イスラム国は「ジェノサイド(大量虐殺)」に関与、アメリカ政府が発言。注目すべき点は何か?

3月17日、アメリカのケリー国務長官は、ISが行っているキリスト教徒やイスラム教シーア派の殺害は、ジェノサイドに相当すると発言した。

今月17日、アメリカ合衆国のジョン・ケリー国務長官は、「イスラム国(以下IS)がイラクやシリアで行っているキリスト教徒や少数派ヤジディ教徒、イスラム教シーア派の殺害は、ジェノサイド(大量虐殺)に相当する」と発言。ケリー長官は会見において、「ISはキリスト教徒を、キリスト教徒だから殺している。ヤジディ教徒を、ヤジディ教徒だから殺している。イスラム教シーア派の人々を、シーア派だから殺している。」と非難した。同時に、ISはシリア・イラクの同組織支配地域において、人道に対する罪・民族浄化に対する責任も負っていると発言した。今月14日には、アメリカ議会下院において賛成393-反対0で、ISによる殺害行為を「ジェノサイド」として非難する決議が採択されていた。

米国務省は、同声明はアメリカに新たな法的義務を課すものではないとしているが、ケリー長官は国際社会と更なる連携を強め、ISの壊滅を目指す姿勢を強調した。

「ジェノサイド」(大量虐殺)の定義は?

「ジェノサイド」(Genocide)という言葉は、ユダヤ系ポーランド人法律家のラファエル・レムキンによって造られた言葉であり、彼は1944年に『Axis Rule in Occupied Europe(占領下のヨーロッパにおける枢軸国の統治)』を刊行し、同書の中で初めて「ジェノサイド」(Genocide)という言葉を使用した。

1948年に国連で採択された「集団殺害罪の防止および処罰に関する条約」(Convention on the Prevention and Punishment of the Crime of Genocide)第2条によれば、ジェノサイドとは、"国民的、民族的、人種的、または宗教的な集団の全部または一部を、それ自体として破壊する意図"をもって行われる以下5つの行為を意味する。

・集団の構成員を殺すこと

・集団の構成員に対して重大な身体的又は精神的な危害を加えること

・集団に対してその全部又は一部に身体的な破壊をもたらすよう意図された生活条件を故意に課すること

・集団内における出生を妨げることを意図した措置を課すること

・集団の子供を他の集団へと強制的に移すこと

ダルフール紛争以来の「ジェノサイド」(大量虐殺)認定

進行中の紛争や人道危機に対してアメリカ政府が「ジェノサイド」と認定するのは今回が2回目であり、前回はジョージ・W・ブッシュ政権時代の元国務長官コリン・パウエル氏(在任期間2001年-2005年)が、世界最悪の人道危機と呼ばれたアフリカ・スーダンでのダルフール紛争を「ジェノサイド」と表現している(2004年)。

2003年2月、アラブ系中心の政府に不満を募らせたダルフール地方の黒人系住民が「スーダン解放軍」(Sudan Liberation Army)、「正義と平等運動」(Justice and Equality Movement)などの反政府勢力を組織して蜂起、紛争が勃発した。その後、スーダン政府軍と政府軍を支援する民兵組織「ジャンジャウィード」(Janjaweed、"馬に乗った悪魔"を意味する)により黒人居住の村々が襲撃され、地元の農民や一般市民はジャンジャウィードの手による無差別殺戮・強制移住の犠牲となり、40万人以上が死亡、250万人以上が避難民となった。スーダン政府はジャンジャウィードとの繋がりを否定している。

ルワンダ大虐殺(1994年)でのアメリカの「過ち」

少数派ツチ族と穏健派フツ族を中心に100日間で約80万人が犠牲になったと言われるルワンダ大虐殺(1994年)。当時、アメリカ政府はルワンダで進行中の事態を「ジェノサイド」という言葉を使って形容することを躊躇した。

ルワンダ大虐殺の前年である1993年までは世界の平和維持活動を積極的に行ってきたアメリカだったが、映画『ブラックホーク・ダウン』でも描かれたように、ソマリア内戦へ平和維持軍として軍事介入を試みた結果米兵18人が死亡。遺体が市内を引き回される映像が流されるなどした結果、米国の世論は撤退や紛争地への介入に対する消極的な姿勢へと大きく傾いた。その為、ルワンダ大虐殺当時のビル・クリントン大統領は、同国へのアメリカの関与に対しても消極的になった。結果として、ルワンダで進行中の事態を「ジェノサイド」と認める発言をしてしまうと、「集団殺害罪の防止および処罰に関する条約」批准国として行動・介入する必要性が生じてくるため、「ジェノサイド」という言葉の使用を躊躇したとされる。

イスラム国に対しては、有志連合軍による空爆や経済制裁など、国際社会は既に積極的な介入をしているため、今回のアメリカ政府による「ジェノサイド」認定が関係諸国の政策に対して大きな影響力を及ぼすことはあまり考えられない。しかしながら、対ISで国際社会をリードするアメリカがISの行為を「ジェノサイド」と認め、その壊滅に向けて新たな誓いを立てたことには大きな意義がある。ルワンダ大虐殺での国際社会の失敗も踏まえ、まずは安全保障理事会が今後どう機能していくかに注目したい。

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