なぜ若者はイスラム過激派に走るのか イスラム世界の人口爆発と過激派の台頭

イスラム教徒の数が世界で急増しているのには幾つかの理由がある。

なぜ若者はイスラム過激派に走るのか。

日本人7名が犠牲になったダッカ襲撃事件後の報道では、バングラデシュ国内では失踪した若者が150人以上いると言われており、その一部がテロリスト予備軍として過激派組織に加わった疑いも出ている。

フランスやベルギーなどヨーロッパ国内で計画、もしくは実行されたテロの犯人たちにも若者が多く、また中東や北アフリカ、欧米からISIS(Islamic State of Iraq and Syria/イラク・シリアのイスラム国)へと参加する戦闘員の多くも若者によって構成されている。

若者がイスラム過激派に走る、もっと言えばイスラム過激派が台頭する理由は様々だが、イスラム世界内部の問題としては、その急激な人口増加の問題が一つ挙げられるだろう。

2100年にはイスラム教徒が世界最大勢力になる

アメリカの世論調査機関である「ピュー・リサーチ・センター」が昨年4月に出した発表によれば、現在はキリスト教徒が最大勢力を占めている世界の宗教別人口は、2070年にはイスラム教徒の数がキリスト教徒とほぼ肩を並べ、2100年にはイスラム教徒が最大勢力になると予測されている。

キリスト教や仏教、ヒンドゥー教といった主要宗教と比べて、イスラム教は人口増加のペースが最も速く、その信者の数は2010年の16億人から、2050年までに27億6000万人に増える見通しだ(キリスト教徒は2010年の21億7000万人から2050年の29億2000万人に増えると予測)。2050年時点で約90億人になると予想されている世界人口だが、そのうち実に約3割をイスラム教徒が占めることになる。

2010年から2050年にかけてのキリスト教徒とイスラム教徒の人口増加を表したグラフ(Pew Research Center公式ホームページより)

なぜイスラム教徒の数が世界で急増しているのか?

イスラム教徒の数が世界で急増しているのには幾つかの理由がある。

一つ目は、イスラム教徒が住む国と地域が関係している。イスラム教徒の数が多い国は順に、1位-インドネシア(2億900万人)、2位-インド(1億7600万人)、3位-パキスタン(1億6700万人)、4位-バングラデシュ(1億3400万人)、5位-ナイジェリア(7700万人)となっており(( )内の数字はその国のイスラム教徒の数)(2010年の統計より)、南アジアやアフリカといった経済成長著しく、また元々の人口数が多くかつ出生率が高い国々に集中している。

一国内におけるイスラム教徒の出生率の高さも目立つ。例えばインドでは、イスラム教徒の出生率の方が同国の最大勢力を占めているヒンドゥー教徒よりもはるかに高く、その割合は2010年の14.4%から2050年には18.4%まで上昇することが予想されている。

また、2010年時点ではナイジェリアのイスラム教徒とクリスチャンの数はほぼ同等だが、こちらもイスラム教徒の出生率の方が高く、2050年にはナイジェリアの人口の大部分を占める58.5%まで増加すると予想されているのだ。

二つ目は、他主要宗教の信者と比べて、イスラム教徒の年齢中央値が最も若いというものが挙げられる。2010年時点での非イスラム教徒の年齢中央値が30歳であるのに対して、イスラム教徒の年齢中央値は7歳も若い23歳となっており、これは多くのイスラム教徒が数年以内に子作りや出産の時期を迎える事を意味する。これに上述した出生率の高さを加味すれば、如何にイスラム教徒の人口増加が著しいかが実感できる。

三つ目は、イスラム教の戒律が関係している。イスラム教では、その戒律で人為的な避妊が認められてなく、また妊娠中絶も禁じられている。その上、「子だくさん」を美徳とする風習があり、一般的にイスラム教徒の家庭は子供の数が多い(キリスト教カトリックでも避妊と中絶は禁止されている)(避妊や中絶を全くしないという事は無いようだが、カトリック教徒よりもイスラム教徒の方がより戒律を遵守していると考えられている)。

クリスチャンの女性が一人につき平均2.7人、非ムスリムの女性が2.3人の子供を持つのに対して、ムスリムの女性は一人につき平均3.1人の子供を持つ。

なぜイスラム教徒の人口爆発が若者を過激化に導くのか

上述したように、イスラム教徒の数は世界的にますます増加しているわけだが、この人口爆発はイスラム教徒の若者を過激派へと導く一つの要因になっている。

例えば、経済的な苦しさから地方の若者が出稼ぎで都市へとやって来るが、急激な人口増加と都市化を背景に、都市に移住をしても大した仕事を得ることが出来ず、貧困層を形成することになる。

また、地方出身のイスラム教徒には元々信仰心が強い者も多く、彼らが都市部へと足を運び、インターネットなどを通じたISやその他過激派組織の宣伝に触れる過程で、時間をかけて過激思想へと染まっていく事が考えられる。実際、今年1月にシンガポールで逮捕されたバングラデシュ人労働者たちには地方の出身者が多く、信仰心が元々強い者たちが集まっていたと言われている。

また、中東や北アフリカのイスラム諸国では失業率も高く、急激に増加する若者たちに見合うだけの雇用が確保されていないのも、彼らを過激化に導く一つの要因になり得る。特に、高校や大学を卒業し、教育を受けた優秀な若者が仕事に就くことが出来ないとき、それは社会や政府への反感や怒りへとも変わる。その「若者の社会への反乱」が、"ジハード"という名の下に崇高な理由を見出すことで、彼らの目に過激思想が魅力に映ることもある。結果として、アルカイダやISといった国際テロ組織に「教化」される事へと繋がるのだ。

加えて、(最近ではアメリカ率いる有志連合の空爆や経済制裁の甲斐もあって資金難に苦しんではいるが)台頭初期のISに参加する戦闘員の多くが、金銭的な待遇の良さを理由としていたことは広く知られている。この「貧困からイスラム過激派へ加入する」という構図は、1979年のソ連によるアフガニスタン侵攻時から見られた。

イスラム聖職者たちによって、義勇兵となりアフガニスタンでソ連軍と戦うことが奨励されたが、義勇兵になることで得られる金品や衣食住といった待遇を求めて、貧困に苦しむ多くの若者がアフガニスタンへ赴いたと言われている。

そして元義勇兵たちの一部が、その後「欧米対イスラム」の「闘争」に大義を見出し、イスラム過激派の台頭へと繋がったと言われる。フセイン政権打倒後、アメリカによるイラク軍解体や地元工場の閉鎖などによってイスラム教スンニ派の人々が路頭に迷い、IS台頭の一因が担われた事を忘れてはならない。

記事執筆者:原貫太(早稲田大学4年)

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