由をもととして行われる、女性に対する組織的・計画的な暴力を意味する言葉として使われるようになった。

*フェミニスト運動...男女間の同等の権利と性差別の無い社会を目標とし,女性の社会的・政治的・経済的地位の向上と性差別の払拭を主張する動き。

国際法上確立されていない「フェミサイド」

1948年に国連で採択された「集団殺害罪の防止および処罰に関する条約」第2条によれば、ジェノサイドは"国民的、民族的、人種的、または宗教的な集団の全部または一部を、それ自体として破壊する意図"をもって行われる行為5つを意味するが、ある特定の性別に対して行われる行為(この場合はフェミサイド)に関しては言及されていない。昨年3月に発表された国連報告書では、イラク国内において行われている少数派ヤジディ教徒へのイスラム国の行為は、「ジェノサイドを構成し得るもの」と言及されていた。

このような背景の下、ロシニョル仏大臣は、「フェミサイド」という用語が、国際裁判所において起訴・告発する為の原理・原則となり、そして最終的には、オランダ・ハーグに本部を置く国際刑事裁判所(International Criminal Court)においても「フェミサイド」が使用される事を望む旨をAFP通信に対して語った。同裁判所は、ジェノサイドや人道に対する罪といった国際犯罪を審理するため、2003年に設置された。

ISによる性奴隷の現状

ISによる性奴隷の現状は脱走に成功した元性奴隷の女性から明らかになっている。

それによると、ISは奴隷市場を運営しており、そこでは女性が数百ドルから数千ドルで取り引きされているという。2014年から1万人近くが奴隷として拉致されており、その多くが女性や子どもだ。

ISのヤジディ派に対する虐殺と拉致は戦略的に行われている。その目的は性奴隷を獲得して、幹部、前線にいる若い戦闘員に女性を与えて士気を高めることにある。イスラム世界では、若い男性が女性と接する機会はほとんどなく、ISに入れば女性が手に入るという売り文句で新兵を募集している。また、子どもは過激思想に染まりやすく、戦闘員不足を補うために育てられている。

奴隷として連れてこられると、ISが欧米人の首を切断する場面のビデオを見せられ、「ヤジディ教からイスラム教に改宗しなければ、お前も同じ運命を辿ることになる」と脅される。

人質となった米国人女性は、最高指導者バグダディ容疑者の性奴隷となり、改宗と結婚を強要され、それを断ったために殺害された。さらに死んだ証拠として両親に彼女の写真を送りつけていた。

一方で、奴隷となっている人々を助けるのにも大金が必要になる。レンタカーや部族とのやりとりなどで、最大で2500ドル(30万円)がかかるとされており、昨年の秋には100人以上が救出された。つまり、(最大で)3000万円かかっている。

こうした性に関係する暴行はISに限らず、戦争時には絶対と言っていいほど、レイプが付きまとう。

こうした状況の中、国際的により厳しく対処していくため、「フェミサイド」を国際法に明記し、女性の権利を保護していく必要があるだろう。

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